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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと


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魔法少女失格


 綾谷もみじは幼いころに家族を失っている。


 小学二年生、まだ笑顔の絶えない時期だった。

 特別目立つような子供ではなかったけれど、年相応に元気ではあったと思う。

 ただ、あの日から心から笑えた記憶はない。


 いつものように学校に行って、友達と別れて家に帰った。

 そんな彼女を待っていた現実は酷く残酷なものだった。

 引き裂かれた父親の死体、もてあそばれた母の死体。

 恐怖に尻もちをつけば、床を伝う赤い血がもみじを汚した。


 そしてその中心に黒い化け物がいた。

 インベーダーだ。

 漆黒の身体に血が渇いたナニカの骨を装飾のように身に着けたそれは血濡れ、西日に燃えていた。

 もみじの存在に気付いたそれはゆっくりとこちらに足を進めた。

 血を踏み、無残に転がる両親をないモノかのように踏んで奴は来た。


 恐怖。怒り。悲しみ。

 次々と感情がもみじの中を掻き乱れ──最後に純粋な死を象った。

 軋む床、干渉しあい軽い音を立てる骨の装飾がもみじの恐怖を高めていった。

 真っ赤な目がぎょろりともみじを見た時と攻撃が繰り出されるのが同時だった。

 

 そしてそんな時、目の前に現れインベーダー動きを止めたのが当時無名のとある魔法少女だった。

 自分よりも幾分と歳は取っているであろう。

 それでも、十代と言う若さでインベーダーと言う脅威に立ち向かう背中はとても大きく見えた。


 そして、今目の前に降り立った人物とその姿と重なった。





 ◆

 

 インベーダーが侵略者と呼ばれる所以となる知性体。

 思考力を持つだけでその脅威度は跳ね上がり、その威力に関わらずA級判定を受ける。

 A級インベーダーの討伐に際しての要請が行われる対象は基本A級認定された魔法少女だ。

 更に優先順位をつけるのであれば付近にいる順だろうか。次点で順位。

 とは言っても、特定の一人に対しての要請が行われるわけではなくA級ともなれば数人が選出される。


 そしてそんな中の一人にして、現場に一番乗りしたのが俺こと魔法少女コフィンだった。まあ、本来ならばと言う話であるが。

 学校からほど近いショッピングモール。転生してからインベーダー狩りに勤しんでいた俺は学校の近くにこんなデカいところがあったのを知らなかった。興味本位で行ったらインベーダーがいた。

 あ、そうそう。驚いたことと言えば、インベーダーに襲われそうになっていた少女を俺は知っていた。

 クラスメイトで唯一俺に話しかけてくれる変わった子、もとい聖人の綾谷もみじと言う少女だった。


「大丈夫?」


 一応怯えてそうなので声をかけてみれば何とか頷いた。

 恐怖はあるが、パニック状態ではないだろう。そう思って、彼女が抱きかかえる、否、彼女を身を挺して守っただろう女性が傷を負っているのを見た。

 血を流している。俺に専門的なことは分からないが、取りあえずエネルギーを具現させて傷口を塞いでおく。

 エネルギーを譲渡して生命力の回復は少なくとも今のところできないから本当にただ塞いでいるだけで、ガムテープを巻いた止血とそん色はないが。


「お前なんだ?」


 出力したエネルギーに対して考え事をしていれば声をかけられる。

 インベーダーだ。

 確か、知性体と言うのが喋ると言うしそれだろうか。

 つーか、口付いてないけどどうやって喋ってんだ?


