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童話パロディ企画。

※全てif話。物語の進行上にはまったく関係ございません。

※書きたかったからかいた、それだけです。苦情は受け付けません。


・童話シンデレラモチーフ。世界観はファンタジー。

・今回は男サイド。女の子達ほどギャグでもない。しかも落ちないグダグダ感。

・微妙な終わり方。

・突っ込みは受け付けませんww。

・キャストは以下のとおり。

 魔法使い→紅原円

 冒険者1→平戸琢磨

 冒険者2→霧島大翔

 洋菓子店員→藤崎竜輝

・キャラ崩壊しているかも?気をつけてご生還ください。

・本編のネタバレ要素はありませんが、本編読後がもちろん推奨

 魔王と双子侯爵を見送った紅原は城を出た。

 目指すは先日行った洋菓子店だ。

 あの姉妹がまたいる可能性は低いが、あの店以外に接点がないため、あそこで聴き込もうと思ったのだ。


 いかにも女性が好きそうな白壁とレンガ造りの建物が見えた。

 城へ通じる大通りから数本路地に入ったそこは、立地が悪い割には割と繁盛店で大抵扉の前に列が出来ている。

 しかしその行列は珍しくない。

 だがその原因を知っている紅原はさっさとその店に近づき、扉にかけられた「Closed」の文字を無視して、扉を開いた。

 からん、と音がなる。

 店内に人の姿はない。

 しかし、扉のベルの音で誰かが気づいたようで、ぱたぱたとこちらに向かう足音が聞こえた。

 厨房だろうか。奥に通じるらしい扉が開いたかと思えば、


「は、はいぃぃ!どな…たうわぁあ!」


 扉から出てきた人物が突然、派手に転んだ。

 同時に体を支えようとしたのか、店内の商品棚に引いてあった布をその手が引っ張るのを紅原は見た。

 けれどそんなもので人の体が支えられるわけがない。

 宙を舞う綺麗にラッピングされた焼き菓子と可愛らしく飾り付けられたディスプレイ。

 一瞬で店内がピンク色のものが多数舞う様に呆気にとられる。


がっちゃん、がしゃがちゃ、からららら。


 盛大な音が当たりを支配し、最後にかしゃんと、メガネが床を滑る音が響いて、一瞬沈黙がその場を支配する。

 散乱する菓子と飾りと壊れた飾り棚。

 その真ん中で地面に這い蹲る形で倒れる小柄な姿に呆然とするしかない。


 一応言っておくが紅原は何もしていない。そして人物が転んだ場所には何もない。

 …いや、ひとつだけあった。

 それは、転んだ人物の足元に打ち捨てられていた黄色い物体。

 …紅原はバナナの皮で転んだ人間を生で見たのは初めてだった。


「あたたたた…」


 打ったのだろうか。額を抑えながらバナナの皮で転んだ人間が体を起こした。

 その人物の顔を見て、思いがけず紅原は目を見開いた。

 美少女だ。

 こぼれそうなほど大きな瞳に長いまつげ、小さい鼻に桜色の唇。困ったように眉を八の字型にして、どこか怯えたようにこちらを見上げてくる。


「あ。あの…す、すみませんが、お客様?

 本日は舞踏会用のお菓子を作るのにて手一杯でお店はお休みしております」


 思ったより低い声だが、たどたどしくそう説明する彼女は白いコック服姿だ。

 それがまたサイズが合わずどこかだぼっとしているため、非常に可愛らしい。

 ここのパティシエ見習いか。いっそ給仕をしていたほうがしっくりくる。

 閉店中に問答無用で入ってきた紅原におびえているらしくビクビクしている。

 小動物系の可愛らしさだ。

 紅原はこういった幼女系は好きではないが、こういったタイプが好きな人間にはたまらないのかもしれない。

 ふと、王子への供物…じゃない、花嫁候補に着飾らせるのは彼女でもいいかと思った。

 紅原と同じく王子に幼女趣味はないが、要は紅原が真面目に女の子を着飾らせって城に上がらせたという事実があればいいのだ。

 どうせ国中の娘に招待状を送ったというのだ。この少女のもらっているだろう。

 紅原はこの少女を支援しようと、声をかけようとした時だった。


 突然膨れ上がった殺気。

 気がついたときには防御結界を張っていた。


 ばじぃっ!


