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ダーク一周年記念

ここはダーク一周年記念SSの置き場です。

とはいえいつものIF話です。今回はエンディング後の。

今回のカップリングはまさかの藤崎竜輝と多岐環

なお、他のメンツを押している人にはまったくお勧めしませんのでバックお願いします。

それでも、見ても良いとおっしゃるようでしたらどうぞ。

読んだあとの苦情は受け付けませんのであしからず。


※全てif話。ありえるカモありえないかも未来。物語の進行上にはまったくまるっと関係ございません。

※書きたかったからかいた、それだけです。苦情は受け付けません。

・舞台設定はゲーム終了後、恋人同士状態で、竜輝、高校三年生、環、大学生一年生。

・いちゃこらするだけ。安定のオチはない。

・甘いというより甘酸っぺえです。なんかベリー吐きそうだった。ベリーベりー。

・全年齢。夢月にしちゃ、健全健全。中学生日記にすこし色つけた程度。そんなもん。

・キャラ崩壊しているかも?気をつけてご生還ください。

・本編のネタバレ要素はほぼないつもりだけれど登場人物の関係上、全編読了後推奨。



 その日、授業で遅くなるという環の電話を受けた竜輝は、彼女を迎えに自転車で出かけた。

 迎えに行くことは彼女には内緒だ。突然行って驚かせようという魂胆だ。

 そんな考えでいそいそと出かける竜輝に今でテレビを見ていた姉の香織は呆れたような顔で見ていたが、特別声をかけてくることはなかった。


 中学からの愛車である自転車をこぎながら、坂道を登る。

 僅かに軋む音を響かせるも、まだまだ現役だ。

 竜輝はまだ高校生だ。だから車なんてものは持っていない。

 原付の免許は持っているが、愛車のカブはもっぱら店の配達用だ。

 私用では使わせてもらえないので、自転車で彼女の大学まで向かう。

 環の通う大学は山の上に有り、自転車で行くのは大変なのだが、毎日ロードワークを欠かさない竜輝にとっては良いトレーニングになって良い。

 環は竜輝にとって幼馴染であり、姉の親友であるとともにずっと憧れ続けた存在だ。

 いつも何事も全力で取り組む努力家で、真面目で、でもどこかうかつな様子がとても可愛い。

 年上である彼女に可愛いと言うのはどうかと思うものの、可愛いものは可愛い。

 高校一年生の時、彼女を追うように今の高校に転校した。

 そこで見たのは美形と呼ばれる学園の生徒会連中に囲まれた彼女の姿。

 しかし、そんな中、彼女は最終的に竜輝を選んでくれた。


『死が二人を別れさせても一緒にいる』


 そんな幼い頃の約束を環は守ってくれた。

 その時のことを思い出すと、竜輝は今でものたうちまわってしまうくらい幸せで嬉しい気分になる。

 ただ、告白をして受け入れてもらっただけでそこまで嬉しかった。

 その分、その先に進む勇気が竜輝にはなかった。

 付き合って一年以上になるというのに未だ触れるだけのキスと手をつなぐ以上のことになっていない。もちろん竜輝とて健全な男子校生だ。それ以上の欲求はある。

 焦りはあるが、環に嫌われるのが怖くて手が出ないのだ。

 そんなことを考えて、手を拱いているうちに環は大学に進学してしまう。

 学校が別々になると会う機会が極端に減った。

 竜輝の通う学園は全寮制だし、たまの休日しか会う機会はない。

 さらに環も環で勉強に忙しいらしく、なかなか時間をとって会うことはなかった。

 だから、竜輝は少しでも彼女に会う機会を逃したくなかった。

 今日とて、電話口で迎えに行くという竜輝はさそうが、たまの休みなんだからゆっくりしてて、と環は断ったが関係なくこうして迎えに行っている。

 姉に言わせると「忠犬ねえ」と呆れられるが関係ない。

 少しでも彼女との時間は作りたかった。


 そんなことをつらつらと考えているうちに大学の校門が見えてきた。

 レンガ造りの高い塀の大学は竜輝が通う学園と同じ系列のもので、来年には竜輝も通う予定だ。

 竜輝には今の高校も大学も学力的には追いつくことができないほどレベルが高いが、もともとスポーツ推薦で入っているため、学園側が竜輝にそこを求めてくることはない。

 校門が近づいたので自転車から降りて、押しながら歩く。

 この学園の生徒は金持ちの子女ばかりなので、おんぼろのサビの浮いた自転車を押す竜輝は妙に人目を引いた。

 当たり前だが周りは大学生だらけで、大人びた雰囲気が漂い、どこか野暮ったい竜輝を不安な気分にさせる。

 こんな雰囲気の中で日々を生活する環は果たして、年下で野暮ったい竜輝を好きでいてくれるのか。

 大学に入って環は携帯電話を買った。

 さらに洋服も洗練されたものが増え、会うたびにどんどん綺麗になって、嬉しい半面落ち着かなくもさせる。

 たった一歳だ。環と竜輝の年齢。

 だがその違いが途方もなく遠く感じられる。

 彼女と同い年であれば、と何度思ったかしれない。ずっと一緒の学校で隣にいられるのに。

 もちろんそれが仕方のないことだとわかっている。

 だがそれがどうしようもないことだと分かっていても、いつだって「どうして?」と疑問に思わずにいられなかった。


 ―――特にこういう時は。


 その光景に竜輝は立ち止まった。

 竜輝のいる場所から数メートル先に、丸いフォルムが愛らしいクラッシックな車が止まっていた。車のエンブレムを見れば、外車だ。

 愛らしい割に凶悪な値段のしそうなその車の運転席の男がひとりの女子大生に声をかけていた。

 後ろ姿しか見えない二人だが、誰だかわかった。

 環だ。そしてもうひとりの赤毛の男は竜輝が苦手てする彼女の同級生だった男だ。

 ともに同い年で大学生の二人は、竜輝に全く気付く様子もなく何か話している。

 どうやら車の男が環に車に乗らないかと誘っているようだ。それに対し環は知り合いであることでなかなかそれを断れずにいるようだ。

 優しい彼女らしい反応だが、その姿に竜輝は胸に渦巻く黒い感情に気づかずにはいられない。

 だがそれは抱いてはいけない感情だ。必死でそれを押さえ込む。

 環を怯えさせてはいけない。彼女を悲しませてはいけない。

 自分の感情を押し付けてはいけない。

 彼女はいつだって竜輝の前では笑うのだ。辛いことなどないと涙を見せない。

 ただでさえ彼女は人のことばかり考えて、自分自身の感情を我慢してしまうのだから。

 だから竜輝は自分自身の欲を押さえ込む。

 未だ竜輝は環のことを「環姉」と呼ぶ。それも自分への戒めだ。

 彼女を困らせるようなことがないように。環が笑顔でいられるように。


 必死に自分の感情と戦っていれば、いつの間にか車が離れていくのが見えた。

 一瞬、彼女が車に乗ってしまったのかと思って焦るも、その場に立ち尽くす環の姿を見つけ安堵するも、相変わらず黒い感情は消えない。

 どうしても自分という彼氏がいながら、すぐに別の男の誘いを断れない環を詰りたくなってしまう。どうしようもなく自分勝手な感情に振り回されていたとき、不意に環の視線がこちらに向いた。

