貸本漫画、もう一つのまんが道 第5話:水木しげるの極貧生活
作者のかつをです。
第十四章の第5話をお届けします。
後の国民的漫画家、水木しげる。
その成功の裏側にあったあまりにも壮絶な極貧の下積み時代に光を当てました。
どんな逆境の中にもユーモアを忘れない。その水木先生ならではのたくましさを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
水木しげるは貸本漫画家としてそこそこの人気は博していた。
しかし彼の生活はその人気とは裏腹に、極貧を極めていた。
当時の貸本漫画の原稿料は1ページわずか数百円。
そこからアシスタントへの給料を払い家賃を払い画材を買えば、手元にはほとんど何も残らない。
彼の自伝的漫画にはその壮絶な貧乏暮らしのエピソードが克明に、そしてどこかユーモラスに描かれている。
食事は日に一度だけ。
米を買う金もなく、かぼちゃのツルばかりを食べていた。
家賃を滞納し大家に怒鳴り込まれるのは日常茶飯事。
金策のためにないなしの古着を質屋に持って行くも、二束三文でしか買い取ってもらえない。
あまりの貧しさに彼は自らの血液を売って生活費の足しにしていたという。
しかしそんな絶望的な状況の中でも彼は決してペンを置こうとはしなかった。
むしろその貧しさこそが彼の創造の源泉となっていた。
腹が減れば減るほど。
追い詰められれば追い詰められるほど。
彼の頭の中では妖怪たちが生き生きと躍動し始めるのだ。
彼は毎晩のように金縛りにあった。
枕元には得体の知れない妖怪たちが次々と現れる。
「もっと俺たちのことを描け」
そう囁きかけてくる彼ら異形の者たち。
彼らは水木にとって恐怖の対象であると同時に、孤独な創作活動を支えてくれる唯一の「友人」でもあったのかもしれない。
彼は来る日も来る日も描き続けた。
売れるためではない。
金のためでもない。
ただ自分の頭の中に渦巻くこの奇妙で愛おしい妖怪たちの物語を形にしたい。
その純粋な衝動に突き動かされるように。
やがて時代が彼に追いつき始める。
週刊少年マガジンが彼の異質な才能に目を付けた。
貸本で人気を博していた『墓場鬼太郎』を少年誌向けにリメイクしないかというオファーが舞い込んできたのだ。
そのリメイク版こそ後の『ゲゲゲの鬼太郎』である。
長い長いトンネルの先にようやく見えてきた一筋の光。
貸本という薄暗い路地裏で黙々とペンを走らせていた不遇の天才が、ついに日本中の子供たちが待つ光の当たる大通りへと歩み出す時が来たのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
水木しげる先生の貧乏時代のエピソードはどれも壮絶でありながらどこかカラッとしていて笑えてしまうから不思議です。その独特の人生観こそが彼の作品の魅力の源泉なのでしょう。
さて、ついにメジャーデビューのチャンスを掴んだ貸本の天才たち。
しかしそれは貸本という一つの文化の終わりの始まりでもありました。
次回、「週刊誌の光、貸本屋の影」。
時代の大きな移り変わりを描きます。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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