 何か強烈なエネルギーのようなものが当たって、一瞬で結界が破壊される。

 突然のことに驚いたが、紅原は殺気を追って振り返った。

 いつの間にか紅原と少女は数人の黒い影に囲まれていた。

 視線だけで影の数を追う。


 …三、四…五人はいる。一体いつの間に囲まれていたのだろうか。

 背中に冷たい汗が流れた。

 紅原は確かに一族の中では弱いが、これでも宮廷魔術師の端くれだ。

 それなりに戦闘訓練も受けている。

 しかし、流石に五人も一人で相手にするのはきつい。

 しかもおそらくこいつらは隣国の暗殺者だ。

 噂で何度か王子の婚約者に暗殺者が差し向けられていたことを知っていた。


「ひ、ひぃえぃい!あ、あなたたち。だ、誰ですかぁぁああ?」


 黒い影を見て怯える少女。

 少女を見て、囲む影の和が狭まる。

 おそらく彼女が王子の婚約者だと勘違いしているのだろう。

 しかし紅原には先日見た王子の婚約者と似ても似つかないこの少女が別人であることは知っている。


「…一応忠告するけど、この子はお前らのターゲットとちゃうで?」


 だが、囲む影は散ることはなく、さらに話を縮めてくる。

 やはりこちらの言うことを聞く気はないか。

 さて、どうしようかと考えた時だった。


「おい、大翔!どうした…っ!?な、…お前たち、誰だ?!」


 突然、眼鏡の青年が奥の扉から出てきた。

 青年がぎょっと目を見開いたのが見えた瞬間、五人のうちの二人が青年に向かって動く。

 次の瞬間には青年は血を吹き倒れて…はいなかった。


「突然なんだよ。お前ら」


 どこから取り出したのか銀色のナイフを手に二人相手にあっさりいなしてみせた。

 彼の姿も少女と同じく白いコック服だが、その動きは手練の冒険者のものだ。


「うわああん、琢磨ぁ!」

「おい、大翔、泣いてないで魔法使え!こいつら外に追い出せ!」

「う、うう、わかった!ええっと……」


 青年の声で少女が魔力を練り始めたのが、わかった。

 だが、その練り方を見て紅原は引きつった。

 少女の魔力はかなり強いらしく、その属性は風だった。

 彼女の集める風の魔力が彼女を中心にうねり始める。

 あんなのを放てば、こんな小さな店内あっさりと木っ端微塵になる。

 それに気がついたのだろう、周りを囲んでいた黒い影の気配が一斉になくなる。

 逃げたようだ。しかし少女の魔力の本流は止まらない。

 そのまま集めた魔力の解放に少女の唇が動く。


「暴風烈……」

「やめろ」


 少女が呪文を言い切る前に、突然彼女の背後から足が伸びてきて少女を足蹴にする。


「きゃう!」


 少女が上げた悲鳴とともに呪文は中断され、風は霧散する。

 少女の背後にはメガネの青年とは別の短髪の背の高い少年の姿があった。


「あたたた、店長代理…?」

「お、おい!大翔に何をするんだ!」


 メガネの青年が少年に慌てて食ってかかる。

 冒険者である青年の迫力はそこそこあり、普通の町人程度であればおそらく萎縮する程度の迫力があったが、少年はむしろ半眼で彼を睨んだ。


「何をするんだはこちらのセリフだ!お前ら、ギルドから受けた仕事だってわかってるのか?店を潰す気か?」


 言いながら少年が崩れた店内のディスプレイを指差した。


「あれは、あいつらが襲ってきたから…」

「大翔さん。あんたがやったんだろ?」

「う…」


 少年の言葉に、少女が顔色を変える。その顔を見た青年が少女に詰め寄った。


「ど・う・し・て!ただ客に休業言いに行くだけであんな惨事になるんだよ!」

「だ、だって!」

「室内で魔法使わせようとしたあんたも同罪だよ。琢磨さん」


 少年の言葉に青年の顔が引きつった。

 少年が深々と溜息を吐いた。


「ともかく、今は納品で忙しいから厨房に戻ってくれ。

 崩れたディスプレイの掃除はその後できっちりやってもらうし、代金は依頼料から引かせてもらう」

「そ、そんな!殆どそれじゃあただ働きじゃないか!」

「借金にならないだけ、ましだと思ってくれ」

「くっ、これじゃあ普通に討伐クエストに参加したほうが実入り良かったのに…」

「それは言わない約束でしょ?お金がなくて討伐クエストの保証金払えなかったんだから」


 悔しそうに地団駄を踏む青年の口ぶりからすればおそらくギルド所属の冒険者のようだ。

 そしてその横でそっと肩を落として溜息を吐く少女はその相棒で魔法使いのようだと推察できた。


 冒険者ギルドは主に二種類のクエストを取り扱っている。主に街の外に出る魔物や野盗を狩る、狩りクエスト、街中で御用聞きよろしくなんでも手伝う街クエストの二つだ。

 両者の仕事内容以外に大きな違いは戦闘のある狩りクエストは危険が伴うため、受けるにはある程度の額の保証金を用意しなければならない。対して街クエストは殆ど保証金はいらないといった点だ。