 驚いたような顔で近づいてくる。


「竜くん、もしかして迎えにきてくれたの?」


 わざわざ良かったのに、とすこし困った顔でいう彼女に他意はないのはわかっている。

 だが先ほどの光景を見たあとでは、他の男と一緒だったから邪魔だった?と聞きたくなる。それを必死で飲み込んでいればどうしても無言になってしまう。

 反応のない竜輝を不思議そうな顔で環は見上げてくる。


「竜くん?」


 不安そうな彼女に竜輝は頭を降った。


「……なんでもない。環姉、一緒に帰ろう」


 感情を押し殺しているため、どうしても平坦になる竜輝の声に不安そうな表情を見せる環。

 決してこんな顔をさせたいわけではないのに。

 それでも今の竜輝は環をフォローするだけの心の余裕はなかった。


 今日、環は藤崎家で夕食を食べる予定になっている。だから帰る場所は一緒だった。

 夕焼けは空の彼方にその名残を残し、星がきらめき透き通った空に広がる。季節は冬だ。

 無言で自転車を押し、環とともに歩く。


 環は着古したダッフルコートにマフラーという高校時代よく見た姿だ。

 あまり大学生になって見かける機会が減っていたのだが、今日は特に寒いし、もしかしたらおしゃれより暖をとったゆえの姿なのかもしれない。

 寒い外気に交じる吐息は白くなり、自転車を握える手が手袋をしていても冷たかった。

 未だに収まらない黒い気持ちに無言になってしまう竜輝を心配そうに環がチラチラと視線が飛んでくるのがわかるが、竜輝に彼女を見返す余裕はない。


「竜くん?」

「なに?」

「なんか不機嫌だね。もしかしてお腹すいてる?あ、あたしチョコレート持ってるよ?」


 そう言ってコンビニにも売っている駄菓子を差し出してくる環に苛立つ。


「腹なんて減ってない」

「……そっか。ごめんね」


 思わずぶっきらぼうに返してしまい、環の少し落ち込んだ様子を見せる。

 その姿に罪悪感を感じた。


「……ごめん、環姉。ちょっとイライラして……」

「あ、ううん。いいのよ」


 そう言う時もあるよね、と環は笑うがなんだかそれが社交辞令めいており、竜輝の胸のざわつきを高める。

 ふと、先ほどの車のことを思い出す。

 それから自分のおんぼろ自転車を見た。

 そもそも比べるべくもないその差に絶望を感じる。

 となりを少し俯いて歩く環をそっと伺う。

 やはり彼女はああいった車に乗ったカッコイイ男が好きなのだろうか。

 普通の女であれば、どちらがいいと言われれば、選ぶのは高級車に乗った男だろう。

 もちろん、環が地位や名誉や外見でころりといく女だとは思っていない。

 それでも先ほどの光景が目に焼きついて離れないのはやはり自分が年下という劣等感に支配されているせいだろうか。

 まだ車の免許も取れない自分に車を持つことはできない。

 そもそもそんな金銭的な余裕は竜輝にも藤崎家にもない。

 そこを求める環でないと思っているが、なんとなく気分は晴れなかった。

 そんなことを考えていると、不意に環の視線に気付いた。

 何か言いたそうに、おずおずと視線をあげ竜輝を覗き込んでくる。

 それから恐る恐るといった感じで口を開く。


「……あのさ、竜くん。ちょっとあたし寄りたいところがあるんだけど」


 そう言って、環が伝えてきたのは隣町のケーキ屋だった。

 ケーキ屋なら近所の商店街にもあるし、わざわざ、と思わなくもないのだが、環が行きたいというのなら仕方がない。

 そこまでの道のりと自宅への道のりを考えたあと、空を見上げ、竜輝は一度立ち止まった。


「環姉。遠いし、自転車飛ばすから。後ろ乗って」


 そう言ったのは先ほどの車の件が意外に大きく影響していたか。

 これまで竜輝は誰も自転車の荷台に人を乗せたことはない。もちろん環もだ。

