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4-6

 その場所はとても華やかだった。

 大勢のきらやかな衣装をまとった男女が実に楽しそうに談笑していた。

 その顔には仮面がかけられ、仮面をつけていないものはその服装からも給仕なのだとわかった。

 多くの魔法の光がともされたシャンデリア、豪奢な装飾のエントランスホール。

 キラキラと輝いてみえたが、入って早々の感想は「来なくてよかった」だ。


 室内の中央はオーケストラを背景にしたダンスホールと化しているが、その中でもとても目立っている二人組の姿があった。

 ひとりは本当に人間だろうかと思うほどの美貌の男だ。黒いタキシードに黒いマントを付け、それが豪奢な金の髪をより引き立てている。どんな美女も虜にするだろう綺麗な葵瞳は、しかしただ一人しか姿を映していない。

 その相手たる少女はこれまた男に見劣りしない美少女だ。

 茶色の巻き毛をゆうことなく後ろに流し、薄いピンクのドレスを翻し、その踊りながらもくるくると変わる表情は周囲の異性の視線を独り占めにしていると言ってもいい。

 …だれが想像で来るだろうか。

 この二人がついこの間まで世界を恐怖のどん底に落とそうとしていた魔王とそれを倒した勇者であることを。

 周囲の視線をひたすら集めまくる二人だが、彼らは全く気にすることなく踊っている。

 あのひと目もはばからない魔王の熱視線に当てられた周囲の女性たちが時々ぱたりと倒れているのが見える。

 何とも歩く公害だなあの人は。

 ともかくやっぱり舞踏会断っといてよかった。

 なんでか利音お姉さまはあたしがいるとあたしにべったりひっついてくるからね。


 そうなれば必然と魔王の嫉妬とその他の人々の嫉妬と羨望と興味の視線を受ける羽目になる。ううう、想像しただけで胃に穴が飽きそうだ。


 とにかくあんまりここにいて存在がバレても怖い。あたしは給仕するふりをしながらもそっと目的の場所へ移動していった。


「あ、あの困ります」

「いいじゃないか、ねえ、一曲だけだから」


 壁際を給仕している振りをするためにお盆に飲み物を乗っけたものを持って移動していたあたしにその言葉は聞こえてきた。

 みれば進行方向にドレスの女の子に絡んでいる男がいた。

 双方とも仮面をつけているが、女の子の方は素顔が見えないにもかかわらず、その美少女っぷりがダダ漏れているほど可愛い。

 やや幼目だが、レースのふんだんにあしらわれた白いドレスは彼女の愛らしい容姿を引き立て、小動物を思わせる仕草がさらにその可愛らしさに華を添えている。

 どう見てもダンスに誘う男を嫌がっているようにしか見えないが、その仕草すらむしろ男を燃え上がらせるだけにしか見えない。


「ねえ、どうせ一人でしょ?俺とこのあとどう?」

「え?ど、どうって?」

「だからさ、二人でこのまま抜けようってこと」

「ええ!?い、いえ、流石に連れがいるので」

「え~、さっきから見てるけど、一緒にいなかったじゃない」

「い、いや、なんか食べ物を取りに行ったきり戻ってこないだけで…た、琢磨ぁ」


 ツレを呼ぶ声にどこか聞き覚えがあって、思わず立ち止まる。

 あれ?なんか聞き覚えが。声の主である美少女。

 あんな美少女知り合いにいたっけか?

 だが、疑問に思っている間にも二人の会話は進んでいく。


「そんなに怯えないでよ。別に変なことをしようというわけじゃないしさ」


 そう言ってグイグイと美少女の手を引いて連れて行こうとする男。


「あの、は、離してください!」


 怯えた様子の美少女は抵抗しているが、男の力に抵抗できておらず、ズルズルと引きずられそうになっている。

 ・・・流石にここで見捨てるのはなんだか寝覚め悪いかね?

 逃亡中としてはあんまり派手に立ち回りたくないし、そもそもあたし自身非力だし。


「いいじゃない。二人で楽しいことしようよ?」


 ニヤニヤといやらしい顔で笑う男にうつむいたまま美少女が何かつぶやいた。

 その光景になぜかあたしは既視感を覚える。


「え?なんか言った?」

「…赤い色は…炎の…」


 のんきな男の前で美少女のつぶやきを聞いた瞬間あたしは手に持った飲み物を思いっきり音に投げつけた。


 ばしゃ!がっちゃん!


