貸本漫画、もう一つのまんが道 第6話:週刊誌の光、貸本屋の影
作者のかつをです。
第十四章の第6話をお届けします。
どんな文化にも始まりがあれば必ず終わりがあります。
今回は時代の波の中で静かにその役割を終えていった貸本漫画の少し切ない黄昏の物語を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』。
白土三平の『サスケ』。
さいとう・たかをの『無用ノ介』。
貸本の世界から週刊誌という新しい戦場へと乗り込んできた異端の才能たち。
彼らの作品はそれまでの少年誌にはなかった新しい風を吹き込んだ。
少しダークで。
少しリアルで。
そしてどこか影のあるその独特の世界観。
手塚治虫が築き上げた明朗快活な王道とは全く違うそのもう一つの物語は、子供たちの心を強く強く惹きつけた。
彼らは一躍時代の寵児となった。
しかしその輝かしい光の裏側で。
彼らを育んだ母なる大地である貸本漫画の世界は、静かにしかし確実にその命の灯火を消そうとしていた。
週刊誌の圧倒的な物量とスピード感。
そしてテレビという新しい娯楽の王様。
その前に貸本屋というのどかな商売はもはや成り立たなくなっていたのだ。
かつて街のどこにでもあった貸本屋。
そのシャッターは一つまた一つと静かに下ろされていった。
貸本専門の出版社も次々と倒産していった。
才能のある漫画家たちは皆、雑誌の世界へと引き抜かれていく。
後に残されたのは二流、三流の作家たち。
貸本屋の棚に並ぶ漫画の質は日に日に低下していった。
かつて子供たちの秘密基地であり若者たちの熱狂の震源地だったあの薄暗い空間。
そこから少しずつ光が失われていく。
それは時代の大きな流れ。
誰にも止めることのできない必然の衰退だった。
一つの偉大な文化がその役割を終えようとしていた。
しかしその文化が蒔いた種は決して無駄にはならなかった。
貸本という自由な土壌がなければ生まれなかったであろう異端の才能たち。
彼らが日本の漫画界にもたらした「多様性」というかけがえのない財産。
そして何よりも。
かつてなけなしの十円玉を握りしめ貸本屋へと走ったあの子供たちの記憶。
その原体験こそが日本の漫画文化を根底から支える最も豊かで広大な土壌となっていく。
貸本屋は消える。
しかしその魂は決して消えはしない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
貸本漫画の最盛期は1960年前後。わずか十数年の短いしかしあまりにも濃密な時代でした。この時代がなければ日本の漫画の歴史は全く違うものになっていたでしょう。
さて、ついにその歴史の幕を閉じようとしている貸本漫画。
その忘れられたヒーローたちは現代の私たちに何を遺したのでしょうか。
次回、「忘れられたヒーロー(終)」。
第十四章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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