 そんな竜輝の突然の提案に環は当たり前だが目を丸くした。


「ええ?荷台に乗るの?」


 流石に怖いのか、不安そうな顔の環に悪戯心が湧く。


「徒歩で行くには遅くなりすぎるし。横乗りになって俺にしがみついとけば大丈夫だよ」

「で、でも……」

「それとも俺の運転信用できない?」


 そう聞けば、環の眉間に皺が寄る。

 流石に即答はできない内容だから、これ以上の強要は竜輝も控えた。

 本来、自転車で二人乗りは禁止だ。

 さらに、人が見てると恥ずかしい。普段なら絶対目立つのを嫌う環は良しとしないだろう。

 だが今は幸いというか人通りの少ない山間の道路の途中だ。

 街中手前までしかできないだろうが、歩くよりはるかに速いというのは本音。


 竜輝にも意地悪を言っている自覚はある。

 それに自転車の荷台に乗るなど危険だ、と即答で断られてもいいのにここで迷ってくれること自体、環の優しさなのだろう。

 流石にこれ以上のいじめはまずいと思い、冗談だと告げようとした瞬間、一瞬空を確認した瞳に決意の色が浮かんだのが見えた。


「う、うん。そうだよね。女は度胸よ」


 何故か拳を握り締める環の姿に呆気にとられる。


 それから先に乗り込んで自転車を支える竜輝の背後から恐る恐ると言った感じで環が乗ったのを確認し、走り出す。


「うひぃ……っ」


 動き出したとたん環は小声の悲鳴を上げる。

 やはり怖いのか竜輝の腰に必死にしがみついてくる。

 自転車をこぎながら、背中に感じるその柔らかくて温かい体に怖がっている環には申し訳ないが嬉しくてしょうがない。

 恋人同士だというのに竜輝と環は抱きしめ合った事も数える程しかない。

 幼い頃から家族同然の付き合いなので家にいると、基本誰彼構わず家族が環に構うので、二人きりになることがほとんどないためだ。

 しかも恥ずかしがりで、自立心の強く甘えべたな環はなかなか自分から擦り寄ってくることもない。

 こうして彼女の方からしがみついてくることなど、ほぼないのだ。

 それだけで楽しくて浮き足立った。触れ合った場所に感じる体温だけで黒い気持ちが落ち着いていくのを感じる。

 そうだ、例え離れていても環が選んでくれたのは自分。

 高級車に乗った色男に誘われても決して彼女はついていかなかった。

 環が選んだ自分という存在をもう少し信じよう。

 おんぼろの自転車に乗っていようが、こうして一緒に隣に環は乗ってくれるのだ。

 竜輝は自分の単純さに内心苦笑を漏らす。


「環姉、怖い?」


 風を感じながら走る竜輝が背後の環に声をかける。

 すると環は腰に回した腕にわずかに力を籠め、竜輝の背中に頬を摺り寄せ小さな声で返してきた。


「……ん、竜くんだから平気」


 その一言に竜輝は一瞬自分が手が離せなくてよかったと思った。

 無意識なのだろう可愛すぎる環の行動と言葉に思わず顔が赤くなる。

 そのことだけで迎えに来てよかったと、それだけで胸がいっぱいになった。


 その後、山の麓、街中の手前で自転車を降りた。

 名残惜しい竜輝とは対照的に環は這う這うの体だ。

 どうやら先ほどの言葉はかなりの強がりだったようだ。

 怖かったのだろう、少し涙目の彼女に悪いと思いつつ、竜輝はその可愛らしさに笑みが抑えきれなかった。


「……なに笑ってるの?」

「いや、環姉がかわいくて……」

「っ!か、かわいいって……」


 竜輝の一言に頬を染める環にますます抱きしめたい衝動に駆られたが自転車を押しているので、あいにく両手がふさがっておりできなかった。

 しばらく並んで歩けば前方に目的のケーキ屋が見えてきた。

 環はどうやらそこでケーキの予約をしていたらしく、受け取ってくるという彼女を見送った。そのケーキ屋の軒先に自転車を止め、先ほどの環の様子を思い出し、幸せな気分に浸っていた時だった。