 盛大な音がして、周囲の視線が向くが、かまってられるか。


「わっ!な、何するんだ!お前!」

「っ!た、多岐さん!?」


 投げつけたあたしに向かって美少女が名前を呼んだ。

 や、やっぱりか。


「ど、どうしてこんなところに…!?」


 それはこちらのセリフです。一体なぜに貴方がこんなところにそんな格好でいるんですか?霧島くん。

 霧島くんは冒険者ギルドの魔法使いだ。

 先日たまたま、街で絡まれていたのを助けたのが縁で知り合った。

 自警団呼んだふりしたら男が逃げてったので、助けたかって言うとどうかと思うけど。


 その時も彼は男に美少女と間違われて絡まれていました。

 いや、その美少女顔は正直間違われても仕方ないのですけど、彼ってば絡まれて混乱すると魔法を所構わずぶっぱなすところがあると、その相棒に言われていたのだ。

 どう考えても、さっきぶっぱなそうとしてたよね?

 王宮で、しかもこんな人の多いところで。

 国家反逆罪にでもなりたいんですか!?

 男に対してはぶっぱなしても自業自得ですむが、流石にここではまずいでしょうが!

 流石に知り合いが縛り首とか見たくないから!


「おい、お前。メイドがこんなことしてただで済むと…」

「お前こそ。俺のツレに手を出してただで済むと思ってんの?」

「うわ、お前なに…いでででで!」


 突然男の背後から聞こえた別の声に驚くと同時に、男の悲鳴が木霊する。

 男の手をひねりあげている男は。


「た、琢磨あ!どこ言ってたんだよ!」

「悪い、大翔。ちょっといろいろ摘んでたら時間かかってな」


 女装男子の美少女が半泣きで指を突きつける相手は、彼女…いや彼の仲間の冒険者だ。

 やっぱり二人で来ていたか。

 お願いだから目を離さないでもらえないか?

 しかしこちらの願いなど当たり前だが届かず、霧島くんの相棒はニコニコ笑いながら


「それより喜べ。なかなか面白い料理が見れたぞ。これで結構レパートリー増えたから食事楽しみにしろよ?」

「そ、それは嬉しいけどさ。それよりもう帰ろうよ。琢磨が、城で出される料理を見たいっていうから、僕がこんな格好したけど。もうこれ以上は…」


 …大体の事情は把握した。

 どうやらこのふたりは城に料理を見に忍び込んできたようだ。

 今日の舞踏会は若い女性連れなら大抵、ほとんどノーパスで入れるから、おそらく霧島くんに女装させたのだろう。

 恐ろしくにあっているので誰も彼が男だとは思うまい。


「おい、お前たち。そこで何を騒いでいる!」


 騒ぎを聞きつけたのだろう、衛兵が数人こちらに来るのが見えた。

 やばい!見つかったらあたしの方こそ縛り首だ。

 あたしは慌てて身を翻して、人ごみに紛れた。


「あれ?多岐さん?!ど、何処へ?」


 背後から霧島くんの声が聞こえたけど無視して逃げる。

 どうか衛兵にあたしのことを言ってくれるなよ?

 それだけを願いながらあたしはその場を逃げ出した。

 くっそー、いらない時間を食った。


 とりあえず、さっさとここからでなければ。

 ほんと下手に知り合いに会いたくない!

 なんか下手に絡まれたらひどい目に会いそうな気しかしない。

 それこそ死んじゃいそうな特大の死亡フラグだ。


 舞踏会会場はやっぱり思った以上に危険がいっぱいだ。

 目的地に行くなら、ここを突っ切った方が早いけど、死亡フラグには変えられない。

 とりあえずここから出るべく、一番近い奥に通じる通路に出た。

 やや明かりを落とした感じの通路で、なんだか不思議な雰囲気の場所だ。

 そう言えば舞踏会から入ってすぐの場所だというのに既に人気がなくなっている。

 うう、一体どういうところなんだろう。

 だが、通路はまっすぐ伸びている。

 方角的に見てもこのまま進んだら目的地につくだろう。

 あたしは意を決して足を進めた。


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