鉄腕アトム、お茶の間へ 第3話:リミテッドアニメという発明
作者のかつをです。
第十二章の第3話をお届けします。
今では当たり前のように使われているアニメの表現技法。
そのほとんどすべてがこの『鉄腕アトム』の制作現場で、予算と時間の制約の中から発明されたものでした。
今回はその驚くべき創造の瞬間に光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
虫プロダクションの小さなスタジオは、革命的な発明の実験室と化した。
手塚治虫の頭の中から次々と溢れ出す奇想天外なアイデアを、若きアニメーターたちが必死に形にしていく。
まず彼らが編み出したのが、「止め絵」の効果的な使用だった。
キャラクターが決めポーズで静止する。
その一枚の絵を数秒間見せ続ける。
その間にカメラをゆっくりとパン(横移動)させたり、ズームインさせたりする。
絵は動いていない。しかしカメラが動くことで、視聴者はあたかもキャラクターが動いているかのような錯覚を覚えるのだ。
さらに彼らは、「バンクシステム」という画期的なリサイクルの手法を発明した。
アトムが空を飛ぶシーン。
変身するシーン。
一度描いた一連の動きのセル画を、まるで銀行に預けるように「バンク」として保管しておく。
そして別の回で同じようなシーンが出てきたら、そのバンクからセル画を引き出して再利用するのだ。
これにより作画の枚数を劇的に節約することができた。
そして何よりも革命的だったのが、「3コマ打ち」と呼ばれる時間感覚の発明だった。
フルアニメーションが一秒間に24枚のすべて違う絵を使うのに対して、彼らは同じ絵を3コマ(8分の1秒)ずつ見せることにした。
つまり一秒間に使う絵はわずか8枚。
作画の枚数は一気に三分の一になる。
もちろん動きはカクカクとして滑らかさには欠ける。
しかし人間の目は意外と騙されやすい。
巧みな演出と効果音、そして声優の迫真の演技が加われば、そのぎこちない動きが逆に力強さやスピード感として認識されるのだ。
止め絵、バンク、3コマ打ち。
これらの「リミテッド・アニメ」の技法は、芸術性を追求するディズニーの視点から見れば、単なる「手抜き」であり邪道だったかもしれない。
しかしそれは週一放送という絶望的な制約の中で物語を語るための、唯一無二のそして驚くほどクリエイティブな発明の数々だった。
手塚と若きアニメーターたちは、まさに自分たちの手で新しい「言語」を創り出していた。
日本のアニメーションという、まったく新しい映像言語を。
理論はできた。
あとはその理論を元に、毎週30分、1800秒の戦いを続けるだけだ。
しかし彼らはまだ知らなかった。
この発明の先に本当の「地獄」が待ち受けていることを。
理論と現実の間にある、深く暗い谷間の存在を。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「リミテッド・アニメ」の手法は後のすべてのアニメに受け継がれていきます。『エヴァンゲリオン』の有名なエレベーターの沈黙シーンなども、この「止め絵」の演出の究極進化形と言えるかもしれませんね。
さて、ついに魔法の武器を手に入れた虫プロ。
しかしその武器を手に彼らが乗り込んだのは、想像を絶する過酷な戦場でした。
次回、「徹夜とリテイクの嵐」。
伝説のアニメ制作現場の壮絶な日常が描かれます。
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