「あれ?竜輝?」


 外で立ち尽くす竜輝に声がかけられる。

 声の方を見て驚いた。それは中学の一時期付き合っていた竜輝の元カノだった。


「何してるの?こんなところでにやにやして」


 その指摘に慌てて、竜輝は頬を引き締めるが、元カノはまったく気にせず、首を傾げている。

 家、この辺だっけ?と聞く元カノにさすがに当時のことが気まずく答えに窮する。


「……そうじゃないけど」

「なに?そこのケーキ屋に用なわけ?」


 あんた甘いもの嫌いじゃなかった?と言われて半眼になる。

 別に甘いものが嫌いなわけではないが、竜輝は和菓子屋の息子だ。

 昔から甘いものは家にあふれており、正直、家の外でも甘いものを食べようと思えない。付き合っていた当時の彼女には説明が面倒なのでただ「甘いものが嫌い」とそう説明していた。

 しかし、今更それを訂正する気も起きない。


「ここには人の付き合いで来ただけだし。それよりなんか用?」

「なに、その言いぐさ~!用がないと声もかけちゃダメなわけ?」


 そりゃ駄目だろ、とは言えず竜輝は嘆息する。

 彼女とは別れてから連絡は取り合っていないし、口もきいていない。

 完全に終わった仲だ。もともと竜輝の周りにいないタイプだし、友達づきあいなど無理な人種だ。

 彼女と付き合っていた当時、竜輝の手の届かない学園に入学して離れて行ってしまった環に『ずっと一緒にいる』という約束を反故にされ裏切られたと思い、自暴自棄になっていた。

 そのためその時に突然身長が伸びだし、容姿の変わった竜輝に近づいてきた女子たちの告白を来るままに受けてしまい、気持ちもないのに付き合っていた。

 とはいえ、すぐにそれを聞きつけた姉の鉄拳制裁で正気に戻り、付き合っていた時期はそう長いことはない。

 あの頃の所業を考えれば邪険にもしにくく、対応に困り、竜輝は苦虫をかみつぶした。


「別に。……それよりどこかに行く途中じゃないのか?」


 暗にさっさとどこかに行けと言ってみるが、付き合っていた当時から周りの言葉を自分の都合の良いようにしかとらない元カノはそんな竜輝の裏の言葉などまるで理解しない。


「今から帰るとこ。でさ、ちょっと聞いてよ!さっきまで男と一緒にいたんだけど、そいつが最悪でさ……」


 竜輝と付き合っていた頃からこの元カノは男女関係に開けっぴろげで、竜輝以外にも付き合っていた男がいることを言ってはばからなかった。だが別に竜輝とて彼女のことを言えないので、特別何も言わなかった。

