コミックマーケット、たった32のサークルから 第5話:行列とスタッフとルール
作者のかつをです。
第十一章の第5話をお届けします。
どんな理想もそれを支える地道な現実の運営がなければ成り立ちません。
今回は巨大化するコミケの知られざる舞台裏の戦いと、それを支えた「ボランティアスタッフ」という独自の文化に光を当てました
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
コミックマーケットの成長のスピードは、運営スタッフたちの想像を遥かに超えていた。
サークル数は数百を超え、一般参加者は一万人を突破した。
その爆発的な熱狂は、新たなそして極めて現実的な問題を生み出した。
「行列」と「ゴミ」と「暑さ」である。
開場を待つ参加者の行列はもはや会場の敷地内では収まりきらなくなった。
何千人もの若者たちが会場の周りの公道を何重にも取り囲む。
近隣の住民からの苦情は殺到した。
会場内はまさに戦場だった。
狭い通路に人が寿司詰め状態になり、熱気と湿気で息もできない。
夏場には熱中症で倒れる者が続出した。
イベントが終わった後には会場の周りにおびただしい量のゴミが残された。
「このままではコミケは社会から受け入れられない」
「いつか大きな事故が起きる。その前に手を打たなければ」
米沢たち準備会のメンバーは頭を抱えた。
彼らはただの漫画好きの学生。
何千、何万人という巨大な群衆を安全にコントロールするためのノウハウなど持ち合わせてはいなかった。
彼らは自分たちだけでこの問題を抱え込むことをやめた。
そして参加者たちに助けを求めたのだ。
「コミケは我々準備会だけのものではない。参加者、君たち自身のお祭りなんだ」
「この『場』を未来に繋ぐために、どうか力を貸してほしい」
その誠実な呼びかけに多くの参加者が応えた。
イベントの運営を手伝いたいという有志の「ボランティアスタッフ」が、次々と名乗りを上げたのだ。
彼らは自分たちで考え、ルールを作り、実行していった。
長大な行列をいかにして安全に効率的にさばくか。
彼らは参加者を数千人単位のブロックに分け、時間差で入場させるという手法を編み出した。
ゴミの問題にはどう対処するか。
「自分の出したゴミは自分で持ち帰る」。
そのシンプルな標語を徹底的に呼びかけた。
熱中症対策はどうするか。
スタッフが巡回しこまめな水分補給を呼びかけ、救護室との連携を密にした。
それはプロのイベント業者が上から押し付ける管理ではなかった。
参加者自身が自分たちの「場」を守るために知恵を出し合い、汗を流す「自治」の精神そのものだった。
この「ボランティアスタッフ」という独自の運営システム。
それこそがコミックマーケットが何十万人規模の巨大イベントへと成長してもなお、その手作りの「文化祭」の魂を失わずにいられた最大の秘密だった。
彼らはただ漫画を愛していた。
その愛する「場」を自分たちの手で守り育てていくことに、何よりの喜びを感じていたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
コミケのボランティアスタッフは今や数千人規模の巨大な組織となっています。彼らは一切の報酬を受け取ることなくただコミケが好きだという情熱だけで、この世界最大の祭りを支え続けているのです。まさに驚異的な光景です。
さて、運営の体制も整ってきた。
コミケはついにその伝説の「聖地」へとたどり着きます。
次回、「晴海、そしてビッグサイトへ」。
あの熱狂の風景がついに完成します。
物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!
ーーーーーーーーーーーーーー
もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。
▼作者「かつを」の創作の舞台裏
https://note.com/katsuo_story




