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TS転生した俺は魔法少女になれないらしい  作者: えとう えと
二章

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37/45

買いかぶり!


 一番になりたかった。


 何かに秀でた人間に送られるその称号が欲しかった。

 水戸守ティナは昔から何でもできた。

 人並みどころか、頭一つ抜けていた。


 それでも、一番にはなれなかった。


 どんな分野においても、自分より秀でたものがいた。


 そんな時、インベーダーによって自分は死神の子となった。

 特別な存在。自分だけだと思ったそんな存在。

 それでも、結局全部で七人いることがわかった。

 その中で接触した二人を含めた三人の中で自身が特別秀でていることもない。


 死神の子に共通して因子が与えた力に優劣はない。

 差異の現れる魔眼といったものこそあるが基本的に一律同じものだ。

 故に、死神の子の間で起こるのは本人の体術、魔法技術、知恵、知識etc.……いわばビデオゲームで同じアバターを使うプレイヤーが複数いるような状態だ。

 それにゲームであれば同じアバターを使っても実力に開きが出るだろうが、死神の子の場合はそうはならない。

 強力過ぎる力による戦闘においては技術の入り込む余地は極端に少ない。

 それは、死神の子同士の実力は互角であっても、一人抜きんでているわけではないことを表していた。


 もし、ミクロな立ち回りを含めた実力を見るのであれば、先の秘密混成部隊との戦闘のように出力を最大限まで抑えた戦闘でもしなければならない。


 それでも、ティナが抜きんでることはないだろう。

 ヒナリはリスクを込みで踏み込めるため行動が一歩早く意表を突ける。キイナは知識とそれに紐づいた知恵により一手先をとることが出来る。

 それぞれが違う分野に秀でていれば上も下もない。


 日々を悶々と過ごしていた。

 満たされない。

 一番が欲しい。


 敢えて上げないC級1位のランキングだってそんなティナの欲を表していた。


 そんな日々の中で、魔法少女統括管理委員会の一つの側面である秘密混成部隊へと接触した。

 目的は、特にない。

 死神の子として活動していく中で使えるカードとして手にしておきたいと言った程度のことだ。


 そして、比果比五子が現れた。


 インベーダーの呪縛を解く存在。

 死神の子の均衡の上へと立つ存在だ。


 それは紛れもなく一番だった。


 邪魔だった。

 排除したいと思った。

 ならばいっそ、死神の子の二人ごと──


「数日ぶりですが、気分はどうですか」


 秘密混成部隊が魔法少女コフィンを捉え、白い布でくるまれた少女へとティナは声をかけた。






 ◆


 その声の主はティナだと俺は気付いた。

 魔法少女たちに捕まっていたのはほんの数時間だが林間学校で顔を合わせていない時間を入れれば彼女が数日ぶりと言うのもおかしな話ではなかった。


「……」


 喋ろうとして口が塞がれていたことに気付く。

 その様子を見たからか隠された視界の向こうで気配が動いた。

 そうして、轡が外れたのを感じた。手で外したのではなく、この拘束器具は電動で取り外しができるのだろう。


「……久しぶり。気分は……まあ、普通」


 対して良くもないが、拘束されているにしては窮屈を感じることはない。

 まあ、レベルアップによって強化された身体だからこその感覚だろう。

 ああ、でも目隠しは気持ち悪いかも、血がべったりだし。


 しかし、そんなことより何故ティナがここに居るかの方が気になる。

 魔法少女たちに拉致られたのだと考えたらここは彼女らの拠点であると考えるのが妥当だろう。

 ならば、何故ティナがここにいるのだろうか。


「どうしてここに?」


 素直にそう質問してみる。


「ふふ。貴方も分かってますでしょう?」


 なんか笑われた。


 いやわかるよ。あれでしょ。助けに来てくれたんでしょ。

 元々俺を人気のない場所へ呼び出したのはコイツなわけだし。

 魔法少女に間違えて捕らえられてしまった俺を助けにってことでしょ。


「じゃあ、ごたごたは解決したってことでいい?」

「……ええ。少し手はかかりましたが」


 誤解は解けたようだ。


「じゃあ、出るか……」

「出る?」


 ティナにこれを解いてもらって出ようと思ったとき、何故かそんな言葉を返される。

 え?出ちゃダメなの?


「少し手間取ってるから解いてくれてもいいけど」

「ふふ」


 さっきからよく笑う。

 

「貴方なら、これくらい自分で解けるでしょう?」

「……」


 え?

 この魔力を拡散する布のせいでなんも出来なんだが……。

 武器を生成して切るとかできんし。

 吸収もしたところでって感じだし。

 この布自体エネルギーで構成されたものじゃないしな。


 じゃあ、何が出来んだろ……。


 ──カゲ……。

 ──やっと、出る気になったか?

 ──俺が好き好んでここに居るように見えてたん?


 カゲに助けを求めてテレパシーを送るとそんな言葉が帰って来た。

 ティナといい俺があえてこの場に留まっているような口ぶりだがどうやって脱すればいいんだろうか。

 ここは鎌をかけるか。


 ──俺としては一つ考えがあるけど、カゲ先生はいくつ考えがある?

 ──大まかに分けて二つだな。吸収か放出か。

 ──と言うと?

