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4-2

 なにやら話し声が聞こえる?


「……だから、この機会に…」

「…んなこと言っても、なかなか…て……そ…だが…」


 知らない男と女の会話。

 薄靄のかかった頭で聞いていたらとんでもない単語が聞こえた。


「……だから、これを機会に蒼矢国王を毒で……」


 あまりに不穏な単語にギョッとして目を開くが真っ暗なままだ。

 あれ?一体ここは?

 そう考えている間も話し声は聞こえてくる。


「……いい?機会は一度きり。…舞踏会のフィナーレに王子の相手が発表されるとき」

「ああ、その時ばかりは皆の目も王子の方で国王の飲みものなどに気をつけるモノなどいないだろうからな」

「そこで国王の飲み物に…」


 ……そのあとの乾杯で…、と話し声は途切れることなく続いているが、あまりの不穏な話にあたしはただ固まるしかない。


(い、一体何が?!)


 おこってるんだーーーー!

 やがて話が終わったのか、人が去っていく気配がした。

 そこまでいって、あたしはそっとその場から動いた。


 本当にここはどこだろう。見回すが暗くてよくわからない。

 何かふかふかしたものの上にいることだけはわかるが、立ち上がろうともがくが、動けば動いくほど沈み込むためなかなか這い上がれなかった。

 ようやく淵らしき硬い場所にしがみつき、脱出する。

 地面に降り立って周囲を見回すと、目が闇になれたのかぼんやりとだが部屋の様子が見て取れた。


 どうやらここはリネン室のようだ。

 先ほど落ちたのはシーツを集めたコンテナだったようだ。


 さて、どうしてそんな場所に私はいるのか。

 考えるまでもなくあの自称神様のせいだろう。

 しかも話の流れを考えるにどう考えてもここは城の中だろう。

 やばい、どう考えてもここ関係者以外立ち入り禁止な場所だよね?

 こんなところにいるのがバレたら、ヘタすりゃ投獄される。


 いくら今日が国民を招いての舞踏会とは言え、一般客に解放されている場所など入口近くのエントランスホールだけだろう。

 しかも先程触れたシーツは手触りから見ても、極上のシルクの混ざった高級品だ。

 おそらく王族、あるいは貴族たちが使うものと考えるべきだ。

 そんなものがあるリネン室など王宮深部と考えるべきで、そんなところに入り込んでいる女を怪しいと思わない人間がどこにいる。

 見つかればおしまいだ。


(……それにしてもさっきの会話)


 ここが王宮の深部と考えれば、とんでもない話になる。

 どう聞いても国王暗殺計画の話し合いだったとしか思えない。

 やばい、なんかとんでもないことを聞いてしまった。

 どうしよう。どう考えても誰かに伝えるべきだろうけど、そもそもあの二人が誰だかもわからないし、あたし自身不可抗力とは言え不法侵入している身だ。

 こんなところからのこのこ出ていき、衛兵に通報しても信じてもらうどころか捕まるのはあたしだ。

 だが聞いた以上放っておくにはあまりに重大な内容すぎる。

 今国王が暗殺されるようなことがあればきっと国は混乱してしまう。


 実は蒼矢国が平和になったのはここ最近のことだ。

 つい十年前まで前王の圧政により国内は荒れていた。

 他国との戦争に加え、疫病が蔓延し、愚かな貴族は内乱を起こし、最早国家の存続すら危ぶまれていた。

 そんな中先王の急逝を受けて十年前に即位したのが今の国王陛下だ。

 突然の即位だったにも関わらず、あっという間に内乱を退け、周辺国との平和条約を結ぶなど戦争を終わらせた。

 それだけでなく産業を新たに興し回復させ、疫病の治療に金を惜しまず、富める者も貧しい者もまとめて治療してくれる治療院なども建ててくれた。

 これまで貴族だけのものだった魔道具を一般家庭にまで広めたのも現国王の功績で今や周辺国の中でも豊かな国となっている。

 今の蒼矢の平和があるのは国王のおかげだ。


 しかし回復しているとは言え、この十年で急激に発展した国だ。

 しかもそれはカリスマ性に富んだ現国王の力によるところがほとんどで、まだまだ安定というには不安が残る。

 そんな今、国王を失えばどうなるのか。

 考えるだけでも恐ろしい。


 とにかくどうするにしてもここからでなければ。

 あたしは、なんとかここから誰にも見つからずに出る方法はないかと考える。

 見ればあたしの服は今まできていた灰色のものではなく、上等の布で作られた紺色のお着せとエプロンドレスに変わっている。所謂女中(メイド)服だ。

 女中の振りをして外に出られないだろうか。

 というか、それしか方法ないよな。うん。


 先ほどの暗殺の話を誰に伝えるかも出てから考えようと、足を踏み出した時だった。


「っ!」


 どべっ、何かにつまづいて盛大にこけた。

 ううう、痛い。

 誰だ、こんなところに物をおいたのは!


 暗くて気づかなかったが足元に黒い箱のようなものがあり、あたしはそれにつまづいてしまったらしい。

 一体なんなのかと、睨みつけたあたしは驚いた。

 そのフォルムに見覚えがあったのだ。


(…え?これって)


 見覚えというより聞き覚えか。

 そろりと触るとつるっとした感触に固い表面。

 大きさとしては小さな幼児くらいか。

 四角い箱から細長いくだのようなものが伸びそれは束ねられ横に置かれている。

 …うん、話に聞いていた形状と一致する。

 あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。


(……これが高圧洗浄機)


 持ち上げてみると見た目より軽い。

 下をみれば移動しやすいように車輪がついている。女子でも手軽に持ち運べるようにか。

 ……完璧じゃないか。


(つ、使ってみたい…)


 恐ろしい衝動が体を駆け抜ける。

 一体これでどれほど汚れが落ちるのか。

 今までこすっても取れなかったかなり強固な汚れでも取れるとか。


 誘惑に洗浄機の取手に手が伸びそうになるが、理性が訴える。


(…まてまて、どう考えてもそんな場合じゃないでしょ?国を揺るがすかもしれない情報握ってるのよ?早くここからでて、誰かに伝えなきゃ!)


 理性は必死でそう訴える。だが。


(いいじゃない。どうせこんな荒唐無稽な話、誰も信じないって。

 それに王の警備だってザルじゃないんだし、大丈夫だって。

 それより、こんな機会またあるかわからないんだし。

 しかも今の服装女中だし、使ってるの誰かに見られても問題ないって)


 そんな悪魔の誘惑が胸をくすぐる。

 うううう。どうしたら。

 いや、どうするのかなんて明らかに決まってるんだけどさ。

 あたしは誘惑を振り払うように立ち上がった。


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