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リクエストSS2〈バッドエンド④忘却〉

天井様よりリクエストいただきました鬱逆ハーのSS集です。

全5話。R15

各回でヒーローが違います。

※ 倉庫入りで最終話だけ少し変えました。

※バッドエンドは変わらず救いはないです。


完全にゲームのバッドエンドを意識して描きました。

設定はゲーム的には、


・共通ルートで、そこそこみんなと仲がいい状態。

・紅原ルートに入ったものの、全てグッドエンドへの選択肢を外しまくる。


といったところ。

ほら、もう、嫌な予感しかしない(・言・)


キーワードも拉致、監禁、別離、陵辱(に近い)、死にネタ、残酷表現ありです。

嫌ならスルーかバックか記憶から消す方向で。


・何度も言いますが100%、良いエンディングにはなりません。後味も最悪でしょう。

・まあ、それでもマルチエンドのゲームの場合では、こういったバッドも味わいですが。

・ハッピーエンド史上主義は見ないほうが懸命です。


※全てif話。物語の進行上にはまったく関係ございません。

※書きたかったからかいた、それだけです。苦情は受け付けません。


・キャラ崩壊しているかも?気をつけてご生還ください。

・本編のネタバレ要素は多少有り。本編読後推奨

------------------------


以上です。

OKなら、以下。

「多岐」


 廊下を歩く姿を目にして、思い切って声をかければ、振り返る表情は驚いていた。

 それから、名前を呼んでふわりと微笑みを浮かべられた。


「桃李先生、何か?」


 そう言ってごく自然に近づいてくる女子生徒の名前は多岐環。

 桃李が今一番気にかかる生徒でもある。

 環は桃李の手にした原稿を目ざとく見つけ、首をかしげた。


「それ、コピーするんですか?」


 環は桃李の担当するクラスの生徒ではない。

 しかも、教科担当ですら無く、本来ほとんど関わることのなかったのだが、とある事件で知り合った。

 あまり良い出会い方をしなかったのだが、その後テスト勉強で困っていた彼女に補講をするなどして、彼女からの信頼を勝ち得た。

 その後も勉強の面倒を見る代わりに、桃李の仕事を手伝ってもらったりという関係が続いていた。


「ああ、そうだ。プリントのコピーを頼みたいのだが、時間は大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ。急ぎですか?」

