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漫画創世記~ペン先は世界を描いた~  作者: かつを
第2部:産業の夜明け編 ~雑誌とインクの熱狂~
35/70

少年マガジンとサンデー、奇跡の同時創刊 第2話:講談社と小学館

作者のかつをです。

第六章の第2話をお届けします。

 

同じ目標に向かいながらも、全くアプローチの違う二つの組織。

今回は、ライバル同士の水面下での熾烈な綱引きと、戦略の違いを描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

講談社と小学館。

二つの編集部は、奇しくも同じビルの中に間借りしていた。

廊下を挟んで向かい合わせ。互いの部屋の喧騒さえ聞こえるほどの距離だった。

 

しかし、その間に流れる空気はピリピリと張り詰めていた。

互いが同じ「週刊誌」という秘密兵器を開発していることを、薄々感づいていたからだ。

編集者たちは廊下ですれ違うたびに、探るような視線を交わし牽制し合った。

「あいつら、どこまで進んでいるんだ……?」

 

両社の戦略は、対照的だった。

 

「漫画の講談社」として業界に君臨してきた王者、講談社。

彼らの戦略は、まさに王者の風格に満ちていた。

「最高の作家陣を集め、最高の漫画雑誌を作る。質で他を圧倒するのだ」

編集部は、当時すでに大家となっていた人気漫画家たちの元へ日参した。

最高の原稿料を提示し、口説き落としていく。

 

一方、学習雑誌を主力とし、漫画では後発だった小学館。

彼らの戦略は、挑戦者らしく大胆で野心的だった。

「漫画だけじゃない。写真、図解、読み物記事。あらゆるコンテンツを詰め込み、子供たちの知的好奇心を刺激する総合誌を作るんだ」

彼らは、まだ無名の若き才能の発掘に力を注いだ。トキワ荘の若者たちもそのターゲットだった。

 

情報戦は、熾烈を極めた。

 

ある日、小学館の編集者がトキワ荘を訪れると、そこに講談社の編集者の姿があった。

互いに、一瞬気まずい空気が流れる。

「……どうも」

「……ああ」

短い挨拶を交わし、彼らは同じ漫画家に別々の部屋で、新雑誌への連載を熱心に口説いていた。

 

漫画家たちは、嬉しい悲鳴を上げていた。

二つの巨大な黒船が、自分たちという港に同時に来航したのだ。

どちらの船に乗るべきか。それは自らの漫画家人生を左右する、大きな決断だった。

 

そして何よりも、両編集部が喉から手が出るほど欲しがっていた才能がいた。

王者『少年』の絶対的なエース、手塚治虫である。

 

「手塚先生をこちらに引き込めれば、この戦争は勝てる」

両社の編集長は、同じことを考えていた。

 

手塚治虫という神様の争奪戦。

それがこの戦争の、最初にして最大の天王山となった。

二つの出版社の、プライドと未来を賭けた総力戦が始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

講談社の雑誌名は早い段階で『週刊少年マガジン』に決まっていました。一方、小学館は当初『週刊少年太郎』という仮題だったそうですが、最終的に『週刊少年サンデー』に落ち着きました。「サンデー(日曜日)のように、楽しい毎日を」という願いが込められています。

 

さて、両社がその獲得に全力を挙げた手塚治虫。

神様は最終的に、どちらの船に乗ることを選んだのでしょうか。

 

次回、「月刊誌の王者『少年』」。

絶対王者の苦悩と決断に迫ります。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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