少年マガジンとサンデー、奇跡の同時創刊 第8話:雑誌が売れるということ(終)
作者のかつをです。
第六章の最終話です。
二つの雑誌の創刊という一つの事件がいかにして日本の文化そのものを形作り、現代の私たちの日常の風景へと繋がっているのか。
壮大な歴史の繋がりを感じていただけたら嬉しいです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
マガジンとサンデーが切り拓いた、「週刊」という名の新しい戦場。
その戦いはその後何十年にもわたって、日本の出版界を熱く熱く燃え上がらせた。
やがてその戦場に、『週刊少年ジャンプ』という恐るべき第三の勢力が登場する。
三誌は互いに部数を競い合い才能を奪い合い、そして日本の漫画文化を前例のない巨大な怪物へと育て上げていった。
最盛期には一冊の週刊少年誌が、一週間に600万部以上も売れる時代がやってきた。
日本の子供から大人まで誰もが漫画を読んでいた幸福な時代。
そのすべての始まりはあの運命の日にあった。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場したあのコンビニ。
少年が友達との会話を中断し慌てて水曜日に発売された週刊少年誌を手に取る。
もし買い忘れたら明日にはクラスの話題に乗り遅れてしまうからだ。
彼は知らない。
今自分が当たり前のように感じているその毎週の「ワクワク」が。
かつて「月刊」というのどかな常識に敢然と戦いを挑んだ名もなき編集者たちの、無謀な賭けの賜物だということを。
漫画家たちが命を削りながら毎週毎週白い原稿用紙の上で戦い続けた、その血と汗の結晶だということを。
歴史は遠い昔の資料室の中だけにあるのではない。
私たちのすぐそばのこのコンビニの雑誌コーナーの一番前の列に、確かに並んでいるのだ。
少年はレジへと向かう。
その三百円ほどの硬貨。
それが次の新しい才能を育み未来の新しい熱狂を生み出すためのささやかな、しかし確かな一票であることを彼はまだ知らない。
彼の胸の中で来週の展開への期待が大きく膨らんでいく。
編集者たちが命を賭けて創り出した終わりなき戦いの物語は、確かに次の世代へと受け継がれていた。
(第六章:「週刊」という名の戦場 ~少年マガジンとサンデー、奇跡の同時創刊~ 了)
第六章「「週刊」という名の戦場」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
今、紙の雑誌は厳しい時代を迎えています。しかしそこで培われた「毎週読者を楽しませる」という熱い編集魂は形を変え、Web漫画や漫画アプリの世界に確かに受け継がれています。戦いの舞台は変われども物語は続いていくのです。
さて、漫画を「産業」へと押し上げた男たちの物語でした。
次なる物語は雑誌で読んだら終わりだった漫画を「所有する喜び」へと変えたもう一つの重要な発明の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第七章:背表紙にかけた夢 ~日本初の漫画単行本「虫コミックス」の挑戦~**
雑誌とは違う自分だけの宝物。
あの「単行本」はいかにして生まれたのか。
その誕生の裏にはまたしてもあの神様、手塚治虫の苦悩と挑戦がありました。
引き続き、この壮大な漫画創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると第七章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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