 だが、今更ながら思う。どうしてこんなのと付き合おうと思っていたのか、告白を受けた当時の自分を殴り倒したい。


「でさ、今暇なんだよね、だから遊ぼうよ、ね!」


 突然竜輝の腕に突然絡みつき、彼女が自慢する豊満な胸を押し付ける元カノにげんなりする。


「あのさ、俺、さっき人を待ってるっていったと思うんだけど……」

「いいじゃん。そんなの放っておいて。遊ぼうよ~!元カレカノのよしみじゃない!」


 自分勝手極まりない元カノにほとほと困り果てた時だった。


「竜くん、おまたせ……あれ、その人……」

「……っ環姉!」


 あろうことか買い物を終えたらしい環が白い箱を持って店から出てきた。

 ケーキ屋の入り口は高い場所にあるのでその階段から見下ろす形だ。

 よりにもよって思いっきり元カノにぴったりと引っ付かれた状態でいるところにだ。

 竜輝は青ざめた。


「こ、これは……」

「あれ?竜輝のお姉さん?」


 竜輝の言葉に姉だと勘違いした元カノはにっこりと笑った。


「初めまして~、あたし中学時代に竜輝とお付き合いさせてもらってた……」


 元カノの名乗りに竜輝は青ざめる。

 あの頃の所業は環には内緒なのだ。姉も竜輝の気持ちを慮って、環には告げていないと言っていた。

 環にとっては突然現れた竜輝の元カノの存在だ。

 一体どんな反応を返すか、竜輝は心配でならない。

 もともと環は人と争うことが嫌いだ。それくらいなら自分が引いてしまう。

 この強引な元カノの勢いにあっさりと竜輝を渡してしまいかねない気がして、もしそうなったら自分はどうしたらいいのかと竜輝は絶望感でいっぱいだった。

 何を思っているのかわからない環の様子は今後の行動が読めない。

 ただわずかに驚いているそうしている間も元カノは全く相手の反応など気にせず、竜輝に引っ付いてくる。


「……竜くんと……」

「で、お姉さん。ちょっと竜輝借りてもいいですよね?」


 有無を言わせず、連れて行こうとする元カノに慌てる。


「ちょっと、待てよ。俺は一緒に行くなんて一言も……!」

「いいじゃん。竜輝、家族なんて、放っておいてもっといいことしようよ!」

「……家族、……」


 環は表情も体も動かさず、竜輝と元カノを見下ろしている。

 その行動に竜輝はやはり、と絶望的な感情が身を支配する。

 元カノの家族という発言を環は否定しない。

 それは彼女が昔から憧れていた、そして藤崎家に求めてきた役割だったから。

 だから竜輝は永遠彼女の家族以上の存在になれないのだと何度も絶望してきた。

 それでもあきらめきれずに、ようやく環に告白して受け入れられたと思っていたのに。

 やはり、自分では環の大切な弟以上の物にはなれなかったのかと、絶望した時だった。


「ちょっと、失礼」


 いつの間にか竜輝と元カノの近くに来ていた環が、間に入る。

 そして、問答無用で竜輝の首に腕を回すと、そのままの勢いで唇を重ねてきた。


「え?」


 隣の元カノの声が遠く聞こえた。

 柔らかい感触を唇に感じながら、竜輝は何が起こっているのかわからなかった。

 ただ何度か触れたことはある感触にどうやら環にキスされていることが分かった。

 秒にすればおそらく数秒。ほとんど触れる程度のキスだっただろうが、硬直する竜輝をしり目に環は唇を離すと、抱き着いた形で元カノをにらんでいる。


「……家族と言ってもこれから家族になるものですけど、なにか?」


 環の言葉の意味が分かったのかわなわなとふるえる元カノ。


「だ、だって。さっき姉って……」

「竜くんとは昔から家族ぐるみの付き合いでしたから、その頃の名残でそう呼んでるだけです」


 ニコリと笑う環の言葉に元カノは絶句する。

 その様子に竜輝への抱擁を解いて環は腰に手を当て、強い視線で言い放った。


「過去がどうであろうと、今彼と付き合っているのはあたしです。勝手に連れて行こうとしないでくれます?」


 環の言葉に竜輝は唖然とするしかない。この強気の女性は一体誰なのだろうか。

 それでも悔しそうに歯ぎしりする元カノに環は一歩も引かない。


「な、何よ。あんたなんて……地味ブスのくせに」

「……その地味ブスに負けたんですよ。これ以上恥の上塗りする前に帰りなさい」

「そうそう、これ以上醜態さらさないようにね」


 突然上から降ってきた声にその場にいた全員の視線が集まる。

 そこにいたのは長身のすらりとした白衣のパティシエの姿だった。

 目元のほくろも色っぽい極上の美形に元カノの視線は釘付けになる。

 その色っぽい長身のパティシエはあろうことか環を背後からぎゅうと抱きしめた。

 自分がブスと貶めた女に超絶美形がにすり寄るさまに、元カノが声にならない悲鳴を上げている。

 だが気にせず美人パティシエは環の頭にすり寄りぐりぐりと抱きしめる。


「ひどい話だね、こんなかわいくてみんなに愛されている娘に対して地味ブスなんて」

「希……」

「な、な……みんなであたしを馬鹿にして……」


 美形に囲われている環に対し、わなわなとふるえた元カノは憎々しげに睨みつけた後、「覚えてなさい!」と捨て台詞を残して、逃げていった。

 その光景を呆然と見送る竜輝は一体何が起こったのかわからなかった。

 ただ呆然としていると、先ほどの美形パティシエが目の前に立った。


「久しぶりだね、竜輝くん」

「お久しぶりです、真田先輩」


 真田は環の同級生であり竜輝の先輩にあたる女性だ。

 ……そう、女性だ。その高い身長と中世的な顔からわかりにくいが、歴とした女性だった。後で聞いた話ではどうやらこの店で真田は期間限定でパティシエのアルバイトをしているらしい。


