手塚治虫と映画的表現の革命 第6話:ライバルたちの模倣と嫉妬
作者のかつをです。
第一章の第6話をお届けします。
どんな天才もその登場は旧来の価値観との衝突を生みます。
今回は時代の寵児となった手塚治虫が抱えていた、栄光の裏の知られざる苦悩と孤独に光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
『新宝島』の成功は、手塚治虫に栄光とそして重い十字架を背負わせることになった。
彼の前に原稿依頼が殺到した。
子供たちは彼の新しいスタイルの漫画を熱狂的に求めていた。
彼は医学生との二足のわらじを履きながら、猛烈なペースで次々と傑作を生み出していく。
『ジャングル大帝』、『鉄腕アトム』、『リボンの騎士』……
しかしその華やかな活躍の裏側で、彼は常に孤独だった。
彼のあまりにも革新的な手法は、旧来の漫画界からなかなか正当に評価されなかった。
ベテランの漫画家たちは陰で彼をこう揶揄した。
「あんなものは漫画じゃない。ただの落書きだ」と。
一方で若手の漫画家たちは、我先にと彼の手法を模倣し始めた。
手塚風の大きな瞳のキャラクター。
手塚風の映画的なコマ割り。
しかし彼らの多くは、その表面的なテクニックを真似るだけで、手塚がその表現に込めた深い思想までは理解していなかった。
手塚は苛立ちそして焦っていた。
自分の魔法が安っぽく、陳腐なものとして消費されていく。
誰も本当の意味で自分を理解してはくれない。
そんな彼の唯一の心の支えは、読者である子供たちから届くファンレターの束だった。
そこには純粋な感動と興奮の言葉が綴られていた。
「先生の漫画を読むと胸がドキドキします」
「アトムみたいに強くて優しいロボットが本当にいたらいいのに」
その言葉を読むたびに彼は救われた。
自分のやっていることは間違ってはいない。
自分の魔法は確かに子供たちの心に届いている。
彼は決意を新たにした。
誰に何を言われようと構わない。
自分はただ子供たちの夢のために描き続ける。
漫画というこの素晴らしい表現の可能性を、もっともっと切り拓いていくのだと。
批判と嫉妬の嵐の中で、彼はたった一人でペンを握りしめた。
そのペン先には未来の漫画界、そのすべての重みがかかっていた。
神様とはかくも孤独な存在だったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
手塚治虫は非常に負けず嫌いな性格だったと言われています。他の漫画家の才能に嫉妬し、時には大人げないほどの対抗心を燃やすこともあったそうです。そんな人間臭さもまた彼の魅力の一つでした。
さて、孤独な戦いを続けた漫画の神様。
彼が遺した偉大な発明は現代の私たちにどう繋がっているのでしょうか。
次回、「あなたが読む、その一コマ(終)」。
第一章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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