漫画編集者という仕事を発明した男たち 第4話:時には悪魔に
作者のかつをです。
第八章の第4話をお届けします。
光があれば影がある。
今回は、漫画編集者という仕事が持つ非情で過酷な、もう一つの側面に光を当てました。
彼らの知られざる心の葛藤を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
編集者は、漫画家の最高の理解者であり、伴走者だった。
しかし彼らには、もう一つの冷徹な顔が求められた。
時には、作家にとっての「悪魔」にさえならなければならなかったのだ。
その悪魔の仮面が最も顕著に現れるのが、「締め切り」という審判の日だった。
「先生、締め切りは明日の朝です。何としてでも間に合わせてください」
どんなに作家がアイデアに詰まり、苦しんでいようと。
どんなに体調を崩し、ペンを握る力さえなかろうと。
週刊誌は待ってはくれない。
雑誌に穴を開けることだけは、絶対に許されないのだ。
編集者は、心を鬼にした。
作家の仕事場に泊まり込み、背後から無言のプレッシャーをかけ続ける。
「先生、あと5ページです」
「先生、眠っている場合ではありません」
それは友情とは全く別の、非情なプロフェッショナルの仕事だった。
そしてもう一つの悪魔の顔。
それは「打ち切り」の宣告だった。
読者アンケートという、絶対的な神の託宣。
その無慈悲な結果を、作家に直接伝えなければならない。
「先生……。残念ですがこの連載は、今月で終了となります」
昨日まで共に二人三脚で夢を語り合ってきたパートナー。
そのパートナーの人生を左右する死刑宣告。
作家の絶望に満ちた顔。
震える声。
時には、怒号を浴びせられ、灰皿を投げつけられることもあった。
編集者の心もまた、血を流していた。
自分の力不足で、先生の才能を開花させてあげられなかった。
その悔しさと申し訳なさで、胸が張り裂けそうになる。
しかし彼らは、涙を見せるわけにはいかなかった。
これもまた雑誌の、そして読者の未来を守るための、非情なしかし必要な仕事なのだ。
伴走者であり、悪魔でもある。
この矛盾した二つの顔を使い分ける精神的なタフネス。
それこそが、週刊誌の編集者に求められる最も重要な資質だったのかもしれない。
彼らは作家と共に、天国と地獄を見た。
そのあまりにも濃密な人間関係が、やがて漫画の歴史に残る数々の伝説的な「名コンビ」を生み出していくことになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
漫画『バクマン。』でも、編集者と漫画家のこのスリリングな関係性が非常にリアルに描かれていましたね。あの作品で漫画編集者という仕事に憧れた人も多いのではないでしょうか。
さて、光と影、二つの顔を持つ編集者。
彼らと漫画家との間に生まれた濃密な絆は、数々の伝説を生み出します。
次回、「二人三脚の物語」。
実在の名コンビたちのエピソードに迫ります。
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