 おそらく彼らはお金がなくて狩りクエストに行けず、雑用クエストでその資金を稼ごうとしていたのだろう。


「金がないって言ったって。ギリギリ払えただろう。それなのにお前がこんな仕事受けてくるから」

「ギリギリ払って生活費どうすんのさ。琢磨は無計画すぎるんだから」

「だからといってこんな金の少ない街クエ引き受けんなよ。どうせこの店であの娘に会えるとか思ったんだろ?」

「っ!そ、そんなことは…。少しあったけど、でも…」

「……あんたたち、口動かす暇があったら、厨房に行ってくれ。

 これ以上働かないなら、本当に弁償金要求するぞ?」


 店長代理の言葉に二人は口を噤んだ。

 そして渋々と言った体で二人は肩を落として出てきた扉の奥へ消えていった。


「で?あんたはなんの用なんだ?紅原様?」


 名前を呼ばれてハッとする。

 その場に残ったのは店長代理と呼ばれた少年だ。

 ここの店主の息子だった。


「えっと、竜輝くん、やったっけ?」

「……まだ納品物は出来てない」


 そっけないやりとりに紅原は内心面倒な、と思う。

 竜輝はなぜか紅原を初対面から嫌っている。

 別に親しくしたいわけではないので問題ないといえばないのだが、やはりその態度はあまり気分の良いものではない。

 だが、一応こちらが年上なので、あまり年下に腹を立てるものではないと思い、いらだちを隠して別の話を振る。


「…女の子に手を上げるのは感心せえへんな?」

「…?まさか、大翔さんのこと?あの人、れっきとした男だよ?」

「え?」


 驚きに声をあげる。

 そう言えば、男の名前で呼ばれていた気もする。

 紅原の反応に特別興味もなさそうに竜輝が肩をすくめた。


「まあ、あの人の外見じゃ勘違いしても仕方ないとは思うけど。

 …それより、なに?忙しいから帰ってくれない?

 あんたが頼んだ仕事なのが業腹だけど、一応仕事だから頑張っているんだけど?

 邪魔されると間に合わないんで」


 けんもほろろな対応に顔がひきつりそうになる。

 これではあの姉妹の行方を聞くのも面倒そうだ。

 これは諦めた方がいいかと思っていた時だった。


「こら!竜輝、お前、紅原様に対してその態度はなんだ!」


 野太い声と同時に中年の男性が厨房から顔を出す。


「っ、親父」

「…すみませんね、紅原様。礼儀をいらない馬鹿が失礼しました」


 竜輝の父親で、洋菓子店のオーナーが恭しく頭を下げてくる。

 それが普通の対応だった。

 一応紅原も腐っても貴族だ。竜輝のような対応の方が珍しい。

 オーナーの登場に少なからず紅原はほっとした。


「いえ、別に気にしないでください」


 よそ行きの丁寧語で対応するとオーナーはさらに恐縮した。


「いえいえ、愚息が本当に失礼を。お城で食される菓子をこのような街の菓子店に発注していただけるなど、一生に一度あるかないかの名誉なこと。

 その機会を与えてくださった紅原様にはいくら感謝しても足りないのにまったく、バカ息子で…」

「…っ親父!」

「お前は黙っていろ!」


 父親の一括で不満そうながらも竜輝は黙り込む。

 ようやく話が出来そうな相手に紅原はほっとした。


「本当に躾が行き届きませんで申し訳ありません。…しかし本日はどのようなご用向きで?まだお約束の納品時間まで間が…」

「いえ、発注の品物のはなしではないのです。…実は」


 宮廷魔術師に課せられた使命は極秘事項なので、説明するわけにはいかない。

 そこで適当な話を捏ち上げて紅原はあの姉妹の名前と住所を聞き出した。


「…そうですか。姉が美香、妹が環…」

「そうですそうです。二人共いい娘たちでね。特に妹の環ちゃんは本当にうちの娘と仲良くて、遊びに来ては止まっていったりしているんです。この間など…」


 聞いてもいないことだが、自身の娘と妹の方の昔のエピソードを語ろうとする父親の姿に思わず苦笑した。どうも娘より他人の娘を溺愛しているような様子に、少しだけ地味だった妹の方に興味がわく。


「あ、お姉さんの美香ちゃんもすごい娘なんですよ?