「ああ、明後日に受け持ちのクラスに配りたい。明日中に仕上げてくれれば良いから……」


 環の質問に答えつつ、プリントを差し出せば、ごく自然に環は受け取った。

 それから、コピーに関するいくつかの質問をしてくるので、それに答えながら、桃李は環の顔色をうかがった。


 以前よりほっそりとした印象はあったが、顔色は良さそうで、桃李から受け取ったプリントに視線を落としている。

 その様子に安堵していれば、不意に環が視線をあげた。


「……ということでよろしいですか? 桃李先生」

「え?」


 どうやら環はなにかを言っていたらしいのだが、聞き伸ばしてしまった。


「プリントの枚数の話です。百五十で間違いないですか?」

「え、あ。ああ、それで大丈夫だ」


 言い直され、頷けば環がくすっとわらった。


「……そんなに緊張しないでくださいよ」

「え?」

「心配してくれてありがとうございます」

「……いや、心配などしてないが」


 お礼を言われて困惑し、思わず否定してしまうが、環は困ったように微笑んだ。


「ごまかさなくてもわかりますよ。ここ一月ずっと心配する人たちの目を見続けてきたんですから」

「だが……」

「あの事件から一月経つんです。いつまでも引きずっても要られません。だから気にしないでください」


 そう言う彼女の口調に気負いはないように思われた。

 だから、桃李はためらいがちに、聞いた。


「本当に大丈夫なのか?」

「……はい。桃李先生にはずいぶん心配をしてもらっていたのに、二月も無視するような形になって申し訳ありませんでした」


 頭を下げての謝罪に桃李は息を飲む。

 実は、桃李が環に声を掛けるのはおよそ二月ぶりの事だった。

 環がとある事件に巻き込まれ、心身ともに疲弊しており、仕事を頼むどころか声もかけずらい状態だったからだ。


 その事件の大まかな概要は桃李も聞いていた。

 事件を起こした加害者の少年が桃李が顧問を務める月下騎士会の生徒だったからだ。

 よく知る人物だけに、今でも正直そんな事を本当にしたということが信じられない。

 しかし、環が半月ほど失踪していたこと、彼女が学園に帰還したと入れ替わるようにその少年が姿を消したことでそれが事実であることを納得せざるを得なかった。


 事件後、一週間ほどの検査入院と療養後、環は学園に復帰した。

 それから二週間ほどは明らかに無理しているとわかるような顔色だった。

 桃李としても心配だったのだが、彼女の周りには彼女を心配する人間が集まっていたし、加害少年とも接点のある桃李に環が接することで事件を思い出し嫌な思いをするのでは、と思って声をかけられずいたのだ。


