漫画編集者という仕事を発明した男たち 第7話:伴走者はここにいる(終)
作者のかつをです。
第八章の最終話です。
一人の天才的な作家だけでなく、それを支える伴走者の存在があってこそ偉大な物語は生まれる。
その普遍的な創造の真理を、漫画編集者の歴史を通じて描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
週刊少年誌の若き編集者たちが、手探りで発明した「伴走者」という仕事のスタイル。
そのスタイルは、やがて日本のあらゆる漫画雑誌のスタンダードとなった。
少年漫画だけではない。
少女漫画の編集者は作家の繊細な恋心に寄り添い、青年漫画の編集者は作家と共に膨大な資料を読み解き社会の闇に切り込んでいった。
漫画家と編集者の二人三脚。
その幸福な関係性が、日本の漫画を世界で最も多様でそして質の高い物語の森へと育て上げていったのだ。
時代は移り変わった。
戦いの舞台は紙の雑誌からウェブの世界へと広がった。
読者の声はアンケートハガキではなく、SNSのコメント欄からリアルタイムで届くようになった。
しかしその本質は何も変わってはいない。
才能の原石を見つけ出し、その才能を誰よりも信じ励まし、時には厳しくぶつかり合いながら最高の物語を共に創り上げていく。
その熱い魂のリレーは、今この瞬間も日本のどこかの編集部で確かに受け継がれている。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場したあの編集部。
打ち合わせを終えた若い女性編集者がほっと一息ついている。
新人作家が描いた渾身のネーム。その中に彼女は、確かに未来の大ヒットの予感を感じていた。
彼女は知らない。
今自分が当たり前のように行っているその仕事が、かつて週刊誌という熱狂の戦場で、名もなき男たちが手探りで発明した偉大な文化だということを。
歴史は古い資料の中だけにあるのではない。
作家と編集者が一つの机を挟んで向き合うこの創造の最前線に、確かに息づいているのだ。
彼女のスマートフォンが震える。
担当作家からのメッセージだった。
「先ほどはありがとうございました。いただいた意見を元に、ネーム、もう少し直してみます!」
その短いメッセージに、彼女はきゅっと唇を結んだ。
伴走者はここにいる。
まだ誰も見たことのない最高の物語を読者に届けるために。
彼女の新しい戦いが、今始まった。
(第八章:ペン先に伴走せよ ~漫画編集者という仕事を発明した男たち~ 了)
第八章「ペン先に伴走せよ」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
日本の漫画編集者のこの特殊な仕事ぶりは、海外では「MANGA Editor」として一つのブランドのようにもなっているそうです。彼らの存在が日本の漫画の強さの秘密であることに、世界が気づき始めたのかもしれません。
さて、物語を創り出す人間たちの熱い物語が続きました。
次なる物語は、その物語を読者の元へ届けるための、もう一つの重要な技術の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第九章:インクと魂の化学反応 ~漫画印刷、職人たちの0.1ミリの戦い~**
漫画家の繊細なペンタッチを週刊誌のザラザラな紙の上に、いかにして再現するのか。
その知られざる印刷技術の驚くべき世界に光を当てます。
引き続き、この壮大な漫画創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると第九章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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