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ACT.7 通商惑星ヤマトン

(……あら?)

 船がポートゲートに差し掛かり、自分の見知ったゲートを素通りした時だった。カレンがゲートを間違えたと思ったリンダは、それを素直に伝えた。

「……ネ……カレンさん?メインポートのゲートはあちらですワよ?」

 カレンは眉を顰めて一時リンダを見やり、目を戻しながら答えた。

「…アタイは海賊だぞ?メインポートに入るわけねーだろ。こーゆー時は組合のポートを使うのさ」

「……組合って?」

 カレンは鼻で吐息をついてから、少し面倒そうに答えた。

「宇宙海賊組合だよ」

「へぇー!宇宙海賊に組合があるんだ……そっか、海賊なら誰でも入港できるってことか!」

(……ここにも世間知らずがいたよ……)とカレンはガクリと肩を落としたが、組合の存在を知らないミロがすぐに自分の意図を察したことには感心しつつ、目の前に迫った着艦エリアに集中しながら答えた。

「まあ、そーゆーこった。……さぁ着くぞ……」

(いや……世間知らずはアタイの方で……こいつらは宇宙知らずか……フフ)

 地上に住まう一般人が宇宙に住まう宇宙海賊を知らないのも無理はなく、逆もまた然りであることに気付いたカレンは、そんな二人と行動を共にしている自分が少し愉快な気がした。

 今の宇宙で「宇宙海賊」と言えば、所謂船や惑星を襲う略奪集団ではなく、宇宙流通に従事する星間運送業者のことだった。しかし、星間運送業者が何故海賊と呼ばれるかと言えば、それはおよそ八〇〇〇年前に二つの銀河の九つの星系が共同で興した「第二期未開銀河フロンティア事業」に参加した勇敢な宇宙開拓者達を、敬愛を込めて「VIKINGS」と称したことが始まりだが、この時はまだ海賊という意味ではなかった。

 銀河の随所に存在するワームホールがまだ知られていなかった時代、彼らは世代交代を繰り返しながら銀河を漂流し、やっとの思いで大気もない惑星にたどり着いた。そして数千年かけ大気を調整し、土壌を改良し、時には凶暴な異星生物達と戦いながら悠久とも思える時をかけて未開銀河を開拓していった。こうして壮大な事業が終了した後、殆どの開拓者は自ら開拓した星に定住するこを望んだが、定住を望まない者達は更なる向こうの銀河を目指し、宇宙で最も過酷な仕事であるワームホール探索を開始した。

 そして、この探索を買って出た勇猛果敢な荒くれ者の子孫が宇宙流通に携わる者達であり、ミロ達の時代に伝わる「海賊」だった。カレンはその子孫ではなかったが、今いる星系に存在する最後のワームホール探索時に活躍したことで、この星系の海賊達から「女海賊カレン」と呼ばれていた。

「……着艦した。指示くれ」

 船は音もなく無事に着艦し、途端にスピーカーから威勢の良い男の声が響いた。

「よう兄弟っ!随分腕がいいようだが、何処の誰で、何の用だい?(アハハハハ!)」

(……なんだ?)

 男の声の後に聞こえた大勢の笑い声が気になったが、とりあえずカレンは質問に答えた。

「アタイは女海賊カレンってんだ。ちょっくら食いもん補給しに寄っただけさ」

「えっ!?……了解!まあ、ゆっくりしていきな!(ワッハハハハ!)」

(……なに笑ってやがんだ?)

 ある程度自分の名が通ることを知っているカレンは、男の驚きは気に留めなかったが、後の笑い声が自分を笑っているような気がして不愉快だった。そしてカレン達が揃って船を降りると、そこには厳つい男達の爆笑が待っていた。

「アッハッハッハッ!!あんたがあのカレンだって!?」

「アハハハハッ!!」

「……」

 男の一人がカレンに尋ねると、また皆が一斉に腹を抱えたが、二三度瞬きをした間にカレンは自分の名を呼んだ男の前に立っていた。

「っ!?」

 男達は息を呑み、カレンは自分より頭一つ背の高い男を見上げながら、静かに尋ねた。

「オイ、何がおかしい?」

「あ、いや……待ってくれ!別にあんたを笑ったわけじゃねえんだ!」

 不快な思いがミロの心に滑り込み、ミロは思わずカレンに声を掛けていた。

「!…カレンさん!」

「…んだよ?」とカレンは眉間に皺を寄せて振り返ったが、ミロとリンダの頭上を見上げた瞬間、「うっ!」と呻いて身体を強張らせた。

「……?」

 ミロはカレンの反応に苦笑したが、リンダはカレンが船を見ていることに気付き、船が瓶であるという話しを思い出し、船から少し離れて船全体を見渡しながら驚きの声をあげた。

