まがさか!
天坂と言う土地には実力者と呼べるA級魔法少女が密集している。
それの事実に加えて、数少ないS級である魔法少女夜空すらも活動区域にしているためか、注目度は高い。
そしてその実情を知れば更に稀有であることがうかがい知れる。
魔法少女朝桜、魔法少女翠冷、魔法少女竜星、魔法少女雪砂、魔法少女夜空。これらすべてが奇しくも同じ学校に在籍していると言う事実だ。
世間は知りようがないが、一部の魔法少女コミュニティと本人たちは承知のことだった。
そしてそこに新たな事実として、現れたのが魔法少女コフィンの存在だった。
例にもれずA級に分類される魔法少女であるのは事実だが、それ以上に得体の知れない存在であった。
本来、どれだけの実力者であろうとランキングを一気に駆け上がるのは難しい。そんな事実を覆すような登録直後のA級ランキング入りは人目を引いた。
更に、保有する魔法とタネの分からない異常なインベーダーへの察知能力。注目度は高かった。
故に、天坂を拠点とし活動を続けるS級魔法少女夜空が興味を持つのもおかしなことではなかった。
しかし、自身の所属する学校に魔法少女コフィンがいることに気付いたのは偶々だった。
そもそもの話、魔法少女を特定しようとして目視で探すのは不可能だ。それは、認識阻害によって魔法少女を変身前と見分けることはできない。
だが、偶然、魔法少女コフィンである比果比五子と知り合い、尚且つ認識阻害も強力なものではなかった。
正確には条件を満たしていればと注釈が付くだろうが。
いくら粗雑な認識阻害であろうとそれを打ち破るのには基本的に「魔眼」が必要となる。
かつて、神秘を扱うものたちが残した最後の系譜と言えるそれを。
そして、それこそが奴の狙いなのだろう。
奴の認識阻害に対して有効であるのは魔眼だけであると言うことを利用して、所有者を炙り出した。
敢えて、認識阻害の精度を下げることで一種の篩として活用したのだろう。
それを踏まえれば、屋上へと現れたことも偶然ではなく意図してのこと。
「奴の目的はなんだ?」
「クスミ?」
思考が声となってわずかに漏れた黒墨に使い魔であるダークムーンは首を傾げた。
しかし、その声に黒墨は反応することなく更に思考を続けた。そして跳ねるように顔を上げた。
「まさか!?」
「?」
「魔眼だ。奴は恐らく「観測魔眼」の存在を知っている」
「っ!……でも、アレはS級指定の情報だぜ?得体のしれないと言ってもA級のコフィンがそんなこと知ってるわけ……」
観測魔眼と言うワードは魔法少女全体で見れば上澄みのA級魔法少女ですらも知ることはできない情報だ。それを知っているとは到底ダークムーンには考えられなかった。
だが、黒墨は言う。
「変な話ではない。奴は精霊についてまで知っていた」
精霊。
それは酷くファンタジー的な響きにあって、しかし、魔法少女の常識内には存在しえないものだ。
それこそ、魔眼について深い造形でもなければ。
「でも、アレを知っていれば人ひとりが扱えるものだなんて思うはずがないぜ。ましてや、活動中の魔法少女のいずれかが持っているとは……」
「ああ。流石の彼女でも、その実態までは知ることは出来なかったのだろう。だからこそ、情報を得た方法が気になる」
食い下がるダークムーンに黒墨は言葉を返す。
鋭くもありながら、それでも精度を欠いた情報に委員会内部からの情報の収集を行ったわけではないのだろう。
では、外部からのアプローチによってここまでの情報を集めているとでもいうのか。
特例的な処置の目立つ彼女の権能を利用しての情報の取得ではなく、自力でここまでたどり着いたのだとすれば俄然魔法少女コフィンの存在は計り知れないものとなっていく。
「……コフィン。お前はなにものだ?」
◆
「魔眼はコンタクトで代用できると……」
「そうなんです!私の超絶技巧によって魔眼を疑似再現しました!」
「ワハハ!褒め給え!」と言う白衣の女を俺は見た。
「白衣着てれば何しても良いのか?」
こいつの肩書は似非言語学者じゃなかったか?
