貸本漫画、もう一つのまんが道 第7話:忘れられたヒーロー(終)
作者のかつをです。
第十四章の最終話です。
一つの失われた文化がいかにしてその魂を次の世代へと受け継いでいったのか。
この物語全体のテーマに立ち返りながら貸本漫画の物語を締めくくりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
貸本屋は街から消えた。
そのインクの匂いも子供たちの賑やかな声も、今はもう遠い記憶の彼方にある。
しかし彼らが遺した熱い魂は決して消え去ってはいない。
それは形を変え現代の私たちのすぐそばで確かに息づいている。
かつて貸本屋の薄暗い棚で異彩を放っていたあの自由でアナーキーな精神。
その精神はコミックマーケットの巨大なホールで自分の「好き」を叫ぶ若者たちの熱狂の中に受け継がれている。
商業主義に媚びることなく自分たちが本当に面白いと信じるものを創り出す。
そのインディーズの誇り高き魂。
かつて貸本屋のカウンターで見知らぬ子供たちが肩を寄せ合い一つの物語に夢中になったあの温かいコミュニティの記憶。
その記憶はインターネットの片隅で同じ作品を愛するファンたちが感想を語り合い考察をぶつけ合うあの幸福な時間の中に受け継がれている。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場したあのスマートフォン。
一人の青年が電子書籍の読み放題サービスで古い貸本時代の劇画を読んでいる。
彼は知らない。
今自分が当たり前のように指先でめくっているそのざらついたしかし力強いペンのタッチが。
かつて週刊誌の光の当たらない場所でそれでも描くことを諦めなかった名もなき反逆者たちの魂の叫びだということを。
歴史は勝者の華やかな記録の中だけにあるのではない。
時代の波に飲まれ忘れ去られていった敗者たちのその声なき声の中にこそ真実は眠っているのだ。
青年はページをめくる。
そこには光も影も善も悪もすべてを飲み込んでただひたすらに生き抜こうとする人間の生々しいドラマがあった。
貸本屋は駅のホームの忘れもののように時代の片隅に置き去りにされたのかもしれない。
しかしその忘れものの中にこそ私たちが今失いかけている物語の本当の力が眠っている。
そのことに私たちは時々思いを馳せてもいいのかもしれない。
(第十四章:駅のホームの忘れもの ~貸本漫画、もう一つのまんが道~ 了)
第十四章「駅のホームの忘れもの」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
近年、この貸本漫画時代の知られざる傑作を復刻しようという動きが少しずつ出てきています。歴史の中に埋もれてしまった宝物を掘り起こす素晴らしい試みですね。
さて、漫画のもう一つの暗く熱い歴史の物語でした。
次なる物語は今度は漫画という文化そのものが社会の厳しい目に晒された時代の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第十五章:マンガは「悪書」か ~“有害コミック”騒動と表現の自由を巡る戦い~**
「漫画は子供に悪影響を与える」。
その声なき声が大きなうねりとなった時、作り手たちはどう戦ったのか。
日本の表現の自由の歴史における重要な一ページを描きます。
引き続き、この壮大な漫画創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると第十五章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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