「……まあ!!……本当に瓶でしたのね!驚きましたワ!」

「ブハハハハッ!!」

 男達は堪えきれず吹き出したが、カレンは腕を組みミロを睨めつけてから、どすの利いた声で呟くように言った。

「……どんな船に乗ろうと、アタイの勝手だろ?」

「!……あ、ああ、そうだな!……ぐっ……ククッ……」

 カレンは男達の相手を止めて、ミロの元へ戻って言った。

「ミロ……この船そんなにおかしいか?」

「……ううん、俺は気に入ってるよ」

 ミロの苦笑は、男達とは異なる苦笑だった。カレンは不敵な笑みを浮かべながら、短く笑って言った。

「フフッ……とっとと飯食いに行こうぜ。腹減った!」

「あっ!待ってですワ!」

 カレン達は入星審査を受けるために審査ゲートへ進み、十メートル程の自動審査トンネルに入った。トンネルを歩きながら、ふとミロはガーディアンがいないことに気付いたが、リンダが隠したのだろうと思って黙っていた。それよりミロは、船を降りる前から幾つかの疑問に囚われていた。

 ミロの予想では、自分とカレンは疾うの昔に指名手配されていて、入星と同時に捕らえられるはずだった。しかし、カレンが名乗って船を降りても笑われただけであり、あの事件が広まっていないことを知って内心驚いていた。そこでミロは、もし何らかの理由で事件が伏せられているとしても、まずは様子を見ながらリンダを安全な場所で穏便に開放しようと考えた。

 そしてもう一つ、これはミロの性分だが、通称惑星の大きな財源であるメインポートのすぐ横にもう一つ大きなポートがあり、それが「海賊なら誰でも入港できる」ポートであるという事実を、ミロはすんなり飲み込めなかった。しかし、それを考えるにしても材料が足りないので、それよりどこで何を食べようかという考えに移った時だった。ミロ達の前に屈強そうな入星審査官が現れ、先程の男達とは違う親しみのある笑顔で言った。

「あんたがカレンさんか!噂は聞いてるぜ!……こんな辺鄙な星に何しに来たんだい?」

「言った通り、食いもん調達にきただけさ。腹減ってんだ。もう下に降りていいかい?」

「ああ、身分証見せてくれりゃあ、かまわねえよ」

(身分証!?……ピンチですワ!)

 顔を見られただけでも危ういのに、身分証を見られたら言い逃れられないリンダは、いっそこのまま素性を明かして審査官を丸め込んでしまおうかと思った。しかしそんなリンダの葛藤を余所に、カレンは気楽な口調で堂々と答えた。

「身分証?んなもんポリスに置いてきちまったよ!」

「ハハッ!いったい何やらかしたんだか……組合の身分証ならここで再発行できるぜ?」

「……腹減ってんだよ。後じゃダメか?」

「一応規則だからな……そっちの兄ちゃんのでもいいぜ?」

(!)

 カレンと審査官のやり取りを楽しく聞いていたミロは、急に振られて驚きつつもカレンの態度に習って堂々と身分証を提示した。

「ああ……どうぞ」

 ミロの身分証を見るなり、審査官は怪訝そうにミロを見て尋ねた。

「……兄ちゃん学者さんかい?」

「はい」

「へぇー……」

 若い女海賊と学者という組み合わせに興味を抱いた審査官は、二人の関係が知りたいと思った。しかし、空腹で不機嫌そうなカレンを茶化すのも大人気無いと思い直し、ミロの身分証を記録してからカレン達の入星を許可した。