 ──キサマも気付いているだろうが、この布にはいわば「溝」が掘られている。無数に掘られたそれは使いようによってはエネルギーを集めることだってできるだろう。しかし、この布は「溝」によりエネルギーが細かに枝分かれするように作られている。キサマが武器を生成しようとしてもエネルギーが分散するのはそのためだ。


 カゲの説明によってこの布の正体がつかめて来た。

 俺が編み物をしている傍から毛糸を一本一本解かれているようなものだろう。……違うか。


 ──しかし、細い「溝」に通す魔力は均等でなければ「溝」は壊れてしまう。それを吸収によって魔力の均衡を崩すことで狂いを生じさせると言う方法だ。こちらは無論キサマも考えていた案だろう。

 ──……ああ、もろちんだ。……もちろんだ。


 おちけつ俺、言葉が乱れているぞ。


 ──で、放出の方は?

 ──ああ、簡単な話だ。「溝」からあふれるくらいにエネルギーを放出する。それだけだ。

 ──そんなこと、できるのか?

 ──普通なら出来ないだろうな。これは我とオマエだから出来ることだ。「溝」からあふれるだけのエネルギーと言っても、通常それは並みの魔法少女一人に出せるものではない。理論上は可能だろうが、放出し終わったあとを考えればそれは不可能であることと変わりないだろう。しかし、我とキサマは大量のエネルギーを有している。一度に引き出せるエネルギー量は他より秀でているわけではないが、時間をかけて放出し続ければこの布も限界が来るだろう。


 確かに、魔法少女の魔力の出力と比べて俺の出力はそう秀でたものではない。

 しかし、蛇口とも言えるそれが平凡でも貯水槽は誰よりも膨大だ。

 故に力業とカゲが表現したのだろう。


 ──まあ、吸収一択と言えるがな。キサマもコストとの兼ね合いを考え無意識にこの案を頭の隅へ追いやっていたのだろう。

 ──ああ……そうだな。うん、そうだ。


「どうか、しましたか?」


 俺がカゲと話しているとティナが首を傾げた。

 いきなり黙りこくればそう問うのもおかしな話ではない。


「……まさか、解けな──」

「いや、まだ。そのときじゃない」

「そのときじゃない?」

「……ああ、お前にもすぐにわかるさ」


 なんか恥ずかしくなってそう言った。

 布の解き方は少し考えれば分かることなんだろうか。

 まあ、普通に破裂した目が戻ってないからまだ動けんし。


「そうですか。……まあ、今の貴方であれば何をしようと大したことはないでしょう」


 どういう意味だろう?

 まあ、いいか。一応話はついた?みたいだしもう少しここに居よう。

 気の持ちようで大分気分が楽になった。人間とは単純なものだ。





 ◆


 比果比五子はもう脅威ではない。

 一番ではないのだ。

 気丈にふるまいつつも、逃げ出す様子もない。

 事情は知らないが、目も負傷しているようだ。

 血がにじむ布には眼球のふくらみを感じられなかった。


 死神の子の上に立とうとする存在。

 あれほど焦がれた一番も落ちればティナには興味も関心も消え失せた。

 期待外れだ。


 随分とあっけない。

 人気のないところへ呼び出して、秘密混成部隊に襲わせればそれで終わりなのだ。


 その秘密混成部隊も今頃ごたごたしているころだろう。

 本当に──


「くだらない」






 ◆


「加覧部長。今すぐにあいつを排除すべきです!」


 逆鳴は吠える。

 さえない男は言葉を返した。


「彼女は協力者だ。今失うわけにはいかない。それは君も分かっているよね?逆鳴」


 死神の子二人に逃げられた以上情報を得なければならない。

 その情報源として彼女を手放すことはできない。

 魔法少女コフィンを捉えることが出来ていたのも、死神の子の二人をおびき寄せることが出来たのも彼女が居たからだ。

 それは、逆鳴も分かっているはずだ。だからこそ、必死に言葉をこらえたように見えた。


 だが、そもそも協力者である彼女が勝手な行動をとらなければこんなことにはならなかったと加覧は考えた。

 元々、加覧は協力者の正体を龍幻以外に明かすつもりはなかった。

 先の駐車場での一件も、少女に加勢させる気はなかったのだ。


 それは、彼女自身も合理的な判断をすれば意見の一致するところだっただろう。

 だが、それでも、分かりやすくこちら側だと示したのは、魔法少女コフィンに接触するため。

 魔法少女コフィンに接触するには施設内を歩かなければならない。その過程でどうしても自身の存在を明かす必要があったのだろう。


 そんな予想を頭に浮かべていた時、不意に携帯端末が反応を示した。

 加覧はそれを取り出し、連絡が来ていることを確認すると口を開いた。


「悪いけど、少し空けるよ。僕は君の過去を知っているから強くは言えないけれど、どうか今は耐えてほしい。それが多くのインベーダーを倒すことにつながるから」


 そう言って返事を待つことなくその場を翻した。

 そうして移動した先には、アジト内にある加覧の私室があった。

 生活空間としてはほぼ使われているわけではないが、机仕事をアジトでするときはここで行っているため少し散らかっていた。


 扉のロックを外して入ると、一人の少女がいた。


「おそいよ~。流石の海月(カイゲツ)ちゃんも待ちくたびれちゃうぞっ」


 加覧が椅子に座ったまま寝るせいで一度も使ってない仮眠用のベッドに靴のまま寝ころぶ少女は灰色の髪を揺らしてそう言った。

 手に持ったA4用紙は室内にあった資料を勝手に見ているのだろう。


「すみません。これでも急いだんですが……」

「別に理由は良いから。……あっ、そうそう、飲み物ない?喉乾いちゃったぁ」


 加覧の言葉に耳も貸さずに、S級魔法少女海月は飲料を要求した。

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