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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと


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知性体!


 魔法少女活動は一般に配信が行われる。

 いわゆる配信者のように配信プラットフォームで活動するものではなく、特定の階級以上のインベーダーとの戦闘に際して、安全上の問題で記録が義務付けられていると言うのが正確なところだ。

 しかし、魔法少女と言うのは人気商売の側面もある。

 ファンを作り、グッズ作り、大きな箱でライブをする。

 その導線づくりとなるのが、ライブ配信である。


 そしてカメラに取られながら活動をするのは俺も同じだった。


 無論俺に準備の類は必要ない。

 「どうも!魔法少女配信者のコフィンです!」なんて言うまでもなくドローンは俺を嘗め回すように撮った。

 俺の疑似制服にパンチラ回避機能が付いててよかったな。BANされるところだ。

 そういや、通常の魔法少女はどうなんだと思ったが、彼女らの衣装はパニエをはいてたり、少ない例だがスパッツだったりする。

 明らかにパンツだろってのは、絶対領域をカバーする謎の闇がその存在を隠す。


 俺はスカートが靡いてもパンチラしない代わりに、魔法少女特有のこういう機能はないのは残念なところだ。

 のぞき込まれても風で何かしらが吹いてきて隠れたりするので、敵とかに敢えて見せようとした場合に目くらましとかできそうだけどやらない。


 まあ、そんなこんなで、現在電波塔の上に俺が立っていてもちらりともスカートの中が見えることはなかった。


 ──にしても、本当に効いてるんだろうな。認識阻害。

 ──ああ。一般人に対しては十分すぎる効力だ。魔法少女相手にはレジストされる可能性は高いが、オマエと直接遭遇でもしない限りそれはない。


 テレパシーでカゲに問いかければそんな返答が帰って来た。

 魔法少女として活動するにあたって魔法少女特有の認識阻害の模倣をしていた。

 これは魔法少女登録以前から行っていたが、いざカメラにとられるとあっては不安は尽きなかった。

 エメラルド少女に遭遇した時はエネルギーで象った蝶でカメラを塞いでいたが、今回はそうもいかない。


 何とか俺が出来たのはフード付きの服を制服の上から着こむことくらいだ。

 本当はお面でも被りたいが、それは無理だと言う話だしな。


「来たぞ」

「ああ」


 カゲが言えば、目の前の空間に罅が入った。

 落としたスマホで写真を見た時のような見た目だ。

 青空にガラスのように罅が入る光景はなんとも目障りだ。


 罅は大きくなり、縦に割れた穴からは巨大な指が見えた。

 両の手を穴から出して指をかけ、開くようにそれは現れた。

 こじ開けられた空間を出て来たその巨体を一言で悪魔だろうか。


 (つの)が生えて、自重を宙に保つことの出来ないだろう羽根を付けたそれは吠える。

 それを合図とするかのように悪魔はこちらに攻撃を仕掛ける。

 今時JKよりも尖らせた長い爪をこちらに突き立てた。


 ──パチンッ


 同時に俺は逆行を使用する。

 カゲに髪を切らせることでフリーハンド散髪を習得した俺の身体は一瞬ブレる。

 それは今までの逆行とは毛色が違う。

 少し前の位置へと戻るのではなく同じ場所へと舞い戻る。

 一瞬の内だけその場から消失し、同じ位置へと逆行した。

 実験の末に習得したそれは俺の選択肢を広げていた。


 かねてより、実験を続けて分かっていたことの一つに切った髪の長さによって逆行の条件が変わると言うものがあった。

 まず、デフォルトの髪型よりも髪が伸びた状態であれば、その伸びた髪に対しては逆行は発動しない。

 続いて、一センチは逆行は発動するがその場にて一度身体がぶれたように消えるだけだ。

 二センチ三センチと条件を変えるとそれより前の位置へと移動する。

 これは、時間に依存するものではなく距離だと言う事が分かっている。

 面倒な計算をしなくてありがたい話だが、ミリ単位で散髪なんてできないのでそう便利なわけでもない。


 とは言え、その場での逆行なら失敗はまずない。

 目論見通り、俺は悪魔の攻撃を避け舞い戻った。

 通り過ぎた悪魔の背中に俺は立ち、吸収を使った。

 吸収時に敢えて蝶で隠して消滅させた。

 演出的な意味合い以上に異常な吸収の能力に対しての隠蔽の意味もあった。

 実のところ「吸収」と「出力」は特別な力ではない。

 魔法少女以前に古来の神秘を扱うものにとって初歩以前の魔法工程である。

 ただ、本来魔力を回復するために体内に吸収する行為を大げさに行い、ただ、魔法になる前の魔力以前のエネルギーの塊を蝶として出しているに過ぎなかった。

 故に、見る者が見れば手の内は容易にバレる。

 出力は魔法とプロセスはそう変わらないため、それはともかく吸収は言い訳が難しい。


 まあ、ともかくボロボロの認識阻害と他とは違う戦闘方法をごまかすためにあの手この手を使った俺は今日も魔法少女活動を行っていた。






 ◆


 魔法少女に義務付けられたインベーダー討伐配信。

 その映像の中には魔法少女コフィンがいた。

 電波塔の上に立ち、現れたインベーダーを瞬殺する。


「っ……」


 もみじは奥歯を噛む。

 やるせない。

 本来彼女が戦うのが好きではないことを知っている。

 