 おそらく元カノは彼女を男性と勘違いし、男二人に挟まれる環に女としての敗北を思い知り、逃げて行ったのだろう。

 だが、それを訂正するつもりはない。実際に彼女は明らかに環よりはるかに女として劣っていると竜輝は思う。


「それにしても店の前で修羅場はやめてもらえないか?」

「……ごめん。希」

「環は悪くないだろ。どういう事情があるか知らないけど、彼女と一緒にいるのに女にまとわりつかれるとか、実際ないから」


 真田の言葉に全くもってその通りというしかない。ぐうの音も出ないとはこのことだ。


「ごめん。環姉、真田先輩。もっと俺がしっかりしていれば」

「そんな。あたしこそごめんね。ここに寄ってほしいって言ったからあの人と会っちゃんたんでしょ?」


 先ほどの強さもなりを潜め、環が申し訳なさそうに眉を下げている。

 どうやら竜輝が嫌がっていたのはわかってくれていたらしい。

 その辺は長い付き合いだ。わかってくれる環に素直に嬉しいと感じる。

 そんな二人の様子を見ていた真田がぽつりと意地悪くつぶやいた。


「でも残念。あそこで環が引くようなら、ちょっとは円にまだ望みがあったかと思ったんだけど」


 妖艶にほほ笑む真田の言葉に竜輝は背筋が凍る思いがする。

 真田は竜輝の天敵である紅原の幼馴染であり、やたらと環に彼を進めているのだ。

 紅原自身も環が好きなのはわかるし、彼は大企業の御曹司でその見てくれも悪くない。

 環をいつだって狙っているのがわかっているだけに、気が抜けない。


「ま、ちょっと頼りない気がするけど。環が幸せならそれでいいよ。ただいつでも二番はスタンバってるから嫌になったらいつでもくるんだよ」


 にこやかに告げる真田に竜輝は顔が引きつるのを感じる。


「……希、それはさすがに紅原様に失礼じゃ……」

「さあ、て。じゃ、仕事に私は戻るよ」

「え?あ、ありがとう、希」


 そう言って店へ去っていく真田を見送ったあと、環が呆然とする竜輝に向き直ってくる。

 なぜかその顔は赤い。


「……ごめんね?勝手なことして。……突然、その……キスとか……」


 照れまくる彼女の様子に竜輝は無意識に手を伸ばした。

 そのままキスしそうになる竜輝に環は慌てて手でガードしてくる。


「りゅ、竜くん!ここまだ店先……」

「……環姉はここでしたくせに」


 竜輝の言葉に環は気まずげに唸る。

 しかし別に彼女を困らせたいわけではない。

 竜輝は環の手を引いて物陰に連れ込むと、そのまま唇を重ねる。

 相変わらず子供みたいな触れるだけのキス。それでも竜輝は幸せだった。

 角度を変えて少しだけ長く環のそれを啄む。それを環は受けてくれた。

 しばらくして、唇を離せば、顔を赤くしてとろんとした目をした環をそのまま抱きしめる。


「環姉。ごめんな、嫌な思いさせて」


 ぎゅうぎゅうと抱きしめれば、少しだけ苦しそうな声が漏れた。


「……ん、竜くん、苦し……」

「あ、ごめん……」

 わずかに力を緩めれば、いつになく環が体の力を抜いて竜輝に体を預けてくる。それを支えながら竜輝の胸は暴発寸前まで早くなる。


「……あの人、本当に竜くんの……」


 その続きは小さくて聞き取れなかったが、何を聞かれているのかはわかって、竜輝は嘆息した。


「……どうせ隠してもばれるだろうから言うけど、中学の時一時期付き合ってた」

「……竜くんって、ああいう人が好みなの?」

「そ、そんなわけない!」


 環の言葉に慌てて否定する。環に誤解してほしくなくて竜輝は焦って、普段言葉にしないことまで口にする。


「……あの時環姉と離ればなれになって、さみしくて。環姉、忘れようって思って全然逆のタイプのあいつが声をかけてきたから、そのまま惰性で付き合ったんだ」


 だが、元カノに竜輝の食指は一本も動かなかった。すり寄せてくる体も正直面倒で、おそらく香織の鉄拳制裁がなくても長くは持たなかっただろうと思う。


「でも環姉、忘れられなくて。むしろ恋しくて。ずっと考えていたいのも、触れたいのも一緒にいたのも環姉だって、それしか思えなかった。だから……」


 そこまで告げて環に手で口をふさがれる。


「……っ、りゅ、竜くん。ごめん。それ以上は勘弁して。」


 俯いて顔を真っ赤にする環に自分が一体何を口走ったかを思い出し、竜輝の顔もゆでだこのようになった。


「こっちこそ、ごめん。気持ち押し付けて……」

「あ、いや。こちらこそ、あんな風に啖呵切ってしまって……」


 なぜかお互いにもじもじし合ってしまい、やがてどちらともなく笑いが漏れた。

 流石にあまり大きな声ではなかったが、ひとしきり笑ったあと環が竜輝に寄り掛かる。


「ほんとはずっと不安だったんだ」


 ぽつりと落とされた環の独白に竜輝ははっと身を固める。


「付き合い始めたけど、竜くん、年下だし。あたしみたいな地味で年上なんかよりずっときれいでかわいい御嬢さんなんていくらでもいるし……」


 環の話では、ずっと竜輝は幼馴染だから環を好きなのだと思っていらしい。

 一番近い位置にいた異性が自分しかいなかったから、懐いてくれたのだと。


「あたし、竜くんが他の娘を好きになる機会を奪ってるだけなんじゃないかって……。

 だから竜くんにもっと外に目を向けられたら、あたしなんかあっさり捨てられちゃうんじゃなかって思ってて……」


 その独白はまさに竜輝がずっと環に対して危惧し続けた内容と同じだった。

 気持ちが痛いほどわかって。だからこそ自分たちの愚かさがわかって。

