とうろく!
魔法少女コフィン。
coffinの名を名乗る少女は数日前より活動を開始していた。
そんな彼女を魔法少女統括管理委員会副委員会長の森峰と言う人物が認識したのは続出したインベーダーの消失を発端とするものだった。
彼女の部下の筋から最近インベーダーの反応を受け、現場に急行してもすでにその姿がなくなっていると言う話があり、調べたところどうにも一人の少女の仕業だと言う報告を受けた。
その情報に偽りがなければ、その少女の力は計り知れない。
加えて、インベーダーの身体は討伐後、光となって霧散するものの、それには多少の時間が掛かる。それを、少女が何らかの力を使って消し去っていることも奇妙な点だった。
しかし、なんにせよ登録していない魔法少女に対しては何らかの処置を取らなければいけないのだが、それが強力な力を有しているのであれば手元に置いておきたい気持ちがあった。
そこで登録をせずに魔法少女活動を行っている彼女に対して疑問を抱いた森峰は情報を集めることにした。
彼女を探るには些か手段が少なかったが、それでもここ数日程度の様子を知ることは出来た。
まず、驚くことに彼女は魔法少女活動を開始する前の数日間、インベーダーの出現をいち早く嗅ぎつけて通報すると言う行動をとっていた。
検出器なんかよりも早くその場に向かい、自身にインベーダーを引きつけ移動することで他の民間人が密集したエリアから引き離すような行為を取っていた。
そして、通報を行い魔法少女への要請を行っていた。
しかし、突如として彼女の行動が移り替わった。
これまで数日間、魔法少女への通報をして移動するだけの行動を行っていた彼女が戦闘行為に出たのだ。
映像こそないが、それから今日にいたるまで彼女は通報をすることなく自身の手で対処している。
なぜ、行動を変えたのか。
それには一つの可能性があると森峰は推測していた。
それは、ひとえに魔法少女への失望だろう。
自身が人里から遠ざけ、インベーダーを通報しても魔法少女がその場へと向かうには時間が掛かり過ぎる。
彼女であるから助かっているが、本来一般人であれば死亡は確実だろう。
例外なく上位認定とされるインベーダーに対しての行動を行っているため、本来の被害率とは異なる。
しかし、ありえない話ではないのだ。
そんな情報に彼女は自身の手で対処する方針へと切り替えたのだろう。
容易にこれらは想像がついた。
だからこそ、森峰は特別対応をコフィンに対して取ることを決めた。
とてつもなく強力な力を有していることはすでに分かっている。
A級以上のインベーダーを難なく倒せており、その瞬間こそ捉えてないが戦闘後と思われる彼女に負傷の痕はない。
そもそも彼女は人類の味方としての魔法少女として行動をとっている。
であれば、彼女に対して問題として挙げられている違反行為をもみ消し、更に彼女に便宜を図ればどうにか魔法少女登録を取り付けられると考えたのだ。
彼女の行動は善意から来ている。登録をしないのは魔法少女、ひいては魔法少女統括管理委員会への不信感によるものであろう。
ならば、端から害意はないと示せば多少の芽はある。
更に、ほぼ言うことを聞くとまで言って見せた。
森峰としては頼みたいインベーダー退治を自発的にしてくれるのだからYESと言ってもらえるだけで、それらのことは許容範囲だった。
だから、気を伺い接触を図ったのだった。
「何とかなりましたね」
ことが済み、一息ついた森峰はそう言った。
◆
「魔法少女統括管理委員会ね」
公式ホームページを見ながら呟く。
魔法少女登録をすることになったが、森峰と言う人物を完全に信用できるわけではない。
俺に出来ることは少ないがこれくらいは知っておいた方だ良いだろうと思ったために少し調べてみていた。
ガーディアンは人類全体に手を差し伸べたが、日本においては当初大まかに分けて二つの魔術組織がその手を取ったらしい。
中央魔術結社と言う組織と瑞穂の会と言う組織だ。
それぞれ古代における神秘を扱うものたちの集団が起源となっているようだ。
彼らは別々に魔法少女を有して、長い間インベーダーと戦ってきたらしい。
しかし、少子化で魔法少女は減り、インベーダーは年々強くなっていき、双方の組織の力が衰えて来た。
そんな時、手を取り合い合併と言う形で出来たのが現在の魔法少女統括管理委員会だと言う。
新体制となった委員会は委員会長に中央魔術結社出身の人物が、そして副委員会長に瑞穂の会の森峰が腰を据えた。
「マジで偉い人だったんだな」
ドッキリの可能性も考慮してはいたんだが。
大体、こんな立場の人がペコペコと頭下げるとは思わんじゃん。
「っと、登録完了したのか」
「我にも見せろ」
通知に反応するとカゲがこっちに顔を出した。
スマホを占領されては困るので買い与えたら夢中で触っているので反応するとは思わなかった。
