漫画編集者という仕事を発明した男たち 第2話:才能を見出す眼
作者のかつをです。
第八章の第2話をお届けします。
編集者の最も重要な仕事の一つ、「才能の発掘」。
今回はまだ見ぬスターを求めて全国を駆け回った、若き編集者たちの情熱とその驚くべき慧眼に光を当てました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
週刊誌という新しい戦場が生まれたことで、漫画界は深刻な「作家不足」に陥っていた。
月刊誌時代の、何倍もの連載作品が必要になったのだ。
すでに名の売れた人気作家は、各社で争奪戦。
ならば、どうするか。
答えは、一つしかなかった。
「まだ世に出ていない新しい才能を、自分たちの手で見つけ出すしかない」
マガジンとサンデーの若き編集者たちは、さながらダイヤの原石を探すスカウトマンとなった。
彼らの才能探しの旅は、常識外れのものだった。
まだインターネットなどない時代、彼らが頼りにしたのは読者からの投稿ページだった。
毎月、何百、何千と送られてくる素人たちの拙い漫画。
その膨大な原稿の山の中から、彼らはキラリと光る才能の欠片を見つけ出そうとした。
「この子は絵はまだ下手だ。だが、コマの運び方に非凡なセンスを感じる」
「このキャラクターの目の表情……。読者の心を掴む何かを持っているぞ」
彼らは、完成された絵の上手さだけを見てはいなかった。
その荒削りなペンのタッチの奥に眠る、未来の「可能性」を見抜こうとしていたのだ。
才能の原石を見つけると、彼らはすぐに行動を開始した。
手紙を書き、電話をかけ、時には地図だけを頼りに地方の名もなき町まで足を運んだ。
ある編集者は、一人の無名な貸本漫画家の、異様なまでの背景の描き込みに才能を感じた。
彼はその作家が住む大阪のアパートまで、夜行列車に飛び乗った。
その男こそ、後の劇画の巨人、さいとう・たかをだった。
またある編集者は、少女漫画誌の片隅に載っていたファンシーなイラストの、独特のセンスに目を付けた。
彼はその少女に手紙を書き、少年漫画を描いてみないかと誘った。
その少女こそ、後の『まことちゃん』で一世を風靡するギャグの天才、楳図かずおだった。
彼ら若き編集者たちは、もはやただのサラリーマンではなかった。
自らの「眼」だけを信じ、未来のスターに会社の、そして自分の人生を賭ける熱きギャンブラーだった。
彼らがダイヤの原石を見つけ出すことができなければ、週刊誌のページには穴が開く。
雑誌の、そして会社の命運は、彼らのその類稀なる「眼力」にかかっていた。
こうしてまだ何者でもない未来の巨匠たちと、彼らの才能に人生を賭けた若き編集者たち。
運命の出会いが、日本中の片隅で次々と生まれていった。
それはまだ誰も気づいていない、新しい伝説の始まりの予感だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
さいとう・たかをを貸本の世界からメジャーな雑誌へと引き抜いたのは、『少年マガジン』の編集者でした。この出会いがなければ、『ゴルゴ13』も生まれなかったかもしれません。まさに、歴史的なスカウトでした。
さて、ついに運命の才能と出会った編集者たち。
しかし、彼らの本当の仕事はここからでした。
次回、「最初の読者」。
編集者は、いかにして作家の最高のパートナーへと変わっていったのでしょうか。
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