表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

桜の木の下で、僕は恋をしている

作者: 山口甘利
掲載日:2026/05/07

 僕は妄想の世界が嫌いだ。…特に恋愛のことで。

 漫画のように現実は上手くは行かない。曲がり角でぶつかりそうになって恋するなんてないし、傘を忘れたから一緒に傘に入る、なんてこともない。あるとしたら、クラスで明るくて優しいイケメンだけだ。

 だから咲良に恋をしないつもりだった。もう失敗したくないから。


 クラスの明るいムードメーカーで、みんなに優しく、誰からも慕われて誰もが認めるイケメンの修斗。

 教室で静かに友達と話していて、全てのパーツがモデルのように揃っている芽衣。

 漫画の世界ならこの二人が主人公で、僕は教室の隅にいるただのクラスメイト。

 そんな僕がヒロインの芽衣に恋をしても、成功するはずがない。心の中では分かっていたはずなのに...好きになってしまった。

 彼女の明るい笑顔と何事も頑張る姿に惹かれた。

 アップローチがしたくて、どうすれば良いか考えた。DMを送ってみるとか、思い切って話しかけてみるとか。でも僕にそんな勇気はない。ただ黙って彼女を見つめる。それしかできなかった。

 実は芽衣のことが好きなんだ。…そんなことを友達に言えば、お前があの芽衣様を?無理無理、って笑われるから誰にも相談できない。

 だからって見つめているだけじゃだめだった。何か行動を起こしてたら、僕にチャンスが来ていたかも知れない。

 でも何も起こさなかった僕は後悔することになった。そう、修斗と芽衣が付き合ったってしまったのだ。クラスのみんなが彼らにおめでとう、と言い祝福した。

 二人の出会いはこうだ。

 部活で遅くなって、周りには誰もいない雨の日に傘を忘れた芽衣は、どうしようかと玄関の前で立ち往生していた。

 そんな時に修斗が来て「俺の傘使って。俺もう一本持ってるから。じゃあ気をつけて」と言って、本当は傘なんか持ってないのに雨の中を走って駅まで行ったらしい。その夜に仲良くなって、付き合うことになったらしい。

 どうせカレカノがいるってみんなに自慢したかったんだろう、って否定的な考え方をしてしまう。そんな運命的な出会いをしてるのが羨ましくて、羨ましいだけなのに。

 これが僕の中一の頃の本当の初恋の物語だ。この恋を恋とは認めないけど。


 今日は咲良とのデートの日だ。

 僕たちは最寄駅に集合した。目的地は桜が見れる大きな広場。桜はだいぶ散ったけどまだ残っている桜を検索して行くことになった。

「今日さ、桜咲いてるかな?」

「まだ咲いてそうだけどな〜。咲いてなかったらだいぶショックだけどな」

「ほんとに。まあその場合は近くのモールでショッピングしよ」

「はーい。咲良は買い物ばっかりだからなー」

「いいのいいの。あ、なんか咲いてなかったら見たいな話だったけど、咲いてても行くからね」

 咲良はニヤッと笑う。僕は特に行きたい所もないからいいけど。

「わかったわかった。あ、咲いてそう」

 電車から目的地の広場を見ると、ピンク色の桜がたくさん咲いていた。

 隣にいる咲良も嬉しそう。早く見に行きたい。


 広場はたくさんの人でごったがえっていた。

 暑い日差しが差す中を、日傘の中で僕たちは歩く。僕が日傘を持って、咲良がハンディファンを持つ。

 他の人が見たら睨まれそうな幸せな空間にいると感じる。


 僕たちは満開の桜の木の下に到着し、カメラをセットする。

 最初に僕が咲良と桜のツーショットを何枚か撮り、その後咲良が僕を撮ると言い、僕と桜のツーショットを撮った。お互いに写真が好きだからその内写真部とかに入ろうかな。

 桜の下でレジャーシートをひいて、コンビニで買ったお弁当を二人で食べる。

 いつも一人で家で食べる時は美味しく感じないけれど、今日はこの唐揚げ弁当が美味しくてたまらない。きっと咲良と一緒だからだろう。

 昼食を食べ終わった後は展望台に向かうことにした。 

 展望台に向かう階段は古くて急だった。

 咲良が前を歩いて、僕がのこのこと後ろを歩く。

 そんな時に咲良の体がぐらりと後ろに揺れた。

「危ないっ!」

 僕は手すりを右手で掴んで、咲良を受け止める。

「咲良、大丈夫?」

 咲良は真っ白な顔をしていた。熱中症?寝不足?貧血?それともなんかの病気?

「えっ、あっ、光。ごめん」

 瞑っていた目を開けて、そう言った。咲良のその声は、聞いたことのない細い声だった。

「ううん。それより大丈夫?」

「うん。なんか急にふらっとしてさ。多分貧血とかかな」

 僕は咲良をギュッと抱きしめた。頑張って作る咲良の笑顔が見たくなかった。咲良は何があっても自分が守りたい。

「良かった」

 咲良はありがと、と小さく耳元で呟いた。

「えっ、カメラが...」

 肩に乗せていた顔を上げて、泣きそうな顔で僕を見つめた。

 階段の下の方を振り返って見ると...カメラが一番下に落ちていた。多分咲良が倒れた時に...。

 僕は声も出ずに、ただカメラを見つめていた。

 あれはお父さんが家族を取るために買った高いカメラ。僕はそれを借りているだけ。僕の大切な宝物。何か落ちる音がしたのは知っていたけど、まさかそれがカメラだったなんて。

「ごめん...私が、、光の大切なカメラを...」

 咲良は涙を流しながらそう言う。

「違う。咲良は何も悪くない。僕が適当に鞄に入れてたのが悪かっただけだから」

 僕は流しそうな涙を何とか我慢しながら笑顔を作る。

「違う。私が...ほんとにごめんなさい」

 咲良は僕から離れて階段を降りようとするが、また倒れそうになり、僕が腕を掴む。

「ううん。咲良が無事で良かった。本当に」

 咲良は小さく頷いた。

 僕たちはゆっくりと階段を降りた。

 カメラのレンズや画面に大きく傷が入っていた。…もう使えないだろうな。

 複雑な思いのまま、カメラを撫でてみた。走馬灯のように、こいつと撮った写真が脳に甦ってくる。カメラが壊れたのはすごく嫌だけど、咲良が怪我とかする方が嫌だ。

 僕は咲良の手を握ったまま家へと向かった。帰り道何度も何度もごめんと謝り、お金を貯めてから絶対に新しいカメラを買って返すと何度も言った。

 違う。咲良に新しいカメラを弁償してほしいわけじゃないし、責めるつもりもない。だけどお父さんに何て言われるだろう...。

 複雑な思いのまま家の近くで別れを告げる。カメラで繋がった僕たちが、カメラで関係が壊れてしまわないか怖い。明日から気まずくなるなんて絶対に嫌だ。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

誤字などの訂正があれば、気軽に教えて下さい。

他にも色々な作品を書いていますので、そちらも読んでみて下さい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