「……オッケ!……帰りにまたな!」

「おうっ!ありがとよ!」

 しかし、(ほ〜っ……ですワ……)とリンダが胸を撫で下ろした時だった。

「あの……ちょっといいですか?」

「ん?なんだい?」

 ミロはきょろきょろと当たりを見回しながら、カレンとリンダにとって信じ難いことを口にした。

「……警察はどこですか?」

(!?……バカミロ!なに考えてやがんだ??)と思いつつ、カレンは組合のポートに警察がないことをミロに話しておくべきだったと後悔したが、ミロが海賊でないなら知らなくて当然と考えた審査官は、ミロの場違いな質問に気さくに答えた。

「警察は下か隣のポートだ。ここにはねえよ」

「……どうしてここに警察がないんですか?」

 堪り兼ねたカレンは、思わず口を挟んだ。

「警察なんて下行きゃいくらでもあんだから!早く飯食いに行こうぜ!」

 しかしミロは、カレンを見もせずに素っ気なく言った。

「……先に行ってていいよ」

「!……あ゛?今なんつった?」

「!?」

 カレンの声に痴話ゲンカとは思えぬ殺気を感じた審査官は、慌てて二人の間に割って入った。

「まっ、まあまあ!ここで喧嘩しねぇでくれっ!」

 審査官はカレンの剣幕に少しも動じないミロを見て、手っ取り早くこの場を治めるには、この変な学者を納得させた方が早いと思った。

「あー、学者の兄ちゃん。ここは海賊の組合だ。海賊がなにしてるかは知ってるかい?」

「はい。物資の流通ですね?」

「そうさ!俺達は運び屋だ……でけぇ声じゃ言えねぇが、時にはグレーなもんも運ぶ。警察や監察にうろうろされたら商売になんねぇから、十何年か前に元締めの連中が専用ポートを建ててくれたのさ。で、そん時から警察とは仲が悪いってこった!だからここにゃ警察はねぇのさ。わかったかい?」

 ミロは少し考えてから、微笑んで答えた。

「……なるほど、わかりました!ありがとうございます!」

「ああ、わかってくれて嬉しいよ」

 カレンは腰に手を当て、やれやれと吐息をついて言った。

「ったくバカミロ!わかったんなら早く飯食いに行くぞ!」

「う、うん。行こっか」

(………)

 そしてカレン達は降下エレベーターへと向かって行ったが、審査官はミロの背中を見ながら、なんとも言い難い不思議な感覚を味わっていた。様々な人物を見てきた審査官の目には、カレンは噂に違わぬ若く美しい女豹のように見えたが、まだ少年の面影が残るミロの方が幾分大人に見えていた。そしてミロが学者であると知った時、自分の目に狂いはなかったと思うと同時に、何かを警戒している自分にも気付いていた。しかし、照合しても身分証は本物であり、疑うだけ無駄かと審査官が思った時だった。若い管制官の一人が駆け寄り、フィルムモニターを差し出して言った。

「ラッキオさん、ちょっとこれ見てくださいよ。ついさっき統制局から回ってきたんですけど……」

 それはカレンの低解像度画像であり、上には「女海賊カレン 見つけし者にカテナ星一泊二日の旅プレゼント!(※一名様)」と書かれてあった。

「んー?……ああ、ポリスでなんかしたみてぇだったが……にしても、どこの賞金稼ぎか知らねえが、一泊二日はみみっちいな」

「ですよねえ!……あと、これ見てください。こっちは昼前に回ってきたんですけど……」

「んー?……っ!?」

 管制官が切り換えた画像を見た審査官……ラッキオは、その画像の少女を見て息を呑んだ。それは紛れもなく今し方カレン達と共にいた金髪の少女であり、画像の上には「探し人 リン・ダイソン・リング 発見者に五〇〇〇〇リル進呈」と書かれてあった。

(……参ったなこりゃ……子供だと思って油断した)などと思いつつも、ラッキオは咄嗟に平静を装った。

「あー……こりゃあ、さっきの子にちょっと似てるな……でも違うだろ」

「俺もそう思うんですけど……ほら、これこれ!」と管制官はまたカレンの画像に切り換えて、カレンの脇の下に小さく見える金髪を指さして言った。

「……まあ、違うと思うんですけどね……カレンさんと一緒に来たってのが、ちょっと気になって……それにしたって、流石ダイソンの令嬢!五〇〇〇〇リルったら家一軒買えますよねえ!」