「おい!俺の質問に答えろ!」


 首を傾げていれば叫ばれた。

 なんかどっかのエメラルド少女みたいだ。

 いや、俺が悪いのか。でも、相手は人類の敵だしなぁ。


「まあ、いいや」

「あ?」


 首を傾げた一つ目に手を添えた。そしてその手ごと覆い隠すように蝶がはためいた。

 吸収だ。俺が使う技はそう変わらない。

 つまり、攻撃だった。


「ぐがっ。貴様ァ」


 俺の手を振り払い、単眼は後退した。

 吸収は打ち切られるも、確実に効果を発揮した。

 どろりと溶けるように奴のシックスパックの一部が損傷してフォーパックになっている。

 状況を飲み込むように単眼は自身の腹部に手を伸ばした。


「身体を分解された?だが……」


 すぐに状況を究明した単眼は笑った。

 それに疑問を覚えると同時に奴のシックスパックが復活した。


「ギャハハっ。お前の攻撃は無意味だ」


 奴らの身体を構成するのはエネルギーの塊だ。

 故に、多少の損傷は回復できる。特に驚くことでもないが単眼は自信満々にこちらを見た。

 そして、発達した爪をならした。


「次は俺の番だァ」


 地面を蹴り、接近するスピードは速い。

 逆行を使ってすり抜けてやろうかと一瞬思うも、背後の二人を思い出す。

 意外にももみじはすぐに女性を背負ってこの場を離れようと動いている。

 だが、インベーダーの移動速度は人間の比ではない。多少の距離は無に等しい。


 故に、仕方なく動きの拘束に意識を回した。

 出力による力を利用し、鎖を作成する。

 地面に植え付けるように生成させたそれは単眼を拘束した。

 前へ前へと進もうとする奴をその場にとどめんとする。


「グガァ!」


 しかし、単眼は地面を踏みしめて鎖を引きちぎらんとする。

 俺はそれが壊れる前に出力で三本の槍を生成して上から突き刺した。

 貫通し、縫い付けるように地面に突き刺さる。

 それでいてなお、単眼は動こうとする。


「まだぁ……!」

「いや、終わりだよ」


 諦め悪く単眼を充血させるインベーダーに今度こそ俺は手を翳す。


「カゲ」

「ああ」


 吸収を発動させてその身体を光に霧散させた。

 現場に急行していた時は別の魔法少女とどう共闘するかとか考えていたが倒してしまったな。





 ◆


「あ、あの。ありがとう。比果さん!」

「え?」


 俺を写していたライブカメラが消えて、その場から離れようと人気のない場所に行ったとき声を掛けられた。

 可愛らしくも震えた声に本名を呼ばれて思わず声を洩らした。

 未だフードを深くかぶって認識阻害は持続中だ。認識阻害のレジスト以前の話だ。


 遅れて振り向けば、クラスメイトの綾谷もみじと言う少女。

 先ほど現場に居たので感謝されることに違和感はないが……。


「大丈夫だよ。今はカメラもないし」


 俺が考えに没頭するのを見て彼女はそう言った。

 個人情報を配信で流す危険性を俺が危惧していたように見えただろうか。

 バックレようと思ったが、どうやら確信をもって話しかけている様子なので仕方なく返答することにする。


「そう。でも、どうしてわかったの?」

「え?だって体形が同じだし」

「え?」


 「も、もちろん制服も見覚えがあったらね」と取り繕われてもなるほどなとは返せない。

 顔を見えていなく、尚且つ認識阻害をかけた状態で体形だけで判断されるのは軽く恐怖だ。

 ん?いやまて……。


「……体形はともかく、認識阻害はかかっていたはずだけど」

「それは……」


 もみじは歯切れ悪く声を洩らした。

 ただ、何かを決心したように続けた。


「じ、実は……私も魔法少女で」

「あ、そうなんだ?」


 以前魔法少女っぽいななんて思ったが本当にそうだったとは思わなかった。

 確かに、魔法少女ならレジスト出来るってカゲが言ってたな。

 俺が直接対峙した魔法少女はエメラルド少女しかいなかったからこういう子が魔法少女だとなんだか安心する。


「比果さんは……どうしてさっき私が戦わなかったか訊かないの?」


 勝手に安心しているとそんなことを聞かれる。

 まあ、確かに言われてみればそうかも。でも、A級の相手ってA級じゃないとだよな。

 この子は何級なんだ?