 あの時の彼女の顔がどうしても頭から離れない。

 それなのに、自分は代わることはできないし、足が震えて肩を並べて戦う事も出来ない。

 今も、コフィンが映るスマホには魔法少女に対する要請は来ない。

 すでに、彼女には魔法少女としての役割が事実上消滅している。

 彼女の体感で残された変身はあと一度。

 使い魔すらも顕現させることが出来ない現状に対して委員会が綾谷もみじに対して運用を考えているわけがなかった。


 コフィンのように配信義務が課せられるほどの敵とすら戦ったことのない彼女の戦績は0勝だ。

 手傷を負わせたことすらもない。

 そもそも使い魔を顕現させる余裕があっても同じ事だろう。


 だから、出先でインベーダーに遭遇したのは偶々だった。

 確かに、要請以外での遭遇はしたことはある。

 しかし、それはコフィンこと比果比五子が襲われている場面が大半だ。

 彼女に対するいわば呪いとも言える誘因性に起因したものが原因だった。

 彼女が襲われやすい体質であると知り、もみじが自発的に近づいていただけのことだ。


 だから、純粋に偶発的な遭遇に自身が陥った時、理解が追い付かなかった。

 放課後にショッピングモールへと足を運んだ。

 行きつけの本屋がそこにあって、この鬱屈とした気持ちをどうにか抑えられないかと考えたのだ。

 嫌なことがあるといつもそこへ行っていた。だから今日も変わらなかった。


 しかし、脚を進める途中で異変は起こった。

 インベーダーが現れたのだ。

 きわめて人型に近い二メートルほどのそれを見た。

 顔を縦断するように縦に割れたそこには一つの巨大な目玉が付いていて到底この世の生物とは思えない。


「ギャハハっ。美味そうな匂いだァ!」


 開口一番逃げ惑う人々を見てインベーダーはそう言った。


「知性体」


 言葉を発するその姿を見て、弱弱しくもみじは言葉を吐いた。

 逃げ惑う民衆とは違い一人その場に留まっていた。

 立ち向かおうとしたわけではない。ただ、インベーダーを見たとたん足が震えて動けなくなったのだ。

 そんなもみじに単眼はぎょろりと目をむいた。


「なんだ?小娘。……ほう、貴様上物か。自ら俺の御前に立つとは餌としての自覚は十分。貴様から食してやろう」


 元来、魔法少女の素質があるものはインベーダーに狙われやすい。

 魔法少女が倒したインベーダーから力を回復するようにまた逆もしかりなのだ。

 だから、認識されてしまった瞬間にもみじの死は決まったようなものだった。


 インベーダーが一歩、また一歩と歩みを進めるたびに足の震えは増していった。

 そしてやっと動いた足は後ずさりをしてもつれてころんだ。


「良い顔をするなァ。娘」


 恐怖に顔を歪めたもみじにインベーダーは下卑た声を出した。

 およそ人には備わらないであろう強靭な爪をならすように動かした。

 そして、ついぞもみじに追いついたインベーダーは腕を振り上げる。


 ああ、もうだめだ。

 そんな死の予感が明確に突きつけられた時、反射的に目を閉じていた。


「危ない!」


 誰かの声が聞こえた。

 人の温かみと衝撃に目を開く。

 目を開いた時、女性の肩が目の前にあった。

 インベーダーの攻撃から女性が自身を突き飛ばすようにして庇ってくれたのだと察した。

 女性はひねり出すように声を出す。


「大丈夫、大丈夫だから。魔法少女がきっとすぐ来てくれるから!」


 その言葉に、ぐっと胸が締め付けられる。

 彼女の助けを求める魔法少女は自分だと言うのに。

 本当は、自分が変身して立ち向かわなければならないのに。


 ───私が、……私がやらなきゃ。

 自分に言い聞かせるように心の中で自身を鼓舞した。

 そうだ。自分にはこの女性を助ける力がある。


 そうやって不格好でも決心をしたとき、不意に自身の手に嫌な感覚を覚える。ぬるりとした感覚だ。

 水っぽいその感覚に手のひらを見れば真っ赤に染まっていた。

 もみじの血ではない。この女性の血だ。

 もみじを庇ったときに攻撃を受けていたのだ。


 かつての情景がフラッシュバックをする。

 目の前で殺された家族と、インベーダーの姿。

 視界が真っ赤に染まって、決心もどろりと鈍る。


 もうだめだ。

 そうどこかで諦めた。

 そんな時、トンと靴の音がなった。

 それは、空中からふわりと降りて来た。

 インベーダーともみじの間に立つ人影はあの日の“あの人”と重なった。


 でも、それは紛れもなく記憶の中の人物ではなく、呪われた境遇でも立ち向かう自分のよく知る少女だった。

 比果比五子──魔法少女コフィンの背中が目の前にあった。

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