(ったく、余計なことに目敏いヤツだ)と思いつつも、ラッキオは話しを逸らすきっかけを掴んだ。

「……んなうわついたこと言ってんじゃねぇよ。お前、家建てたって聞いてるぞ?」

「あ、そうなんですよ!今度是非遊びに来てください!部署のみんなで!」

「おいおい、どんだけ広い家だ?……まあ、いずれ遊びに行っから、そろそろ仕事に戻ってもいいんじゃねぇか?」

「!すみません!では!」

「おうっ!バリバリ働いて借金返さねぇとな。頑張れよ!」

「はいっ!」

 いそいそと部署へ戻る管制官を見送りながら、ラッキオは大きな溜息を洩らした。

(はぁ……しっかし、マジで参ったな……お孫さんいるってなぁ聞いてたが……まあ、顔知らなかったのはマジだし…………バックレるっきゃねえな!)

 もちろん審査官という立場上リンダを放って置けるはずはないが、ラッキオにはカレンとミロがダイソンの令嬢を誘拐しているようには見えなかった。

(……ま、船はおさえてあるし、どーとでもなるか……)



(……まだかよ?……)

(……遅いエレベーターですワね……)

 地上までおよそ三分半掛かるエレベーターの中で、カレンとリンダは同じようなことを考えていたが、ずっと無言だったミロがふと口を開いた。

「……カレンさん」

「なんだよ?」

 ミロは一拍おいてから、カレンの目を見て尋ねた。

「あの人が言ってた元締めの連中って、星間ギルドのことだよね?」

(……んなこと考えたって腹は膨れねぇのに、学者ってのはヘンなヤツが多いってホントだな)と思いながら、カレンは溜息混じりに答えた。

「……ああ、この辺の流通仕切ってんのはギルドだからな」

 ミロは一瞬にやりと口元を歪ませてから、いつもの顔に戻って言った。

「ありがとう!そっか、いろいろわかってスッキリしたよ。……でもなんか、海賊のイメージちょっと変わったなあ……」

 普段誰にどう思われようと構わないカレンだったが、この時は何故か、我知らず尋ねていた。

「……なんだよ?……海賊をどう思ってたんだよ?」

 しかし、ミロの代わりにリンダが答えた。

「そうですワね……海賊さんて、もっと粗野で乱暴な方々と思ってましたけど……意外に随分きちんとしてましたワね……やっぱり少々粗野でしたけど」

「……あのなぁ、そーゆーのをセンニューカンってんだ」

「あら、その通りですわ!はじめてお会いした海賊さんがカレンさんですもの、そう思っても不思議じゃないでしょう?」

「……ニャに?」とカレンはリンダを睨めつけたが、その時「グゥーー」という見事な音がミロの方から聞こえてきた。

「はは……ホントにお腹空いたね」

「……はぁ……空き過ぎちまって、リンダの相手する気にもならねぇよ……」

「……はぁ……カレンさんの髪が、パイナップルに見えますワ……」



 一方その頃メインステーションの入星審査ゲートでは、二人の審査官が心から後悔していた。

「……ですから、お二方のご経歴は、よーくわかりましたから!」

「あ、ほらっ!お連れの方があちらでお待ちですよ!」

「そんでねっ、これがあたしのお婆ちゃん!お婆ちゃんも警察官だったの!」

「いや、その……」

 賞金稼ぎを名乗る二人の女性が審査ゲートに入って来たのは、かれこれ十分前のことだった。特に怪しいと思ったからではなく、いい歳して可愛いフリルがついたピンクのロングスカートを纏った女性が、他にどんな服を持っているのかちょっと見たいと思っただけだった。しかし、彼女はトランクを開けるや否や家族のスナップ画像を取り出して、長身で黒髪の相方と自分の生い立ちを語り始めたのだった。

(……そろそろヤバイわね……)

 メインステーションの審査ゲートは三コースあるが、他のコースに列ができはじめていた。これ以上一人に構っていたら業務全体に影響が及ぶと考えた審査官は、一旦彼女を別室に案内しようかと思ったが、いままで何度視線を送っても黙っていた彼女の相方がやっと口を開いてくれた。

