リクエストSS2〈バッドエンド①沈没〉
天井様よりリクエストいただきました鬱逆ハーのSS集です。
全5話。R15
各回でヒーローが違います。
※ 倉庫入りで最終話だけ少し変えました。
※バッドエンドは変わらず救いはないです。
完全にゲームのバッドエンドを意識して描きました。
設定はゲーム的には、
・共通ルートで、そこそこみんなと仲がいい状態。
・紅原ルートに入ったものの、全てグッドエンドへの選択肢を外しまくる。
といったところ。
ほら、もう、嫌な予感しかしない(・言・)
キーワードも拉致、監禁、別離、陵辱(に近い)、死にネタ、残酷表現ありです。
嫌ならスルーかバックか記憶から消す方向で。
・何度も言いますが100%、良いエンディングにはなりません。後味も最悪でしょう。
・まあ、それでもマルチエンドのゲームの場合では、こういったバッドも味わいですが。
・ハッピーエンド史上主義は見ないほうが懸命です。
※全てif話。物語の進行上にはまったく関係ございません。
※書きたかったからかいた、それだけです。苦情は受け付けません。
・キャラ崩壊しているかも?気をつけてご生還ください。
・本編のネタバレ要素は多少有り。本編読後推奨
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以上です。
OKなら、以下。
差し込む月明かりに気が付き、窓を見上げる。
そういえば、今日は満月だったか。
カーテンの隙間から差し込むほの白い光に誘われるように、あたしは寝台から立ち上がった。
幸い今日は寝台の隣には誰も居ない。
普段であれば夜に寝台から離れることはない。
大抵、引き止められるのだが、今日は囲い込む腕の主が急な呼び出しとかで不在のためだ。
絡め取られる腕が無いことにホッとする反面、どこか物足りなさを感じる。
これまでの自分を考えれば、考えられない思考だが、もう二週間以上も絡め取られていれば、仕方がないと思い直す。
わずかに冷えを感じる初冬の空気を警戒して、とりあえずシーツを一枚引き抜き、その身に羽織った。
そのまま、シャラシャラと音を立てて、窓に近づき、部屋に隣接するバルコニーに続くそれを開けた。
途端ひやりとした温度の空気が流れ込んで来る。
思わず身震いするが、その分空気が澄んでいるのか、見上げれば大きな白い月がくっきり見えた。
雲ひとつない晴れ間に煌々とそびえる月は美しく、思わず息を飲んだ。
キラキラとミルク色の光りを地上に放つ月に見とれつつも、バルコニーを進む。
室内履きなどないので裸足で歩けば、冷たいバルコニーの床はあっという間に足先の温度を奪い、冷たくなっていく。
しかし、そんな歩みも一定のところまで進めば止まらざるを得ない。
あたしはため息を吐いて、足元を見やる。
先程から音を立てるのは、足に繋がれた細い鎖だ。
それは長く伸びて、寝台の足に括りつけられている。
行ける範囲で足を止めその場に座り込んだ。
冷えた外気が今は心地よいが、そのうちすぐに寒気に変わることは目に見えていたが、気にしなかった。
冷えた光を放つ月を見上げながら考える。
「どうしてこうなっちゃったのかな……?」
ポツリとつぶやくが、誰もそれに答えるものはない。
誰も居ないのだから当たり前だが。
この部屋に閉じ込められるようになって半月ほども経とうか。
四月のはじめにゲームの記憶が蘇り、この世界が乙女ゲームの世界だと知った時、自分は死ぬ運命なんだと思った。
だから、死ぬ運命だけを回避しようと頑張ってきた。
自分には叶えたい夢があったから、生き残りたいと必死だった。
だからというのは言い訳にすぎないかもしれないが、その過程で思いがけずたくさんの人を傷つけた。
ゲームの知識に意識を持って行かれていたせいで、相手を勝手に見誤って酷い人だと思い込んだ。
たくさん優しくしてもらっていたのに、気づかないふりをして、逃げ続けた。
だって、ヒロインは自分ではないから愛されないとずっと思っていた。
だから自分の気持ちにも蓋をして、周囲の気持ちからも瞳を閉じた。
だが見て見ぬふりの代償が現在の状況だ。
ある日呼び出された先でお茶を飲んだらその後の記憶がぷつりと切れた。
そして気がつけばこの部屋で鎖に繋がれていた。
最初の一週間ほどは混乱と恐怖に本気で逃げようとあがいてみたが、逃げた時のあの人の顔がたまらなく悲しそうでやがて逃げることを諦めた。
後は惰性でここにいる。
生活は不自由ない。
