『少年ジャンプ』が愛読者賞を始めた日 第3話:アンケートは絶対である
作者のかつをです。
第十章の第3話をお届けします。
『少年ジャンプ』の強さの源泉であり、同時にその功罪が常に議論の的となる「アンケート至上主義」。
今回は、そのシステムの知られざる徹底ぶりに光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「友情・努力・勝利」という魂の羅針盤。
それに加えて『少年ジャンプ』はもう一つ、他誌を遥かに凌駕する徹底的なシステムを作り上げた。
それは第六章でも登場した、あの「読者アンケート」の究極進化形だった。
マガジンやサンデーももちろん、読者アンケートを重視していた。
しかしジャンプのそれは、もはや「宗教」とでも呼ぶべき狂信的なレベルにまで高められていた。
編集長の長野規は宣言した。
「この雑誌における神はただ一つ。読者アンケートの結果、それだけだ」
毎週、全国から送られてくる何万通ものアンケートハガキ。
その一枚一枚に書かれた「面白かった漫画ベスト3」。
その無慈悲な数字の集計結果が、ジャンプのすべてを決定づけた。
アンケートの順位がそのまま翌々週の掲載順になる。
人気の高い漫画は巻頭カラーを飾り、手厚くプッシュされる。
人気のない漫画は無情にも後ろのページへと追いやられ、読者の目に触れる機会さえ失っていく。
そして最下位付近が定位置となった作品には、容赦ない宣告が下される。
「10週打ち切り」
たとえそれがどんなに有名なベテラン作家の作品であろうと。
たとえ編集部が鳴り物入りで始めた期待の大型連載であろうと。
例外は一切認められない。
神(読者)の声は絶対なのだ。
このあまりにもドライで過酷なシステムは、編集部内部からも多くの批判を浴びた。
「これでは目先の人気ばかりを追う、刹那的な作品しか生まれなくなる」
「じっくりと物語を育てていくという視点が、失われてしまう」
しかし長野は一切耳を貸さなかった。
「我々は評論家を唸らせたいんじゃない。子供たちを熱狂させたいんだ」
「そのためには毎週毎週、サバイバルを勝ち抜いた本当に面白い漫画だけを載せる。それ以外に道はない」
この「アンケート至上主義」は、ジャンプを常に新陳代謝を繰り返す戦闘集団へと変貌させた。
人気のない者は去る。
そしてその空いた席を、ハングリーな新しい才能が虎視眈々と狙っている。
この終わりなき生存競争。
その緊張感こそがジャンプという雑誌に、他誌にはない独特の「熱」を生み出していく。
読者は敏感にその熱を感じ取っていた。
この雑誌は本気だ。
毎週命がけで俺たちを楽しませようとしてくれている。
読者と編集部と作家。
その三者の間にアンケートという見えざる絆が結ばれた瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「10週打ち切り」は当時のジャンプの代名詞ともいえる非情なルールでした。新連載は開始から10週間で一度読者の審判を受け、そこで人気が出なければ即打ち切り。多くの漫画家がこのルールに泣かされ、そしてこのルールがあったからこそ必死で面白い漫画を描いたのです。
さて、最強のシステムを手に入れたジャンプ。
しかし彼らにはまだ最後のピースが足りませんでした。
次回、「愛読者賞という名の賭け」。
未来のジャンプを支える新しい才能をいかにして見つけ出すのか。
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