「別に、私に謝罪など必要ない。君のほうが……その、大変だったんだから」

「それでも、気を使って距離を置いてくださっていたのに。せめて、こちらから声を掛けるべきでした。

あたしが気負わずに済むように仕事を作ってまで、普通に声をかけようとしてくださって……」


 その一言に流石に固まった。


「……気付いていたのか」

「桃李先生の頼み事はいつだってギリギリじゃないです?」


 一日以上も余裕のある仕事なんかあたしに頼んだことないでしょ? と、クスクスと笑われれば、いつも彼女に急ぎの仕事を押し付けていた事を自覚してどうにも居心地が悪い。

 それに、どうやらこちらの気遣いは相手に年下相手に筒抜けだったのだと知れなんとも恥ずかしくなった。


「……その様子なら大丈夫そうだな」

「本当にご心配おかけしました」


「いや、本当に謝罪など良いんだ。むしろ君に謝らなければならないのはこちらなんだから」

「え?桃李先生に謝ってもらうことなんて、何も……」

「いや、それは違う。あの事件の一端は私にもある」


 実際に桃李は二人を知り、指導する立場にいた。

 何らかの予兆に気づいていれば、防げたかもしれないと、事件を知った後、何度自分を攻めたか知れない。


「私がもっと彼に目を配っていれば、君をあんな目に合わせずに澄んだかもしれない。私の指導が至らなかったばかりに……」

「それは違いますよ?」


 環の平坦な声に、ハッとして顔を上げれば、環がにっこりと微笑んだ。


「生徒の行動全てが教師の責任なんてありえません」


 先生の指導に問題は何もありません、と告げる環の表情には気負いは見られない。

 だが、なぜだろう。笑みを浮かべる、その瞳は不思議と笑っているように見えなかった。

 こんな表情をする少女だっただろうか。

 その違和感を感じつつも、桃李は自らの懺悔を優先させた。


「だが……」

「あら、そこにいるのは、桃李先生では!」


 声に驚いて振り返れば、数人ほどの女子生徒が連れ立ってやってくるのが見えた。

 顔に見覚えがあり、思わず顔を顰めそうになってしまった。

 彼女たちは、自称桃李のファンクラブだ。


 裏戸学園には、複数のファンクラブが学校公認である。

 月下騎士会と呼ばれる生徒会役員たちのものだ。

 絶対的な権力を持ち、なおかつ容姿に恵まれた存在である彼らはいるだけで女子生徒を魅了し、なおかつ騒動の原因となる。

 そのために彼らを見て女子生徒が暴走しないようにと、組織されたのだ。

 他にもいろいろ理由はあるのだが、そんな理由で組織されたファンクラブだが、もちろんそれは生徒のみの話。


 教師である桃李は彼女たちの組織も存在も認めていない。

 完全非公認なのだが、彼女たちはそれでも全く気に留めた様子もなく、組織を名乗り桃李のそばに近寄ってくる。

 ただ近くをウロウロするだけなら、まあ許容しないでもないが、彼女たちの場合、前科があった。

 それが桃李が内心で顔をしかめる原因だった。


「桃李先生、お仕事、お疲れ様です!」

「っわ」


 猫なで声のような高い声で近づく彼女たちは、桃李の前にいた環を突き飛ばした。

 その光景に慌てて環に手を伸ばそうとするが、女子生徒たちに阻まれできなかった。


 桃李の進行を妨害するように、群がる女子生徒たちを学内にいる手前、押しのけるわけにも行かず、環をみやれば、幸い、よろけただけのようだった。

 体勢を立て直す環を見て安堵するも、桃李の視線が自分たちにないことに気付いたのか。

 女子生徒の一人が気を引くように大きな声を出した。


「こんなところで本当に奇遇! これは運命ですかね?」


 そんな事をいけしゃあしゃあと告げる相手に思わず睨んでしまう。


「……ここは職員室の前だ。教師と出会うのに奇遇も何もないのでは?」

「それは、そうですが……」


 桃李の侮蔑のこもった視線に一瞬怯む女子生徒だったが、すぐに他の女子生徒が別の話題を降ってきた。


「それより、お仕事のお手伝いに来たんです!」

「なんでもいいつけてください!先生の頼みならなんでもしますから!」


「間に合っているから結構。大体それより先にするべきことが君たちにはあるだろう?」

「え、なんのことでしょう」


 本気でわからない様子の彼女たちに苛立ちがました。


「君たちは人を突き飛ばしておいて謝りもしないのか?」

「え? ……あら、そのような事しましたかしら」

「いえ、そんなことは……」


 覚えがないとばかりに、互いを見て首を振る女子生徒たちに桃李は冷ややかな視線を送った。


「ほお、私にはわざと突き飛ばしたように見えたが」

「そんな、誤解です。」

「そうです!肩を掠めたかもしれませんが、突き飛ばしてなどいませんわ」

「それでも謝るべきだろう」