 噂ではあの黄土侯爵閣下お二人からエスコートされるって…いや、うちの娘も負けてませんけどね!」


 おやおや、と思った。

 先程、双子侯爵が言っていた“みかちゃん”とはあの姉の方だったとは。

 これで王子にあてがうために、姉を着飾らせてはいらぬ反感を侯爵から買う羽目になってしまう。


(…これは狙うはますます妹の方かね…?)


 いつまでも止むことのない娘たち自慢にそろそろ時間が惜しくなってきた紅原は、適当なところで話を切って、オーナーに礼をいい、店を出た。


「おい、ちょっと待て!」


 さて、ようやく知れた娘の居場所まで行こうと、店を出たところで突然呼び止められる。

 振り返れば、竜輝が射殺しそうな目で紅原を睨みつけているのが見えた。

 その視線の苛烈さに思いがけず驚く。


「…お前、環姉のところにまさか行くつもりじゃないだろうな?」

 一瞬誰のことを言われているのかわからなかったが、そう言えば会いにいくつもりの妹の名前がそんな名だったことを思い出す。


「環姉に近づくな。…近づいたらただじゃ置かない」


 視線で人が殺せるとしたら死んでいそうな視線で竜輝が紅原を睨みつける。

 その視線にどんどんその環という妹の存在が気になりだす。

 一体どんな娘なのだろう。

 先日殆どすれ違うような形でしか彼女のことを見なかった。

 姉の華やかさに比べて地味だという印象しかない。

 だが、先ほどのオーナーの話にしても目の前の生意気な子供の言葉といい、なかなかに面白そうな娘だと興味が湧く。

 なんだか会うのが楽しみになってきた。

 だが、今はこの目の前の生意気な黙らせてからか。


「…俺が誰に会おうがお前に関係ないし。

 その、環ちゃん?に会うのになんでお前に指図されなあかんのや?」

「関係ある!俺は環姉の…」

「弟やろ?」

「っ…!」


 紅原の言葉に竜輝は黙り込んだ。

 やはり図星か。紅原は皮肉めいた笑みを浮かべた。

 先日彼の姉と仲よく話していた姿を紅原は見ていた。

 どうも環と彼の姉は幼馴染らしく、そしてその弟という位置が彼の位置であることは見ていてわかった。

 弱い我が身、処世術で身につけた人間観察は得意だ。

 ニヤニヤと笑いながら手の甲を上下に揺らす。


「というわけで、さっさと帰ったほうが身のためやで?…弟くん?」

「っ!お前…!」

「くぉぅらぁ!!竜輝!どこいった!さっさと手伝わんか!」


 店内から怒鳴り声が聞こえ、竜輝がはっと振り返る。

 彼の父親の声だ。

 竜輝は悔しそうに紅原を人睨みすると、荒々しく店内に戻っていった。


 それを確認してから、紅原はなんだか自分の口角が自然に上がっていくのを感じた。

 これから会いに行こうとしている環という少女がどういう存在なのだろうか。

 思い出すのは先日ちらりと見た灰色のドレスを着た地味な少女。

 しかし彼女はただの地味な少女というだけではないのだろう。

 黄土の双子侯爵や魔王陛下を虜にする姉たちを持ち、あのケーキ屋の弟をあれほど虜にしておきながら、完全に圏外に追いやるその神経。


 なんだか人に会うのにこんな楽しみなのは久しぶりだ。

 当初は彼女を着飾らせて、適当に城に送り込むつもりだったが、それでは少し面白くない気がした。

 だがそれ以外に彼女に会う口実がないのも事実。

 とりあえずあってから考えるか、と考え、紅原はその魔力を解放する。


 (さて、灰色の(シンデレラ)に会いに行きますか!)


 紅原はふわりと浮き上がり転移の魔法を使った。


シンデレラネタ男サイド後編でござい。

この後紅原は環に接触するもふざけすぎて、逃げられる、と。

そこまで書くと、なんとなく他の連中が環に接触してないのに紅原だけひいきになっちゃいそうなのでシンデレラネタはここで終わりです。

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