『少年ジャンプ』が愛読者賞を始めた日 第2話:友情・努力・勝利
作者のかつをです。
第十章の第2話をお届けします。
あまりにも有名な「ジャンプ三原則」。
それが、いかにして逆境の中から戦略的に生み出されていったのか。
今回は、その誕生の瞬間に光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
弱小の『少年ジャンプ』が、巨大な二大巨頭にどうすれば勝てるのか。
編集長の長野規は、来る日も来る日もその一点だけを考えていた。
そして彼は、一つのシンプルな答えにたどり着く。
それは読者である、少年たちの「心」そのものと向き合うことだった。
彼は編集部員たちを集め、こう問いかけた。
「君たちが、子供の頃、何に一番胸を熱くしたか?」
編集部員たちは、口々に自らの原体験を語り始めた。
「やっぱり、友達との友情ですね。喧嘩しても、最後には肩を組んで笑い合えるような」
「僕は、一つの目標に向かって必死に努力すること。逆境を根性で乗り越える瞬間に感動します」
「そして、最後にはやっぱり勝ってほしい! 苦労が報われて、勝利を掴む。そのカタルシスがたまりません」
その熱い議論の中から、三つの黄金のキーワードが浮かび上がってきた。
「友情」
「努力」
「勝利」
長野は、膝を打った。
「それだ……!」
時代が変わろうと、子供たちの興味の対象が変わろうと、この三つの要素は少年たちの心を永遠に熱くさせる普遍的なテーマのはずだ。
「我々の雑誌は、この三つのテーマを編集方針の絶対的な柱に据える」
「すべての連載漫画は、この『ジャンプ三原則』のどれか一つ、いや、できればそのすべてを満たすものでなければならない」
それは漫画界の常識を覆す、革命的な宣言だった。
これまでの漫画雑誌は、作家の「個性」や「作家性」を何よりも尊重していた。
編集部が作品のテーマにまで口を出すなど、前代未聞だったのだ。
当然、反発の声も上がった。
「そんな、金太郎飴のような雑誌を作って面白いのか」
「作家の自由な創造性を、縛ることになるんじゃないか」
しかし長野は揺るがなかった。
自分たちが作るのは高尚な「作品」ではない。
読者を楽しませるための最高の「商品」なのだ。
そのためには明確なヒットの法則が必要だった。
このシンプルで力強い三原則。
それこそがジャンプという寄せ集めの軍団を、一つの明確な方向へと導く羅針盤となった。
作家たちは迷わなくなった。
読者が何を求めているのか。その答えは明確に示されている。
あとはそのテーマの上で、いかに自分の個性を爆発させるか。
その一点に集中すればいい。
友情、努力、勝利。
そのあまりにも有名な黄金の法則。
それは会議室の熱い議論の中から生まれた、編集者たちの魂の叫びだった。
この三つの言葉がやがて日本中、いや、世界中の少年たちの心を一つに繋いでいくことになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この「友情・努力・勝利」は、公式に明文化されたものではないという説もあります。しかし、当時の編集者たちがこの三つのテーマを非常に強く意識していたことは、数々の証言で明らかになっています。まさにジャンプのDNAそのものですね。
さて、最強の「編集方針」を手に入れたジャンプ。
しかし、彼らにはもう一つ、他誌を圧倒する革命的な「システム」がありました。
次回、「アンケートは絶対である」。
ジャンプのもう一つの強さの秘密に迫ります。
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