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第1話:私と彼女【中編】

 二人はステーキハウスへと入っていった。少し離れて、アミカナも後を追う。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 店員に聞かれて、志音に気付かれないよう、店内に背中を向けたままのアミカナは、黙って人差し指を立てた。

 先に案内された二人は、窓際のテーブルへと向かう。

 テーブルに着いた志音は黙って椅子を引き、ミカを見た。

「あ、ありがとう」

 ミカを先に座らせて、自分の席に着く。

 ……へえ、意外に紳士的なんだ……

 感心するミカから離れた席で、アミカナは、鼻の上にずらしたサングラスの縁を握り締めていた。レンズにひびが入る。

 ……何あれ?!……私にはしてくれたことないのに!……

 嫉妬の炎が盛大に燃え上がりかけて、ふと眉を顰める。

 ……え?……志音、もしかして気付いてる?……

 

 ミカと志音は各々メニューを広げていた。食欲を刺激する料理の写真が並ぶ。

 目移りしながら、ミカはチラリと志音を見た。

 ……当然、志音君のおごりよね? 晩御飯代、浮いちゃった……

「お決まりですか?」

 ウェイターがテーブルの横に立つ。

「ああ、僕はサーロインステーキのセット。彼女は水で」

「えっ?!」

 驚いてミカはメニューから顔を上げた。彼女の声に、志音は眉を顰めた。

「ああ、お湯の方がよかった?」

「……う、うん。そうね……。お湯をお願いします」

 二人のやり取りを離れた席から聞いていたアミカナは、唇の端を釣り上げた。

「……そうよ、ミカ。あなたは水しか飲めない。戦闘特化型アンドロイド役だからね。これで私の苦しみが少しは分かったでしょ?……でも、あなたの最大の弱点は、生身の体ってこと。最後まで、お腹を鳴らさずに済むかしら?」


 やがて、鉄板の上でまだ肉汁が沸騰しているステーキが運ばれていた。香ばしい匂いが周囲に立ち込める。ミカは唾を飲み込んだ。

え~、これをお預けなの~?……

「いただきます」

 手を合わせた志音は、早速肉にナイフを入れる。肉汁を滴らせながら、艶やかな赤身が顔を出す。

 グルル……

 お腹が鳴って、ミカは慌てた。

「あ、あの、喉が鳴っちゃった! 凄く美味しそうだから……」

 ……無理がある!……と思いながら、ミカはわざとらしく笑う。

 志音は、切り分けたステーキの一切れをフォークに刺すと、ミカの顔の前に掲げた。

「はい。アーン」

 思わずミカは身を引いた。

 え? え? 何?

 ……二人はこんな……こんな恥ずかしいやりとりをしているの?……

 何も言えずに固まっていると、志音は眉を顰めた。

「……今日は『殺すぞ』って言わないの?……」

「は?」

 ミカは唖然とした。どういうこと? それが普段のやり取りなの?……混乱が渦になる。

 ……でも、負けられない! こういう時は、アミカナお得意の『どうとでもとれる仕草攻撃』よ!

 動揺を押し殺して、ミカはどこか寂しげに微笑んだ。

「……今日は、止めとく……」

「……あ、そう……」

 怪訝な顔をした志音は、ステーキを自分の口に運んだ。

 え、気付いた?……凌げた?……どっち?

 彼の何とも言えない反応に、緊張が高まる。しかし……

 『アーン』からの『殺すぞ』……やり取りを反芻する。志音君ってM?……まあ、意外じゃないけど……

 一口お湯を飲んで、何とか心とお腹の落ち着きを取り戻そうとしたミカは、ふとある事実に気付いた。

 ……アミカナ。これ、一緒に食事する意味ある?……志音君の食べ姿を見るだけなんですけど……。

 いや、もしかして……ここは『慈愛の眼差し攻撃』をしてる?

 ミカは、聖母のイメージで、ステーキを食べる志音をじっと見つめた。

 が、どうしても目線が肉に行く。

「何? 欲しいの?」

 志音に言われて、ミカは内心悪態をついた。

 ……違う!!……いや、欲しいけれども!……いや、待って! ここの反応が肝よ!

 ミカは必死に思考を巡らせた。『アーン』からの『殺すぞ』なら……

「だ・ま・れ!」

 目を半開きにして、冷たく音節区切り攻撃を繰り出す。

 志音は肩をすくめると、再びステーキを食べ出した。微かに微笑む。

 その様子に、ミカは内心胸を撫でおろしていた。

 ……よかった、合ってた……。それにしても……

 志音を見る。

 ……『だ・ま・れ!』と言われて何故微笑む? やっぱりMね……

 息をつくと、ミカはお湯を飲み干した。

「すいません! お湯おかわり!」


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