 ──Fらしいぞ。戦績はまだ0だ。


 不意の疑問にカゲが答える。

 今も俺の背中でスマホを触っている。依存症め。

 とは言え、カゲのネットサーフィンのおかげで彼女のランクが分かった。


 つーか、Fって最低ランクの上にまだインベーダーに勝ったことないなら立ち向かわなかったことに対して攻める者もいないだろう。

 むしろそんな状態なのに責任を感じる正義感を抑えてその場に留まっていたのは英断だろう。責められることはない。

 大体、俺なんて基本的に要請を無視している。


「もみじ……さんは悪くないよ。十分立ち向かっていたし。それにまだそのときじゃないだけ」

「そのときじゃない?」

「そう」


 普通に実力を重ねてから強い敵と戦えばいいと思うけど。

 少なくとも委員会に推奨されるA級になるべきだ。


「でも、私いつまでも立ち向かえなくて、せっかく力があるのにこれじゃあ魔法少女失格……」


 責任感じ過ぎじゃない?

 魔法少女失格って、この程度で?自認葉蔵かよ。眼鏡かけたらハロルド・ロイドに似てるって言われた経験でもあんのか?

 自己肯定感の低さに首を傾げていると「ねえ」と続けられる。


「比果さんは、どうやってあんなに怖い敵に立ち向かっているの?」


 これはどう答えればいいんだ。

 背中を押したいところだが、それは自身の身の丈に合わない敵に立ち向かえと言うようなものだ。

 もっと着実に力をつけるべきだと言いたいんだが。


「あー。力をつけるんだよ。立ち向かう敵が怖くないくらい。でも、その前に仲間がいることも忘れちゃいけない」


 強い敵であれば力がいる。

 でも、それが自分にないときは仲間を頼るべきだ。残念ながら俺にはいないが彼女はちゃんとした魔法少女だ。今回のようなことがあれば自分に出来る限りのことをして待機するのがいいだろう。

 これで納得してくれるか不安だったが力強く頷いてくれたので良しとしよう。





 ◆


 もみじは戦いの後比果比五子に質問をした。

 どうやって恐怖を打ち消して立ち向かうことが出来るのかと。

 彼女はインベーダ―に襲われて怖い思いをたくさんして来たはずだ。

 それでも、立ち向かうその姿に思わず聞いた。


 返って来た返答が第一に力をつける事。

 そして、仲間を忘れてはいけないと言う事。

 その言葉はまさに今のもみじに対して当てはまる言葉だった。


 自身のトラウマに足が震えてインベーダーに立ち向かえないことに悩んでいたが、気遣ってくれる魔法少女仲間の二人をないがしろにしていた。

 突き放すようなことはないが。それでもかけてくれた声に無気力に返事するばかりで真に彼女たちの優しさを見ていなかった。

 翌日いつものように会った彼女らに今までの気遣いのお礼を言って、魔法少女NETの情報を見て放課後とある場所に向かった。

 なんの変哲もない市街地の一角にインベーダーがいた。


 比果比五子と別れた後もみじは一度だけチャンスが欲しいと委員会に嘆願した。

 そして何とか頼み込んだ結果、一つだけ案件を送ってもらった。


 あの日見た黒いインベーダーを幻視する。

 足が震え、視界が赤く染まっていく。

 それでも、思い出す。

 二人の魔法少女と顕現出来なくなった使い魔。

 そして、魔法少女コフィンこと比果比五子のことを。


「わかってる。大丈夫」


 手を握って皆の顔を思い出せば、目の前にいるのは似ても似つかぬインベーダーだ。

 いつの間にか足の震えも止まっていた。


「いくよ!」


 久しくしていなかった魔法少女への変身。

 あと一回と見繕っていた魔力はわずかに足りない。

 不完全な変身。

 でも、それでも、もう足は震えていない。


 もみじはステッキを構えた。

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