食事は毎回運んでくれるし、望めば大抵のものは用意してもらえた。
部屋には彼が集めてくれた本やゲームなど娯楽になるようなものが転がっている。
とは言え、夜は求められることが多いので、日中は大抵一人の時は眠っていることが多いからそれが必要なことはあまりない。
そう思えばこんな状況だというのに相手のことが心配になる。
自分は一人の時に眠れているが、彼は日中いつも出かけている。
もちろん学校があるせいだろうが、いつ眠っているのか疑問に思うほど彼の訪れは頻繁だ。
彼は疲れていないのだろうか。
(……いや、違うか)
おそらく彼は疲れてしまったのだろう。
通じない言葉に。伝わらない思いに。
言葉や態度でたくさん伝えてくれていたのに、あたしはずっと気づかないふりを続けていた。
彼はずっと手を伸ばしてくれていたのに、それを無視して、彼の全てを拒否してしまった。
そのくせに、いつの間にか彼のくれる優しさに甘えてしまっていたのだ。
そんなことがずっと続いたから、きっと彼は……。
「そこで何しとるん?」
声とともにふわりと何かが被せられる。
驚いて振り向く前に、背後から伸びてきた腕に絡め取られた。
一瞬ビクリとするも、慣れた腕の形と強さに安堵する自分も感じ、自嘲したくなった。
相当、毒されているとしか言い様がない。
ここに囲われるまでキスすらしたことがなかったのに。
とは言え、相変わらず嫌悪感は皆無。それだけが救いか。
被せられた毛布の隙間から背後の相手に声をかけた。
「……紅原様、いつ帰って…」
「ついさっき」
短く答える声にかつての剽軽な明るさない。
「……こんなとこいたら風邪引くよ?」
そう言いながら紅原は毛布ごとあたしを軽々持ち上げた。
「うひゃっ!」
思わず小さく悲鳴をあげて、紅原の服にしがみつく。
横抱きにされる時に、体が一瞬ヒョッと宙に浮く感覚が苦手だった。
これだけは何度やっても慣れそうにない。
「くっ!」
頭上で聞こえた吹き出し音に顔を上げれば、紅原が可笑しそうに笑う。
その笑顔はこんな事になる前に彼が見せていたものと同じで、思いがけず呆然とした。
だがまじまじ見ていたのが悪かったのか、彼はあたしの視線に気づくとすぐにその笑みを消した。
それから仮面をかぶったような薄ら寒い笑みを貼り付けた顔を向けて来たので、がっかりした。
一瞬以前の彼に戻ったのかと思ったのだが、そうではないようだ。
あたしは抱えられた状態で、視線をお腹にむけて逸らした。
今の紅原の顔は見たくなかった。
触れられることにも嫌悪感を抱かないものの、彼のこの顔だけは嫌いだった。
笑っているように見えて瞳が冷めているのがわかるから。
紅原もあたしを抱え上げたまま無言で部屋に戻った。
それから最初にいた寝台にゆっくり降ろされた。
「あ、ありが……っ」
だが、礼を言う前に体に伸し掛かられた。
寝台の中に組み敷かれ、動きを封じるようにその腕があたしの体に絡みつくと、強く抱き締められた。
「ちょ、くるし……あっぅ!」
拘束するような強さに痛みを感じ、身を捩っていたら、前置きなく首筋を噛まれた。
鋭い牙が突き立てられ、痛みに体が震える。
目をきつく閉じ、拳を握りしめ痛みに耐えるが、その間、腕の力は弱まることはなかった。
強く首筋に吸い付かれ、血を抜かれる。
しばらくして、唇が離されるが、その頃には頭がぼんやりした。
体がだるく、指一本上げるのも億劫になっている。
ぐったりとして動けないあたしを見てようやく安心したように、紅原は抱擁を弱めた。
痛みをこらえるために思わず握りしめて、爪の跡が残る掌にキスをしながら、紅原は薄ら寒い笑みを浮かべて囁いた。
「あそこで何してたん?」
ぼんやりする思考に、一瞬何を聞かれたかわからなかったが、おそらく先ほどの月光浴のことだろうと当たりをつけた。
正直返事をするのも億劫だったのだが、答えないなら答えるまで聞かれることがわかっていたので口を開いた。
「別に、月を見ていただけで……」
「逃げる方法を考えてたんじゃなくて?」
シャラリと音がして、紅原の手があたしをつなぐ鎖をもてあそぶ。
自分で繋いだ鎖を見せつけるかのような仕草に、無駄な事をと思わなくもない。
「そんなこと、考えてません」
「へえ、鎖に繋がれて、無理矢理組み敷かれて。無断で血まで抜かれんのに?」
指折り数えるようにこれまでの自分がしてきたことを丁寧に説明しながら、紅原はあたしの首にもう一度くちづける。
一瞬ぎくっとするが牙が立てられることはなかった。
その代わりか肌を吸われ、背筋がゾクリと泡だった。