魔法少女言語の特性上多少の神秘にまつわる研究による技術を扱えるのは分かる。だが、どう考えても重要アイテムである魔眼を疑似的に再現出来て良いわけがない。
文系だろテメェと言うツッコミが意味をなさないのは知っているが、シナリオをぶっ壊しそうなことをしでかすコイツを理解できない。
「なんですか?驚きすぎて声も出ませんか?しかし、そんなに欲しそうな顔をしてもダメです!これは、私の研究を付き合ってくれた時の報酬です!」
「いや、面倒そうなことになりそうだからいらん」
「ふふん!ですが、おまけにおまけして良いことを教えてあげましょう!」
マジでコイツ人と会話する気がないのか?
対応が面倒で一日、人化したカゲを押し付けたことがあったが、カゲがスマホに夢中で一言も喋らなかったと言うのに夕方に受け取りに行ったら友達認定してたからな。
「実は最近、とある魔眼の再現に成功しまして。なんとなく観測魔眼と名付けてみたのですが、これを使うと世界強度の計測が出来るんです!」
そう言って話し出したのは、観測魔眼についての説明だった。
その効果は琴浦が言ったように世界強度の観測を可能とするものだ。
世界強度と言うのは、異界からの干渉に対しての世界事態の許容度のようなものだ。
インベーダーがこの世界に干渉するときに、侵略予定のこの地を壊さぬように単一個体を送ってくる理由であり、ガーディアンが世界に負荷をかけないように魔法少女計画により現地の少女たちに魔法少女としての活動をさせている理由だ。
そしてその世界強度と言う奴は時期に寄って変動があるらしい。
その世界強度を観測魔眼で琴浦は観測できると言う話だ。
「で、それによると近々世界強度が増すらしいってことか」
「そうなんです!そしてそこをインベーダーは世界各地に分散させて送っていた個体数を集中させると考えられます!」
それが十なのか百なのか知らんが確かに重要な情報だろうと理解する。
「そして、その情報を特別にヒーコさんにご提供します!」
ニコリと笑う少女に仕方なく頷いた。
頼みをされればなんでもNOと突き返したくなるような言動をとる天才な彼女だが、こればかりは拒めなかった。
「スマホを貸してください!」
「……頷く前に取るな」
「こうしてっと、これで見れるはずです!」
「おい、今三タップしかしてなかったろ?」
人にスマホ触らせたくないななんて躊躇する暇もなく奪われたスマホは僅か彼女の三タップで返される。
ロックは外れていたとはいえ、ホーム画面を立ち上げてアプリを起動する程度しかできないはずの動作で突き返されたスマホには謎のメーターが映っていた。意味が解らん。
◆
「えい!」
振るったステッキはインベーダーを両断する。
「ふぅ」と息を吐いたもみじに一つの声が掛けられる。
「もみじ!やったね。これでD級だ!」
「うん」
桜色のぬいぐるみのようなそれは跳ねるように宙で動いた。
魔法少女朝桜の使い魔である餅兎だ。
先の戦いで魔力の回復を図ることに成功したことにより、復活を果たしていた。
本来の個体名が地球由来でないために、魔法少女自身が名前を名付ける風習があるため餅兎の名前はもみじが付けていた。
そして餅兎と名付けられた使い魔は更に言葉を続けた。
「本当に凄い事だよ!類を見ないほどの快進撃だ!」
一度目のインベーダー討伐に引き続いて、魔法少女朝桜の戦績は常勝にあった。
元最下位とは思えないほどの快進撃で、敗北を一度もすることなくランキングを上げていった。
Fの位であったのは最早昔のことと思えるほどでD級に上がることに成功していた。
これはとても凄い事だ。それは使い魔である餅兎が言った通りで、例外中の例外である魔法少女コフィンでも比較しなければ類を見ないほどだ。
「ううん、でも……」
それでも、もみじは首を振った。
「まだ足りない」
そう。足りない。
一刻も早くA級に。
どうしてもランクアップをしなければならない理由がもみじにはあった。