 竜輝は笑った。


「環姉。そんな心配は無駄だよ」

「……竜くん?」


 竜輝は環を抱きしめる腕の力を強めた。

 環の体温はよく知るもので、それこそ赤子のころから慣れたもの。

 これ以上に安心できる体温を竜輝は知らない。


「きっとこれからたくさんの女性に俺も会うかもしれなけど、たぶん俺の中で環姉以上の存在になることはないよ」

「……それは、だからたまたま目に入っていないだけで」

「ない。たとえ世界一の美女って人に言い寄られても俺は環姉を選ぶよ」


 だから信じて。

 それはずっと自分が言ってほしかった言葉、そして言いたかった言葉。

 竜輝はそっと環に唇を落とす。


 いつもよりずっと深く。触れるだけでなく竜輝は環の口内に舌を絡めた。

 これまで嫌われるのが怖くてできなかった行為。

 環の心が知れた今ならできると思って思い切って仕掛ける。

 それにおどろいたように環はわずかに肩を跳ねさせるが、それでも抵抗はしなった。

 環のすべてを味わい尽くすような深いキスに竜輝はおぼれる。

 どこくらいそうしていただろう。もはやどちらの物とも知れなくなった液体がこぼれそうになっているのを舐め取り、ようやく唇を離す。

 うまく呼吸ができていなかったのか酸欠で息を乱し、わずかに涙の浮かぶ眦に唇を落とした。


「環姉……。いや、環。好きだよ。大好きだ」


 万感の思いを込めて竜輝は告げる。


「世界中の誰より愛してる」


 恥ずかしいという気持ちより、もはや伝えたい気持ちが強くて竜輝は告げた。

 環はそれに一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間花が開くような笑みを浮かべた。


「ん……あたしも、」


 愛しています。


 そう告げて今度は自分から唇を寄せてきてくれる。

 それからしばらく二人はお互いの気持ちを確かめるために睦みあう。

 しかし、だんだん日暮れが迫ってきて互いの顔すら見えづらくなったあたりでいい加減帰らなくてはと思い始めてどちらともなく体を離す。

 だが最後までその手は放さなかった。




 店先に止めていた自転車だけは引き取り、片手で押して、片手で環と手をつなぐ。

 自転車を片手で押すのは、なかなか難しいが、手を離したくなかったので竜輝はそのまま歩く。


「ところで、環姉」


 先ほど名前で呼び捨てたものの、長くつけていた姉の文字が日常的にとりづらく、環もそのほうがいいと言ってくれたのでそのまま貫くことにした。

 そのうち取るつもりで入るが、気持ちを確かめ合った分、今は急がなくてもよいと思えた。


「さっきの店になんで行ったんだ?」

「え?ケーキを買うためだよ?」


 環の手の中で揺れる白い箱を見れば、それと知れるが、竜輝がききたいのはそこではない。


「いや、ケーキはわかるけど。……なんか、イベントあったっけ?」


 基本藤崎家ではケーキは何らかのイベントの時にしか出されない。


「え?竜くん、覚えてないの?今日何日か知ってる?」


 環に驚かれて日付を思い出す。

 そこでようやく今日が何の日か思い出す。


「あ…、俺の誕生日?」

「そうだよ。忘れてたの?」


 くすくすと笑いながら環が告げる。


「十八歳の誕生日おめでとう、竜くん」


 すっかり忘れていた手前、なんとなく素直に賛辞を受け取りにくくて、竜輝は頭を掻いた。


「竜くんも十八なんだね~、ちょっと前まであんなに小さかったのに」


 しみじみ告げる環を竜輝はさすがに半眼でにらんだ。


「そんな近所のおばさんみたいな言い方やめてくれ」

「……ひどい。あたしはまだ十代なのに」

「おばさんとは言ってない」


 憮然と言えば「わかってるよ」と笑われた。

 それがなんだかからかわれたみたいに感じて、竜輝は少し意地悪を仕掛けることにした。


「でも、十八って言ったらいろいろできるようになるよな」


 竜輝の言葉に環は首を傾げている。


「え?でもお酒もたばこもダメでしょ?それに選挙だって二十歳からだし」

「他にもあるだろ?」

「……あ、車は免許取れるようになるよね。あとは……あ」


 ようやく竜輝の言わんとすることが分かったようで環の目が僅かに驚きに見開かれる。


「結婚。できるようになるよな?」

「そ、そうだね……?」


 なぜか視線を逸らされた。


「で、環姉、さっきの話だけど」

「さっきの話って?」

「これから家族になる者ですけど、って言ってた話」


 にやっと笑えば、環の頬が赤くになる。


「あ。あれは、その勢いっていうか」

「嘘なのか?」


 せいぜい哀れっぽくしょげて言えば、環はうっと言葉を詰まらせた。


「う、嘘じゃないけど……」

「俺は環姉さえよければ、すぐに名字変えてもらっても構わないけど」


 つないだ手を握りなおして言えば、顔を赤くしながらも困った顔をされた。

 家族は誰も反対しないだろう。

 むしろ藤崎家の面々は手ぐすねを引いている状態だ。


「そ、それはさすがに早すぎるから……」

「まあ、たしかに」


 竜輝はまだ高校生だ。

 大学にも進学予定だし、さすがに働いていない状態で、彼女を迎えることはできない。


「ゆっくり行こう。急ぐことはないよ」


 そう言って笑う彼女の顔に竜輝は微笑み返す。

 この笑顔を向けてもらうために確かに竜輝は長い時間をかけたのだ。

 今更確かに急ぐことはない。

