貸本漫画、もう一つのまんが道 第4話:怪奇と忍者とアウトロー
作者のかつをです。
第十四章の第4話をお届けします。
貸本漫画が生んだ三人の偉大な巨匠。
今回は彼らがいかにしてそのアンダーグラウンドな世界で自らの個性を磨き上げていったのかを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
貸本漫画という混沌とした坩堝の中から、やがて時代を象徴する三人の異端のスターが生まれてくる。
一人は水木しげる。
彼は戦争で左腕を失いながらも、漫画家になるという夢を諦めきれずにいた。
彼の描く不気味でしかしどこか愛嬌のある妖怪たちの物語。
それは当初どの出版社からも相手にされなかった。
「こんな暗い気味の悪い漫画、誰が読むんだ」
しかし貸本の世界だけは彼の唯一無二の才能を受け入れた。
『墓場鬼太郎』は子供たちの間で熱狂的な口コミを呼び、貸本漫画の看板作品の一つとなった。
一人は白土三平。
彼の描く忍者漫画は単なる勧善懲悪のヒーローものではなかった。
封建社会の厳しい身分制度の中で虐げられ搾取される、下人忍者たちの血塗られた階級闘争の物語。
そのあまりにもリアルで残酷な描写と、史実に基づいた重厚な世界観は大学生やインテリ層の心を鷲掴みにした。
そしてもう一人がさいとう・たかを。
彼が描いたのは銃と硝煙の匂いがするハードボイルドなアウトローたちの世界だった。
その映画的な構図と乾いたニヒルな作風。
それは手塚治虫が築き上げた明朗快活なストーリー漫画への、最も過激なアンチテーゼだった。
怪奇、忍者、アウトロー。
彼らが描いたのは決して大手出版社の表通りを堂々と歩けるようなテーマではなかった。
しかしその薄暗い路地裏で磨かれた鋭利な刃物のような個性こそが、彼らを他の誰にも真似のできない特別な存在へと押し上げたのだ。
やがて時代の大きな地殻変動が起きる。
1959年。
『週刊少年マガジン』と『週刊少年サンデー』の創刊。
週刊誌という巨大な黒船が日本の漫画界のすべての常識を塗り替えてしまったのだ。
貸本漫画の読者たちは毎週新しい物語が読める雑誌の圧倒的なスピード感と華やかさに心を奪われていった。
貸本屋の客足は日に日に遠のいていく。
貸本という一つの偉大な文化がその黄昏の時を迎えようとしていた。
しかしその沈みゆく船からいち早く新しい大陸へと飛び移った者たちがいた。
それが水木であり白土でありそしてさいとう・たかをだった。
彼らは貸本の世界で鍛え上げたその唯一無二の武器を手に、週刊誌という新しい戦場へと乗り込んでいく。
そしてそこで手塚治虫とは全く違う、もう一つの巨大な山脈を築き上げていくことになる。
貸本屋の路地裏で生まれた異端の才能たちが、ついに光の当たる表舞台へと躍り出る時が来たのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
白土三平の『カムイ伝』は後に伝説の漫画雑誌『ガロ』にその舞台を移し、学生運動のバイブルとも称される社会現象を巻き起こします。その物語もまた別の章で詳しく描かれることになるでしょう。
さて、時代の波の中で少しずつその役割を終えようとしていた貸本漫画。
その黄昏の時代を生きた一人の男の哀愁に光を当てます。
次回、「水木しげるの極貧生活」。
後の国民的漫画家が味わった壮絶な下積み時代の物語です。
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