ガンダムという名の革命 第2話:おもちゃ屋からの要求
作者のかつをです。
第十三章の第2話をお届けします。
作り手の「理想」とスポンサーの「現実」。
今回はガンダムの企画段階で実際にあったとされる、その生々しい衝突の現場を描きました。
この悔しさこそが、ガンダムという作品の魂の原点となりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
富野喜幸と安彦良和。
二人の天才が中心となって、新しいロボットアニメの企画が練り上げられていった。
その最初の企画タイトルは、『フリーダムファイター・ガンボーイ』。
宇宙を舞台にした『十五少年漂流記』のような、少年たちの成長の物語だった。
しかしその企画書を、スポンサーである玩具メーカー「クローバー」の役員たちの前に提示した瞬間。
場の空気は凍り付いた。
役員たちの顔には、露骨なまでの困惑と不満の色が浮かんでいた。
「……地味だな」
一人の役員が、吐き捨てるように言った。
「なんだこのロボットは。色が白と青と赤だけじゃないか。こんなトリコロールカラーの地味なロボットのおもちゃが売れるわけがないだろう」
「もっと派手な原色を使いたまえ。赤、青、黄色だ。子供はそれが好きなんだ」
別の役員が言葉を継ぐ。
「それに、なんだこの『量産型ザク』というのは。同じ形の緑色のロボットが大勢出てくる? 馬鹿を言え。そんなやられ役の同じおもちゃが何種類も売れるものか」
「敵のロボットは毎週違う奇抜なデザインにするんだ。そうでなければおもちゃの種類が増えないだろうが」
そしてクローバーの社長が、最後通告のように言い放った。
「分かっているのかね、富野くん。君たちが作るのは芸術作品じゃない。おもちゃの30分間のコマーシャルなんだよ」
「我々の言う通りに売れるロボットを出しなさい。そうでなければこの話はなかったことにする」
スポンサーからの絶対的な命令。
それは富野たちが最も嫌悪していた、商業主義の論理そのものだった。
会議室からの帰り道。
富野と安彦は言葉もなく、重い足取りで歩いていた。
悔しさで唇を噛み締める。
「……どうする」
安彦が、絞り出すように言った。
「奴らの言う通りにするのか。それともこの企画ごと潰すか」
富野は立ち止まり、夜空を見上げた。
星が憎らしいほど美しく輝いていた。
「……いや」
彼の目に、静かなしかし燃えるような闘志の光が宿った。
「奴らの要求は呑もう。呑んだ上で、俺たちの本当に描きたい物語を描いてやる」
「これは戦争だ。クリエイターとサラリーマンのどちらが上か、思い知らせてやるんだ」
それはあまりにも無謀で危険な賭けだった。
スポンサーを巧みに騙しながら、自分たちのゲリラ的な表現を作品の中に忍び込ませていく。
ロボットの名前は『ガンダム』と改められた。
その無骨な響きは、彼らの静かなる宣戦布告の狼煙のようにも聞こえた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
玩具メーカー「クローバー」は当時、『無敵超人ザンボット3』などのヒットで勢いに乗っていました。彼らにとってサンライズは、あくまで自分たちのヒットの方程式に従うべき下請けの一つでしかなかったのです。
さて、スポンサーとの危険な共犯関係を選んだ富野たち。
彼らがブラウン管に映し出したのは、それまでのどんなロボットアニメとも似ていない異質な世界でした。
次回、「これは戦争だ」。
ついに『機動戦士ガンダム』の放送が始まります。
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