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第2話:僕と彼――いや、俺とあいつ、だろ?【中編】

「……え?……」

 驚いて、ミカは身を引いた。引き込まれかけて、辛うじて苦笑する。

「……やめてよ。何の冗談?」

「……冗談じゃない……」

 シオンの言葉に、息ができなくなる。ミカは目を逸らした。どういうこと?……何、この展開……

 急に口が乾いて、紅茶のカップに伸ばした手を、シオンが握った。

「ミカ……俺と付き合えよ」

 驚いてシオンの顔を見る。

「……な、何言ってるの?……志音君はアミカナと付き合ってるじゃない」

 声が震えた。心が傾いていく軋みが聞こえるようだった。

 シオンは内心ほくそ笑んだ。

 ……そうだミカ、だからお前は苦しむことになる……

 シオンは一度目を逸らすと苦笑した。

「あいつはダメだ。お前みたいに優しくないし、すぐ実力行使に出るからな」

「……それは……そうだけど……」

 否定できずに、ミカは目を伏せる。

「大体、あいつは飯も食えない、眠れない、低体温、おまけに女の最大の武器である涙も使えない、型落ちのアンドロイドだからな。オリジナルのお前の方が、ずっと魅力的だ」

 嘲笑を浮かべながら、シオンはミカを見た。

 その時だった。

 シオンに稲妻のようなミカの平手打ちが飛んだ。

「彼女のことを悪く言わないで!」


 頬を押さえるシオンを、ミカは鋭く睨んだ。憤りで瞳が潤んでいた。

「志音君! あなた、彼女とずっと一緒にいて、一体何を見てきたの?! 彼女がアンドロイドの体に満足しているとでも思っているの?! 彼女がアンドロイドになったのは任務のためよ! 歴史改変阻止のため、過去に送られたラキシス機関のエージェントは、全くの孤立無援となる。その状態で、任務を遂行しなければならない。それは、ロボットのような自動機械には荷が重いわ。想定できない状況に対して、人間のように極めて柔軟な思考が必要なの。でも、時間転送のルールで、人間を生きたまま送ることはできない。そこで生み出されたのがアンドロイドよ。アミカナの体には、人間と全く同じ思考を実現する量子頭脳が搭載されている。そこに、私のニューロン・ネットワークをコピーしたもの。だから、彼女の精神は人間と……私と同じなの。喜びも、怒りも、恐怖もある。血の通わない体になってしまったことを寂しく思う心だってある。それでも、彼女は明るく振舞ってる! 水しか飲めないアミカナが、どうしてあなたと一緒に食事に行くのか、分かる? 食欲だってあるんだから、あれは拷問よ! 私には分かる。それでも、あなたと一緒の時間を過ごしたいからじゃない! いい? 彼女には時間が……」

 そこでシオンはミカの口を手で塞いだ。

「待て。そこは本編ネタバレだ」

「……ああ、ごめんなさい……」

「いい。続けろ」

「……ええと、涙が出ないことだって、きっと辛いはずよ。人は、泣くことで悲しみを薄めることだってできるもの。でも、彼女は悲しみを怒りに変えることで、自分の精神を保っている。彼女の鉄拳は、涙なのよ! アンドロイドであることに何とか折り合いをつけて、彼女は懸命に生きている。……それに較べて、私はどう? アミカナが戦いに赴くのを、ただ黙って見送るだけ。みんなは、私を優良オリジナルだと言うけど、私は何もしてない。ただ、くじ引きに勝っただけなの。いつも安全な場所から、彼女の任務の成功を祈るしかない。でも、どこかに安心している自分もいる。死ぬのは自分じゃないって……。私は卑怯者なの! 誠実な部分、勇敢な部分は削り取られて彼女に与えられ、暗くて、卑しい部分だけがここに残ってる。アミカナは私の光よ! 私は、削りカスでしかないの……」

 大粒の涙が、青い瞳から絶え間なく零れ続けた。


 看板に陰に隠れていた志音とアミカナは、ミカが胸に秘めてきた心情の吐露に、動くことができなかった。

「……ねえ……」

 小さい声で志音が聞く。

「……何?……」

 目線を合わせずに、アミカナは答えた。

「……ミカさんが言ってること、本当なの?……」

「……ああ、まあ……別の宇宙ではそうみたい……」

 そう言って、アミカナは目を伏せた。

 ……ミカがそんな風に思っていたなんて……。別宇宙の私が聞いたら、どう思うだろう?……。どうすれば、彼女(ミカ)の苦しみを和らげてあげることができるだろう……。でも……

 顔を上げたアミカナは、心配そうにミカを見た。

「……それ、この宇宙じゃないんだけど……。ミカ……混乱してるわね……」


「……このアマ……俺様に手を上げた上に、長々と御託を並べやがって……」

 シオンはミカの両肩を掴んだ。

「おい、ミカ、聞け!」

 驚くミカに、シオンは顔を近づけた。

「まず、お前は削られてなんかない。あいつはお前のコピーだ。分かるか?」

 ミカはゆっくりと首を振った。

「……志音君……そういうことじゃないの……」

「いいから聞け!」

 顔を顰めたシオンは、真剣な眼差しで、ミカの自己嫌悪に打ちひしがれた青い瞳を見た。

「いいか、オリジナルがコピーに劣るなんてことはあり得ない! あの脳筋女が光だっていうなら、それを生み出したのはお前だ。お前こそが光の源なんだ!」

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