「あれ?初めはFとかじゃないのか?」
アプリを開き、プロフィール画面のランクに首を傾げてそう言った。
そこには最低ランクである「F」ではなく「A」と書かれていた。
「あれじゃないのか?今まで討伐した分が加算されたとか」
「あー。でも、そんなに量倒してないぞ」
納得しかけるも引っ掛かる。
まあ、いいか。これも特別待遇の内と思っておこう。
態々お偉いさんがお願いしてくるくらいだしな。
A級32位。
そんな看板をぶら下げて俺は魔法少女活動をすることとなった。
◆
「ねぇ。これ知ってる?」
「A級32位?流石に、後半の順位の人まで知らないわよ」
スマホの画面に写真を表示した少女に対して、一瞥もせずにスマホを触る少女は返す。
綾谷もみじの通う学校には少なくとも五人の魔法少女がいる。
もみじはその中の一人に最近なったばかりであり、そして自身と横並びになって談笑する二人は同じく魔法少女だ。彼女たちとは魔法少女になった後に付き合うようになった。
「もー話題になってるんだから!いきなりA級ランキングに名前が出て来たって。……ねぇもみじちゃんは知ってる?」
少し考え事をしていた為かもみじは遅れて反応を返す。
しかし、またも動きを止めたからか自身のスマホを差し出した少女は首を傾げた。
「ねぇ、どーしたの?」
「……っ。ううん。何でもないよ」
言葉に詰まりながらも誤魔化すようにそう言った。
無論嘘だ。
A級32位魔法少女コフィン。
その名前を知らないまでも、もみじはその人物を知っていた。
写真に写る少女に心当たりがあった。顔が隠れる服装をしているが間違いない。
本名は比果比五子。もみじのクラスメイトだ。
金色の髪に、指定されていない学生服を着こんだ少し怖い印象のある生徒。
そして──
──もみじが、幾度となく見殺し同然の扱いをして来た少女である。
無意識にぎゅっと拳を握りしめる。
魔法少女に変身していればなんてことなくても、生身の彼女の手のひらは血がにじむ。
それでも、そんな痛みすら今の彼女には構う余裕はなかった。
綾谷もみじは、魔法少女でありながらインベーダーを倒したことがない。
何度も、その場に遭遇した。
契約をして力を手に入れて、立ち向かおうとした。
その度に、幾度と足に力が入らなくなって。
幾度と一人の少女を見捨てた。
力を得ても、仲間を得ても、怪物には立ち向かえなかった。
クラスでも目立たなくて、何もできない自分がやっとつかんだチャンスすらも不意にした。
魔法少女仲間の二人は「仕方がない」、「次がある」と言ってくれるけれど、只の慰めに過ぎない。
もみじは知っている。いつも何事もないかのように振舞いながらも登校してくる彼女が、泣きながら逃げているのを。
怪我をして怖い思いをして、それを目の前にしながらいつももみじは、別の魔法少女へと要請を送っていた。
罪悪感を少しでも収めようと彼女に学校で声をかける。
助けたことはないのに「力になる」と嘯いた。
今度こそは、今度こそはと、そう思った分だけ彼女を見捨てた。
一歩踏み出そうとして浮かぶのはインベーダーによって血に沈む家族の情景。
それでも、終わりだと思ったその時に助けてくれた“あの人”のようになりたいと思うのに。
魔法少女と契約する使い魔は素質以上に「やさしい」少女を選ぶと言う。
なら、自分を選んだのはきっと間違いなのだろう。
インベーダーを倒さなければ魔力を回復できないから、もう顕現するほどの力を持たない自分の使い魔に問うことはできない。
変身だってあと一度できるかどうかだ。
そんな自身を呪って、呪われたようにインベーダーに襲われ続けた彼女を思った。
画像を見れば彼女の今の状況がわかった。
かろうじての変身は行っているのだろう。それでも、服装は変わっていない。
これは、素質の問題だ。魔法少女はその内包する力に応じて衣装が変わる。
強者の中にいる一見シンプルな装いをする人物もよく見れば衣装のディティールが細かいなんてこともある。
しかし、写真の彼女は教室でいつも見る黒い制服を着ていた。
これが意味することは、変身の不完全さだ。
加えて、本来力量に左右されない認識阻害すらも申し訳程度だ。
魔法少女経験の少ないもみじから見ても、今の彼女の実力は魔法少女全体を見ても最下層にいると言ってもいい。
「それなのに……」
それなのにA級32位にまで登り詰めた事実は、彼女が今もインベーダーに襲われ続ける過酷な環境に身を置くことと、それを死に物狂いで倒してきた証明に他ならなかった。
自分は何をしているのだろうか。
力があって、彼女を見捨てて。それで……。
目の前が真っ白に染まっていく。
「もみじちゃん。大丈夫?」
「気分悪いなら電車降りる?……って、その写真!あの時の魔法少女!」
二人の声は届かなかった。