「ケイッ!!……いつまで遊んでんの?いい加減にしないともう行っちゃうからね!」

「あっ!センパイ待って!」

 ケイは出したバッグの中身を大急ぎでしまいながら、監察官の一人に尋ねた。

「あ、あのね……海賊組合にはどうやって行ったらいいの?」

 審査官は一度総合案内カウンターを指さし掛けたが、すぐに別な方向を指さして答えた。

「……あちらの奥にポーター用の端末がございますから、ご自分でお調べになってください」

「はーい、ありがとー!」

「……」

 他のゲートに並んでいた入星者がぞろぞろと向かってくるのを眺めながら、審査官の一人が溜息混じりに呟いた。

「はぁ……ねぇ、あの賞金稼ぎって、ここへ何しに来たのかしら?」

 もう一人の審査官は、小首を傾げながら答えた。

「……一時就労で入ったんだし、仕事に来たんじゃないの?」

「仕事って、賞金稼ぎ?この星でそんなことできるわけないじゃない」

「知らないわよ。……賞金稼ぎが賞金だけ稼いでるわけじゃないっしょ?」

「じゃあ何かしら?」

「だから知らないってば!ほら来たわよ。三番目の男、銃持ってるからね」

「はいはいっと」

 ミランダがミロ追跡の足掛かりにこの星を選んだ理由は、幾つかの必然と少しの期待からだった。あれからミランダは、スペースポートの端末から特殊な瓶型宇宙船の行方を追ったが、どの惑星のポートにも入港記録はなかった。つまり船はまだ宇宙にいるか、どこかに不法入星しているか、正規のポートを使っていないかだが、どの道不法入星している場合は発覚するまで動けないので、動くならば宇宙を探すか、或いは正規のポート以外のポート……宇宙海賊組合のポートを持つこの星からだとミランダは判断した。

 しかし、現時点でミランダが探しているのはミロではなく、カレンの情報だった。ミランダは「アテン星系出身の生物学者」という情報しかないミロを探すよりも、ある程度名の知れたカレンの方が圧倒的に探しやすいし、ミロが今もカレンと共にいるとは限らないが、少なくともカレンを捕らえればミロの行方を聞き出すことができると考え、とりあえずヤマトン星限定でカレンの個人指名手配書を出した。

 そして、そこまでは理に適った追跡捜査だったが……もしミランダが少しでもこの星の内情を知っていればけして「賞金稼ぎ」を名乗ることはなかったが、切羽詰まっていたミランダは、紛争でもない限り星の内情にまで気が回らなかった。

「エヘヘっ、賞金稼ぎって憧れてたんですよねー!」

「……まあ、もうポリスじゃないし……カレンを追うにはこの方が都合いいからね」 

「先輩、とっても似合ってますよ!先輩ってスリムで羨ましいなー!」

 ミリンダは基点星系仕立ての黒革のノースリーブとタイトな革パンツというシンプルな出立ちだったが、それはミランダのスタイルの良さを際立たせ、如何にも腕の立つ女という印象だった。しかし、ケイの装いはケイ本人の言葉を裏切る、どちらかと言えば少女趣味的な格好であり、それでもケイにはとても良く似合っているので、ミランダは褒めてくれたお返と、若干の忠告を込めて答えた。

「……そお?ありがと。ケイもそれ似合ってるよ。……でも、それじゃあちょっと動き難いんじゃない?」

 しかし、ケイは軽やかにくるりとターンして、嬉しそうに答えた。

「大丈夫ですよ!ほーら!」

 そして突然スカートを腰までたくしあげ、ガーターベルトを露わにして言った。

「賞金稼ぎって、こーゆーとこにナイフとかを隠したりするんですよね!」

「ばっ!?」とミランダは咄嗟にしゃがんでケイのスカートをおろしたが、時既に遅く、途端に周囲から男達の口笛が鳴った。

「……このバカっ!目立ってどーすんのよっ!」

「エヘヘっ、ごめんなさーい」と舌を出したケイを見て、ミランダは溜息混じりに呟いた。

「……ったくもう。遊びに来たんじゃないんだからね?……命掛かってるって、ちゃんとわかってる?」

「うん!わかってまーす!……でも先輩、あたしお腹空きました!」

「……」

 実のところ、ミランダはすぐにでも宇宙海賊組合へ行ってカレンの詳細なパーソナルデータを手に入れたかった。しかし、そのためにはケイの能力が不可欠であり、自分も空腹だったので、ミランダはケイの申し出を受け入れた。

「……じゃあさっさと下に降りて、ご飯食べようか」

「はーい!」



つづく

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