コミックマーケット、たった32のサークルから 第8話:あなたの好きな一冊(終)
作者のかつをです。
第十一章の最終話です。
一つの小さなサークル活動がいかにして世界的な文化となり現代の私たちの「好き」という感情を支えているのか。
壮大な歴史の繋がりを感じていただけたら嬉しいです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
米沢嘉博がその生涯を閉じた後も。
彼が仲間たちと共にゼロから創り上げた熱狂の祭典は終わることはなかった。
コミックマーケットはもはや単なる日本の一つのイベントではなかった。
世界中からMANGAを愛する人々がこの特別な「ハレの日」を目指して東京に集うようになった。
それは世界最大のポップカルチャーの聖地巡礼となったのだ。
時代は移り変わった。
インターネットの登場は誰もが自分の作品を世界に発信できる新しい「場」を生み出した。
もはや物理的に一つの場所に集わなくても同じ「好き」を持つ仲間と繋がれる時代になった。
それでもコミケの熱は少しも衰えることはなかった。
なぜなら人々は気づいていたからだ。
モニターの画面越しでは決して味わうことのできないあの会場の地響きのような熱気。
憧れの作り手と直接言葉を交わし一冊の本を手渡されるその瞬間の喜び。
そのかけがえのないリアルな体験こそがコミケという「場」が持つ永遠の魔法であることを。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場したあの東京ビッグサイト。
一人の少女が人混みをかき分けお目当てのサークルの長い行列の最後尾にようやくたどり着いた。
彼女は知らない。
今自分が当たり前のように並んでいるその何万人もの行列のその遥かなる始まりの場所に。
かつてたった32の同志たちが小さな会議室で熱く漫画の未来を語り合っていたという事実を。
商業主義の大きな壁の向こう側で自分たちだけの自由な表現の場を夢見た名もなき若者たちのささやかなしかし偉大な反逆があったということを。
歴史は古い資料の中だけにあるのではない。
私たちが「好き」というただ一つの気持ちを共有しようとするこの熱狂のど真ん中に確かに息づいているのだ。
長い長い待ち時間の末。
少女はついに一冊の薄い本をその手に入れた。
その作り手の魂が込められた世界でたった一つの宝物。
そのささやかなしかし確かな幸福。
それこそが米沢嘉博が生涯をかけて守り抜こうとした夢の続きなのかもしれない。
(第十一章:壁の向こうの熱狂 ~コミックマーケット、たった32のサークルから~ 了)
第十一章「壁の向こうの熱狂」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
近年、コロナ禍という未曾有の危機に直面したコミックマーケット。しかし彼らはその逆境をも乗り越えオンラインとの融合など新しい「場」のあり方を模索し続けています。その不屈の精神には本当に頭が下がります。
さて、ファンの熱狂の物語でした。
次なる物語は漫画という枠組みを飛び出しブラウン管の向こう側でもう一つの巨大な文化を創り上げた男たちの物語です。
次回から、新章が始まります。
**第十二章:鉄腕アトム、お茶の間へ ~日本初のTVアニメシリーズ制作秘話~**
漫画の神様・手塚治虫がもう一つの無謀な戦いに挑みます。
「毎週テレビでアニメを放送する」。
その常識外れの挑戦がいかにして現代の「ANIME」文化の礎を築いたのか。
引き続き、この壮大な漫画創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると第十二章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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