 少し高スペック過ぎる男達にモテすぎる彼女の身が不安だが、それは竜輝がしっかりすればいいことだ。


「さあ、早く帰ろう。竜君、きっと香織やオジサンおばさんも待ちくたびれているよ」


 確かに空を見上げれば月が見えた。


「帰ったら誕生日会だよ。今年のプレゼントは期待していいよ。結構奮発したんだから」


 大学に進学して以来環はバイトを始めたらしい。

 その分金銭的な余裕ができたみたいで、今年初めて金のかかった竜輝へのプレゼントを用意したらしい。

 これまでも決してもらっていなかったわけではないが、たいてい手作り品だった。


「別に、そんな奮発しなくてもよかったのに。いつもの手作りでよかったのに」


 なんだかんだで、環からもらっていたのは、手作りの手袋やマフラーなど。

 意外に器用な彼女の手作りは市販品となんら遜色はない。


「むう、そんなこと竜くんまで言わないでよ」


 彼女が膨れるにも訳がある。

 先日竜輝の父親の誕生日があった際も、環はいつもの手作りではなく、そこそこいいブランドの靴下をプレゼントしていた。

 しかしプレゼントをもらった瞬間、父親は手作りがよかったとがっかりしたのだ。

 その姿があったのだろう。

 せっかく買ったプレゼントが喜ばれないと環は嘆いていた。


「ごめんごめん。楽しみにしてるから」


 笑うと信じてないとばかりに睨まれるが、こればかりは信じてもらうしかない。


「でもさ、環姉、そのプレゼントってなに?」

「それは家についてのお楽しみ」


 楽しそうにほくそ笑む環に見惚れながら竜輝はぼそっと告げる。


「……もう一個リクエストしてもいい?」

「ええ?それは欲張りすぎじゃない?」

「金のかからないものなんだけど」

「お金のかからないもの?」


 首を傾げる環に意を決して竜輝は告げる。

 ただ恥ずかしいので、耳打ちでだが。

 それを聞いた環は一瞬不思議な顔をしたが、次の瞬間見る間に赤くなった。


「りゅ、竜くん……それは、その」

「……だめか?」

「それは、その……」


 しどろもどろな環を、竜輝は照れながらもまっすぐ見つめた。


「ほんとにダメ?」

「ええっと、そういうのはこういう路上で言うことでは……」

「ほんとよね」


 突然耳元でした第三者の声に二人は驚いて声のした方を向いた。


「香織!」

「姉貴!」


 そこには環の親友にして竜輝の姉である香織があきれた様子で二人を見ていた。


「何やってたのよ二人とも。遅すぎよ」

「ご、ごめん。ちょっといろいろあって」

「環はよいのよ。どうせ竜輝がなんかやらかしたんだろうし」


 姉の言葉になぜか不思議な理不尽を感じる。

 環の周りの女性は姉にしても真田にしてもやたらと環に甘い。

 実際環に非があることはほとんどないため、その言い分が正しくないわけではないが、多少の不満は隠せない。

 とはいえ、実際に今回の件はほぼ竜輝が悪いので反論もできずに口を噤んだ。


「ほらほら、みんな待ちくたびれてお腹すかせてんだから早く行く行く!」

「わっ、ちょ、香織押さないで!」


 香織に押し出されるようにして進む環を思わず嘆息する。

 もしかしたらあと少しで了承が取れそうだったと思うと少し悔しく思っていたら、環と先に行ったはずの香織が突然くるりと反転し、素早く近づいてきた。


「……竜輝」

「なに、姉…きっ!」


 突然、脇腹をなぐられた。手加減されたのはわかったが、それでも空手有段者の香織の拳は重い。

 半眼で睨まれる。


「さっきみたいな台詞は元カノからきっちり環守ってから言いなさい」

「っ!な、なんでそのこと」


 竜輝の驚愕に、香織は邪悪な笑みを浮かべた。


「壁に耳あり障子にメアリー。……女子はみんなつながってんのよ?」


 スマフォをちらつかせてほほ笑む香織にすべての事情を理解する。

 どうやら香織は真田ともつながっているようだ。一体どういう経緯で知り合ったのか、わからないがすべての事象はこの姉に筒抜けらしい。


「次に環に元カノを近づけたらこの程度じゃ済まさないから、覚えてなさい?」


 奇しくも元カノの捨て台詞と同じことを告げるも、その重さの違いは歴然でさすがの竜輝も顔をひきつらせた。


「お、鬼…!」

「まだまだあんたに環を任せられないわね。おとといきやがれ」


 最後にびしりと、指を突き付けた姉は、何事もなかったかのように踵を返す。


「香織?どうしたの?」


 少し先を歩いていた環がなかなか来ない藤崎姉弟をいぶかしんだか振り返る。

 おそらく姉の所業は環には見えていないだろう。不思議そうな顔をして姉弟を見ている。

 そのへんは全くに抜かりない姉だ。


「なんでもなーい、いこいこ!」


 環の肩を押す様にして連れて行く姉の背中に竜輝は嘆息する。

 環への道はどうやらここからが本番のようだ。

 これまで以上に長そうな道のりに、思わず漏れた竜輝の溜息は冬の空に解けて消えた。

以上やたらと初々しいバカップルのエンド後話。有り得るのかありえないのか微妙企画!・・・というわけで。

正直最後、夢オチにするか悩みましたが、まあIF話なのでここは竜輝に花を持たせました。よかったね、不憫w

この話も倉庫格納はどうしようか考えましたが、取り敢えず格納しときます。不評であれば下げますが。

と言うわけでダーク一周年記念でした。

しぇば!☚やりにげ


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