「いきなり攫われて、他への連絡手段も絶たれて、こんな山ん中、部屋から出ることすら許してないのにもう逃げることを考えないなんて……」
するりと着ていたワンピースごと腰をなで上げられ思わず体をこわばらせれば、その耳元に唇を寄せた彼が囁いた。
「……意外にマゾなんかな?」
温度のない声にゾクリとするが、体を這う指が体の温度を上げていく。
「真面目な顔してこんなプレイが好みとか? ほんまに意外。人は見かけによらんとはこのことやな?」
シャラシャラと鎖を揺らし、わざとこちらの怒りを煽るような言葉を吐く紅原。
最初のうちは羞恥に反射的に怒鳴り返していたが、何を言っても変わらない結果に、あたしは反論することをやめていた。
今は、ただ届かない言葉に悲しく思うだけだ。
寝台に縫い止められたまま、言葉を発しないあたしに紅原はそっと唇を寄せた。
「なあ、なんか言って」
唇をぺろりと舐められ、思いがけずピリッと痛みが走った。
どうやら、痛みを堪えるためにいつの間にか唇を噛んでいたらしい。
そこから流れる血液すら惜しいとでも言うように、唇を丹念に舐め取られた。
やがてそれは顎を伝い、首筋をたどる。
だが、そうされても何も言わないあたしに、紅原が顔を覗きこんでくる。
「環ちゃん……?」
あたしを囲い込みつつ、見下ろすその瞳は不安に揺れているのを感じる。
ひどい言葉と行動を押し付けておきながら、心配する表情。
矛盾した瞳と行動はこの場に閉じ込められてから顕著に感じる。
ひどい言葉を吐きながらも、その扱いはいつだって丁寧だった。
無理に噛み付いたって、その噛み跡はすぐ消える程度のものだし、今だって痛みに耐えるために自ら傷つけた怪我だって癒やすように舐めとった。
結局のところ、本当にひどい扱いをする気がないのだ、この人は。
そんな紅原にあたしはそっと手をのばす。
「……そんな顔しないでくださいよ。あたしは逃げません」
紅原はあたしの言葉に目を見張り、体をこわばらせている。
その頬にそっと手を添えた。
すると紅原の体がビクリと震えた。
「あたしは逃げません」
再度、言い聞かせるように言えば、何かをこらえるように目を閉じた後、紅原はいびつに笑う。
「……そう言って油断を誘ってんの?」
「そんなことしません」
「どうだか?」
そう言いつつも、その瞳が不安定に揺れているのがわかった。
その瞳に少しだけ希望が沸いた。
今日なら話は通じるのだろうか。
「信じてください。もうあなたからあたしは逃げません」
「……なんで?」
「だって、あなた、本気であたしを閉じ込めるつもりじゃないでしょう?」
伸ばした手で彼の頬を撫でれば、顔がこわばっている。
その表情が言葉が届いているように見えて、あたしは今ならと紅原に必死に訴える。
「あたしが気づいていないとでも思っていますか?」
繋いだ鎖はその端は寝台の足にただ巻かれているだけだということを。
通信手段を経ったと言っておきながら与えられたゲーム機にはネットに繋げる機能がついていた。
最初こそ完璧で逃げることは困難に思えた状況だったが、その綻びに気付き始めたのは何回目かの脱走計画を考えていた当たりか。
思えば脱走は一回目より二回目、三回目のほうがよほど容易かった。
逃げ出してもその都度連れ戻された、それはあたしが逃亡中に死にかけたからだ。
崖から転落しそうになったり、うっかり沼にハマって溺れかけたり、野生の動物に囲まれたり、絶体絶命の危機に貧している時。
笑ってしまうほど死亡フラグ満載のあたしを彼はタイミングよく現れては、助けて連れ戻す。
まるで見張られているようなタイミング。だがおそらくどこかで見ているのだろう。
そして危険が及んだ時だけ差し伸べられる手は、まるで危険さえ及ばなければ、自分から手放すつもりのように思えた。
囲い込む腕を少しずつ緩めながら、あたしが逃げ出すのを待っている。
いつだって逃げられるように逃げ道を用意している人が本気であたしを閉じ込めているとは思えないと訴える。
「ねえ、一緒に帰りましょう?」
監禁の手を緩める紅原にあたしはずっと訴えているのはそこだ。
死亡フラグ故に無事に自力脱出ができないあたしだったが、前述のように助けを呼べる環境はあった。
だがそれでもあたしは外部への連絡は取らなかった。
その理由がこれだった。
もう一度彼とやり直したかった。
彼はあたしを囲い込みながらも徐々にその手を離れさせている。
そんな状態で、他人の力を頼りにすれば、彼との絆は完全に絶たれる気がした。