 少しにらみを聞かせれば、ようやく女子生徒たちは黙る。

 その背後で環が困ったように微笑んでいる。


「あの、桃李先生。別にあたしは気にしませんので……」

「そういうわけにはいかない。これは生徒指導だ」


 実際悪いことをした生徒に謝罪させるのも教師の努めだと言えば、環は黙った。

 それを確認して、改めて女子生徒たちを睨めば、渋々ではあったが謝罪をした。


「いえ、こちらこそ、すみません。廊下の真ん中に立っていましたしね」


 相変わらず謙虚な彼女の姿勢に感動しつつも、人の良さに呆れていたら、何を勘違いしたのか、女子生徒の一人が勝ち誇ったように環に指を突きつけた。


「そうよ。あんなところに立っていあなたが悪いのよ」

「そうですね。申し訳ありません」


 あっさりへりくだる環に思わず苛立つ。

 しかし、あまり生徒間のことに教師が口を出すものでもない。

 何より、あっさり認めて謝罪することに寄って、相手の女子生徒も言葉が続かなくなっている。

 どうやらこれは彼女なりの処世術なのだろう。


「それでは桃李先生。私はこれで……」


 環は頭を下げてその場から去ろうとする。

 話は途中だったが、他の女子生徒の視線があるので「ああ」とだけ答えた。

 あまり自分が干渉しすぎて、いらぬ恨みを環が負うのも本意ではない。

 それに環は桃李の渡したプリントを持っている。

 声を掛ける口実の仕事だとバレて吐いたが、律儀な彼女はきっと、仕事を終えて、後で桃李を尋ねてくるだろう。

 その時に話せばいいことだ、と黙って環の背を見送ろうとした時だった。


「ちょっと待ちなさい」


 ファンクラブ女子の一人が環を呼び止めた。

 その瞳はじっと彼女が抱えたプリントに固定されている。


「その腕にあるのは、桃李先生のお仕事ではなくて?」


 目ざといその女子生徒の言葉に、周囲の他の生徒が騒ぎ出す。


「え?なんで、あんたが持ってるの?」

「それは……」


 環が困ったように眉を下げれば、女子生徒の一人が彼女に向かって手をつきだした。


「返しなさい」

「え?」

「それは、私達の仕事よ」

「そうよ! 横取りして桃李先生の点数を稼ごうなんて、勘違いも甚だしいわ!」


 それはお前たちだ、と怒鳴りたかったが、職員室の前という場所が桃李に自由を許さなかった。

 ともあれ、あの仕事を彼女たちに渡すわけには行かない。

 この女子生徒たちは以前書類をダメにされた経験がある。

 まだ新任の時に手伝うと言って聞かない彼女たちに書類を届けるよう依頼すれば、それを取り合い、喧嘩をし、書類を破ってダメにされた経験があるのだ。


「待ちなさい。君たちにその仕事をしてもらうわけには……」

「あら、あの娘に出来て私達にできないはずがありませんわ」


 女子生徒の一人がふんぞり返る。どこからその自信は来るのだろう。


「それを決めるのは私だろう。そもそも以前君たちが私の仕事に関してしたことを忘れたのか」

「あ、あれは……失敗は成功の母とも言いますし」

「そうです!一度の失敗をあげつらうなんて酷いです!」


 その一度の失敗で、学年主任にねちねちと文句を言われたのだが。

 しかも始末書を書くという仕事を増やされて散々だった。

 だが、そんなことを知らない彼女たちはあくまでも自分本位な言い分をまくし立てる。


「それともあの娘は特別だとでもいうのですか?」

「よもや、桃李先生ともあろうかたが、いくら天空寮にいるといえど、庶民上がりの女にまさか依怙贔屓などしませんよね?」


 ねっとりと笑う女性生徒たちに桃李は青筋を浮かべる。

 あまりの身勝手な彼女らの言い分に堪忍袋の緒が切れかけた時だった。


「分かりました。お渡しします」


 突然の環の声に一瞬何を言われたかわからず、彼女の姿を探せば、環が女子生徒の一人にプリントを差し出しているのが見えた。

 その光景に愕然する。

 まさか、環がプリントを渡してしまうとは思わなかったのだ。


 だが、考えてみれば、環は彼女たちが過去に書類をダメにしたという事実は知らない。

 それに、彼女はあまり揉め事に積極的に関わりたくない人種だけに環の行動は仕方がないのかもしれない。

 それでも、責任感のある彼女を見てきただけに今回の行動には落胆を抑えきれなかった。

 桃李が落ち込んでいる間に、環から仕事を受け取った女子生徒たちは得意気になって、完璧に仕上げてみせると息巻いて去っていく。

 だが、元より無理矢理作った仕事だけに出来栄えなどどうでも良かった。

 どこか投げやりな思いで去っていく女子生徒たちの背中を見ていれば、声が聞こえた。


「古典のプリントをどう完璧に仕上げるのか、ちょっと見てみたい気がしますね」

「確かに君と違って、枚数も期限も何も聞かずに行ってしまって……て、古典?」


