『少年ジャンプ』が愛読者賞を始めた日 第5話:専属契約制度
作者のかつをです。
第十章の第5話をお届けします。
勝つためには非情にさえなる。
今回は『少年ジャンプ』のもう一つの知られざる顔、そのビジネスとしての冷徹な戦略性に光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
『少年ジャンプ』はついに最後のそして最も強力な武器を手に入れた。
それは他誌の息の根を止めるための非情なまでの「兵糧攻め」だった。
その名は「専属契約制度」。
もちろん専属契約という仕組み自体はマガジンやサンデーも行っていた。
人気作家を自社に囲い込み他誌で描かせないようにする。
それは業界の暗黙の常識だった。
しかしジャンプのそれは次元が違っていた。
編集長の長野規はまだヒット作を一本しか出していないような若手の新人作家にさえ、この専属契約を積極的に持ちかけたのだ。
「先生、ジャンプと専属契約を結んでくださいませんか」
「その代わり、たとえ連載が打ち切りになっても次の連載が始まるまでの間、毎月これだけの契約金をお支払いします」
それはまだ不安定な生活を送る若手作家たちにとって、悪魔的な魅力を持つ提案だった。
人気が出なければすぐに打ち切られるという過酷な競争。
しかしその一方で生活の安定は保証される。
この「アメとムチ」の戦略は絶大な効果を発揮した。
ジャンプで一度でもヒットを飛ばした有望な若手は、こぞってこの専属契約を結んだ。
彼らはジャンプという快適な「鳥かご」の中で、安心して次なるヒット作の構想を練ることができた。
その結果、何が起きたか。
マガジンやサンデーは深刻な才能の流出に苦しむことになった。
ジャンプで育った新しい才能を引き抜こうとしても、彼らは専属契約という見えない鎖でがんじがらめにされている。
漫画界の新しい才能はすべてジャンプという巨大なブラックホールに吸い込まれていく。
そしてそのブラックホールの中で友情、努力、勝利の洗礼を受け、アンケート至上主義の競争を勝ち抜いた最強の戦士だけが生き残る。
ジャンプはついに他社が決して真似のできない最強の「生態系」を作り上げてしまったのだ。
この非情なまでの才能の独占。
それは業界内から多くの批判を浴びた。
「仁義なき引き抜きだ」
「漫画界の多様性を失わせる危険な行為だ」
しかし長野は意に介さなかった。
これは戦争なのだ。
勝つためには手段は選ばない。
三番手だった弱小の挑戦者はいつしかライバルを情け容赦なく喰らい尽くす、貪欲な怪物へとその姿を変えていた。
王座はもう目と鼻の先にあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「専属契約制度」はジャンプの黄金時代を築いた最大の原動力の一つであると同時に、漫画界の才能の流動性を著しく低下させたという批判も根強くあります。まさに功罪相半ばする戦略でした。
さて、最強の武器と最強のシステム、そして最強の才能。
すべてを手に入れたジャンプ。
いよいよ彼らが頂点へと駆け上がる時が来ます。
次回、「王者の座へ」。
ついに歴史が動きます。
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