思えば、あたしは本当におろかで、優しい彼が壊れるまでその優しさに気づかないふりをしてしまった。
ゲームの記憶に振り回されて、現実が見えていなかったのだ。
いや、それ以上に自分だけが傷つきたくなかったのだ。
その結果、彼の心をこんな犯罪まがいの事をさせるほど追い詰めて、壊してしまった。
彼があたしをここに監禁した理由だってなんとなくわかっている。
別に、あたしを痛めつけたいって思っているわけじゃない。
自惚れでなければ、あたしを守るために自分の力の及ぶ範囲にのみあたしを閉じ込めたかっただけ。
彼はいつだって自分の無力を感じていたから。
優しい彼はこれまで何度と無く死亡フラグに巻き込まれるあたしを助けようとしてくれた。
今回のこれがその一環であることは、不自由なく暮らさせてくれていることでわかる。
全ての事象から遠ざけるように山奥のこの館の部屋に閉じ込めてまであたしを守ろうとする。
そんな彼を一人残して日常になど戻れるはずもない。
戻るときは一緒にとずっと説得を続けていた。
だがあたしに対して心を閉ざした彼は聞き入れない。
正直ジリジリとタイムリミットは迫っていると思う。
だって、いつまでもこんな生活が続けられるはずがない。
人でなく、実家が金持ちと言っても、紅原も高校生だ。
いくらあたしが連絡を取らずとも、いずれ見つかるにきまっている。
そうなればきっと、あたしは紅原と引き離される。
ひょっとしたら二度と会うこともないのかもしれない。
だがそれは嫌なのだ。
二人で帰らなければ、意味が無い。
こうなってみてはっきりわかった。
あたしは紅原が好きだ。
彼と一緒にいたい。こんな酷いことをされても、気持ちが変わらない。
彼と生きたい。
それは幼い頃からずっと暖め続けてきた夢と引き換えだにしてもいいと思えるくらいに。
彼を壊した自分がなんとむしのいい話だと思うが、本心だ。
そのためにも、紅原を説得したかった。
「もう一度、あなたとやり直したいんです。お願いします」
そう言って手を差し出すあたしの手を紅原は呆然と見下ろしている。
瞳が不安定に揺れている。
あたしは紅原の決断をひたすら無言で待った。
それは一とも億とも言える時間だった。
まるで今までの全ての自分の業が試されているような、そんな感覚に陥る。
そしてどれくらいの時間が経ったのか。
紅原が、ポツリと呟いた。
「おれは……っ!」
何かをこらえるかのように額に手をやりクシャリと前髪を潰す。
そして、紅原はあたしの手をとること無く倒れかかってきた。
そのまま首筋に額をつけたまま、苦しい声で言った。
「……君のこともう、信じられへんっ」
血を吐くような響きを持って、ささやかれた言葉にあたしは目を見開いたまま動けなかった。
そんなあたしの頬を紅原は残酷にも優しくなでた。
「ごめん、ゴメンな? だからもう黙って……」
懺悔のようにあたしにキスを降らせた彼は再びあたしを抱く作業を開始する。
止まらない彼の手に体を煽られながらも、あたしは絶望に知らず涙を流した。
結局、あたしの伸ばした手は取られることもなく宙を掻き、何者にも届かなかったのだ。
ああ、本当に一体どこで間違えたのだろう。
何をどうすればこの人をこんなに傷つけずに済んだのか。
ただ、わかるのは全てが手遅れだったということだけ。
かつて彼と過ごした日々は全て水面のきらめきのように美しいものであったけれど、今となっては手を伸ばしても届かない。
届かない
届かない
……届かない。
伸ばしても空を切るように、伝わらない言葉。
こんな事をしても未来がないとわかっているはずなのに。
焦がれるように伸ばした手はなんの意味もなく、後はただ暗い水底を堕ちていくだけだ。
身動きするたびに、シャラリ、シャラリと音が聞こえた。
この鎖が本当に縛ってしまったものは一体なんだったのか。
これは罰だ。彼の言葉をずっと無視し続けたあたしへの。
体に絡まる腕はまるで鎖のようにあたしの体を拘束し、動きを封じる。
あたしは伸ばしたままだった手をそっと紅原の背中に回す。
今度は振り払われないそれに安堵して、愚かしいと思いつつ、祈る。
二人でいられる日が一日でも長く続くように。
そんなあたしたちをどう思っているのか。
空に浮かぶ白い月だけが変わらず残酷にあたし達を照らし続けていた。
次も救いに何もならない、これの後日談的、不幸な上に暗い会長との絡みです。
誰も幸せにならない話なので、心が折れそうならこのままお帰りください。