 思わず投げやりに答えていたのだが、聞こえた内容の違和感に気付く。


「確か、私は進路相談会のプリントを君に渡したと思ったが」


 聞き返せば、環は「はい、これですよね」となんでもなくプリントを取り出してみせた。

 その光景に唖然とする。


「なんで君が持っている? というか、さっき彼女たちに渡したのは……」

「だから古典のプリントですよ。余分にもらったものが手元にあったもので」

「な、なぜ。そんなものを彼女たちに……」

「いや、気付くかな、と思ったんですが、最後まで気づかず行っちゃいましたね」


 呆れた様子の環に説明を求めれば、環も環で去っていった女子生徒に仕事を渡してもいいんか迷ったらしい。

 頼まれた仕事だけに、人に渡すということに抵抗があったというのもあるが、なんとなく彼女たちの雰囲気に渡してはダメな気がしたのだと言う。


 しかし、渡さず揉めれば、職員室の前ということもあり桃李に迷惑がかかるかもしれない。

 それにできそうにないというのは外見からの判断であり、渡したら案外完璧に仕上げられるかもしれない。

 なので、カマかけのつもりで、持っていた古典のプリントを渡して見たのだという。


「桃李先生が担当外の古典のプリントの印刷を頼むなんておかしいし、気づけば聞いてくると思ったんです。

 それに、コピーするっていうことは原稿を見ればわかるでしょうけど、期限とか枚数とかは聞かなければわからない。

 そこをちゃんと聞ける人になら譲っても良かったんですが……」


 結果は見ての通りと肩をすくめる彼女にあっけにとられる。


「……別に、君は私の仕事を投げ出したわけではなかったんだな」

「渡せたら渡していましたけどね。 ああ、安心してください。ちゃんと受けた仕事は済ませますから」


 では明日には仕上げてお持ちしますね、と踵を返し、環は歩き去ろうとする。

 その背に、慌てて、桃李は声をかけた。


「多岐、ちょっと待ちなさい」


 呼び止めれば、不思議そうに環がスカートを翻し振り返った。


「はい、なんでしょう? 他に何か……」

「本当に、大丈夫なんだな?」


 再度、確認のように言えば、一瞬環は驚いたように目を見開いたがすぐに笑って答えた。


「大丈夫ですってば。心配無用です。一月たったんですよ?」


 むしろ、いつまでも言われる方が困ります、と眉を下げられれば桃李は慌てた。


「いや、すまん。許してくれ」

「いえ、許しません!」


 謝れば、すかさずむくれたように言われて、予想外のことに目を丸くすれば、環はいたずらっぽく「冗談です」と笑った。

 それに安堵しつつも、環の様子に桃李は知らず顔をゆるめた。

 事件直後に見た環は、世界に絶望したかのような顔色だったが、現在は明るい様子を見せている。

 彼女に起こった事件の後遺症がなくなるには早い気はするが、そこが若さなのかもしれない。


 先ほど女子生徒たちを相手にした環はしっかりした様子だったし、むしろ以前より頼もしくなっている気すらした。

 もしかしたら、辛い出来事を経て強くなったのかもしれない。

 何はともあり、彼女の言うとおり、一月たったのだ。


「そうか。……『時間が解決する問題もある』か」

「なんですかそれ」

「ん、フランスの有名な数学者の言葉だ。まさに真だな」


 時間は苦しみや争いを癒す。

 時の流れを経て、ひとが変わるから。

 そんなことをかいつまんで話せば、なるほど、と頷かれる。


「あたしは変わったんでしょうか?…………」

「ああ、そうなんだろう。……君は強くなったな」


 そういえば、なぜか環は曖昧に微笑んで何も答えなかった。

 その表情に「おや」と思ったが、聞く前に職員室の扉が開いて、同僚の教員が顔を出した。

 環と桃李を見てその教員が不思議そうな顔をする。


「おや、桃李先生?廊下でどうされました?」

「え、いや別に……」


 聞かれて、困るわけではないのだが、なんとなく言葉を濁している横で、環が「さて」と声をあげた。


「そろそろ行きます。プリントは明日でいいですよね」

「え? あ、ああ、大丈夫だ」

「分かりました。それじゃあ、失礼します」


 そう言って今度こそ踵を返して、環は去っていく。

 その後姿を見ながら、桃李は最後の彼女の曖昧な表情が気になっていた。

 ずっと笑みを浮かべていた彼女がわずかに顔をかげらせていた。

 それがどういう意味かを考えようとするも、顔を出した教員に話しかけられ中断せざるを得なかった。

 明日も会うのだし、その時に覚えていれば聞けばいいと、軽く考え桃李は同僚に向き合うべく環の去った方向に背を向けた。


次でラストです。

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