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漫画創世記~ペン先は世界を描いた~  作者: かつを
第1部:表現の創世編 ~ペン先から生まれた宇宙~
8/19

墨汁とベタと焼き鳥と 第1話:椎名町の木造アパート

作者のかつをです。

 

本日より、第二章「墨汁とベタと焼き鳥と ~トキワ荘、まんが道が生まれた部屋~」の連載を開始します。

今回の主役は、伝説のアパート「トキワ荘」に集った、若き漫画家たち。

彼らの青春が、いかにして、未来の漫画界の礎を築いたのか。その奇跡の物語です。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

2025年、東京。

 

とある漫画家の仕事場で、若いアシスタントが、黙々とペンを走らせている。

彼の仕事は、キャラクターの背景に、緻密な街並みを描き込むこと。師である漫画家の絵柄に完璧に合わせながら、物語の世界観を構築していく、専門性の高い仕事だ。

 

漫画家一人では、週刊連載という過酷な戦場を生き抜くことはできない。

彼らのようなアシスタントの存在が、現代の漫画制作を支えている。

 

私たちは、その師弟関係を、当たり前のものとして受け入れている。

しかし、その「当たり前」の原点が、かつて東京の片隅に存在した、一軒の古びた木造アパートにあったという事実を、知る者は少ない。

 

これは、後の巨匠たちが、一つの屋根の下で貧乏暮らしをしながら、夢とインクを分け合った、奇跡のような日々の物語である。

 

 

物語の始まりは、1953年。

「漫画の神様」手塚治虫が、仕事場を求めて移り住んだ、東京都豊島区椎名町。

そこに、新築の木造二階建てアパートがあった。

その名は、「トキワ荘」。

 

しかし、神様は、あまりにも多忙すぎた。

鳴り響く電話、ひっきりなしに訪れる編集者。静かな執筆環境とは、ほど遠い。

わずか一年で、手塚はトキワ荘を去ってしまう。

 

神様が去った後、その部屋に、最初に入居した男がいた。

漫画家の、寺田ヒロオ。

誠実で、温厚な人柄の、若きリーダー的存在だった。

 

そして、翌年の1954年。

一本の電話が、トキワ荘の歴史を、大きく動かすことになる。

電話の主は、富山で共同生活をしながら、漫画を描いていた、二人の青年。

藤本弘と、安孫子素雄。後の、藤子不二雄である。

 

「手塚先生が住んでいた、トキワ荘が空いているらしい。僕らも、東京へ行こう!」

 

大きな夢と、少しの不安をカバンに詰め込み、二人は夜行列車に飛び乗った。

彼らがたどり着いたトキワ荘。

そこは、お世辞にも、立派な建物とは言えなかった。

 

ギシギシと音を立てる、急な階段。

共同の炊事場と、共同のトイレ。

壁は薄く、隣の部屋の咳払いさえ聞こえる。

四畳半一間の、狭い、狭い城。

 

しかし、二人の目には、その古びたアパートが、希望の城のように、輝いて見えた。

敬愛する手塚治虫が、確かに、ここにいた。その残り香が、まだ、部屋の空気に漂っているようだった。

 

この、椎名町の木造アパートに、やがて、まだ何者でもない、若き才能たちが、吸い寄せられるように、集い始める。

日本漫画の、奇跡の数年間が、始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第二章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

トキワ荘は、もともと、学習院大学の学生向けのアパートとして建てられたそうです。まさか、そこが、漫画の聖地になるとは、大家さんも夢にも思わなかったでしょうね。

 

さて、若き才能が集い始めた、トキワ荘。

しかし、そこは、ただの共同住宅ではありませんでした。

彼らの創造性を育んだ、ある「空気」が存在したのです。

 

次回、「テラさんのルール」。

トキワ荘の、知られざる精神的支柱に、光を当てます。

 

ブックマークや評価で、新章のスタートを応援していただけると嬉しいです!

ーーーーーーーーーーーーーー

この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


▼公式サイトはこちら

https://www.yasashiisekai.net/

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