少年マガジンとサンデー、奇跡の同時創刊 第2話:講談社と小学館
作者のかつをです。
第六章の第2話をお届けします。
同じ目標に向かいながらも、全くアプローチの違う二つの組織。
今回は、ライバル同士の水面下での熾烈な綱引きと、戦略の違いを描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
講談社と小学館。
二つの編集部は、奇しくも同じビルの中に間借りしていた。
廊下を挟んで向かい合わせ。互いの部屋の喧騒さえ聞こえるほどの距離だった。
しかし、その間に流れる空気はピリピリと張り詰めていた。
互いが同じ「週刊誌」という秘密兵器を開発していることを、薄々感づいていたからだ。
編集者たちは廊下ですれ違うたびに、探るような視線を交わし牽制し合った。
「あいつら、どこまで進んでいるんだ……?」
両社の戦略は、対照的だった。
「漫画の講談社」として業界に君臨してきた王者、講談社。
彼らの戦略は、まさに王者の風格に満ちていた。
「最高の作家陣を集め、最高の漫画雑誌を作る。質で他を圧倒するのだ」
編集部は、当時すでに大家となっていた人気漫画家たちの元へ日参した。
最高の原稿料を提示し、口説き落としていく。
一方、学習雑誌を主力とし、漫画では後発だった小学館。
彼らの戦略は、挑戦者らしく大胆で野心的だった。
「漫画だけじゃない。写真、図解、読み物記事。あらゆるコンテンツを詰め込み、子供たちの知的好奇心を刺激する総合誌を作るんだ」
彼らは、まだ無名の若き才能の発掘に力を注いだ。トキワ荘の若者たちもそのターゲットだった。
情報戦は、熾烈を極めた。
ある日、小学館の編集者がトキワ荘を訪れると、そこに講談社の編集者の姿があった。
互いに、一瞬気まずい空気が流れる。
「……どうも」
「……ああ」
短い挨拶を交わし、彼らは同じ漫画家に別々の部屋で、新雑誌への連載を熱心に口説いていた。
漫画家たちは、嬉しい悲鳴を上げていた。
二つの巨大な黒船が、自分たちという港に同時に来航したのだ。
どちらの船に乗るべきか。それは自らの漫画家人生を左右する、大きな決断だった。
そして何よりも、両編集部が喉から手が出るほど欲しがっていた才能がいた。
王者『少年』の絶対的なエース、手塚治虫である。
「手塚先生をこちらに引き込めれば、この戦争は勝てる」
両社の編集長は、同じことを考えていた。
手塚治虫という神様の争奪戦。
それがこの戦争の、最初にして最大の天王山となった。
二つの出版社の、プライドと未来を賭けた総力戦が始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
講談社の雑誌名は早い段階で『週刊少年マガジン』に決まっていました。一方、小学館は当初『週刊少年太郎』という仮題だったそうですが、最終的に『週刊少年サンデー』に落ち着きました。「サンデー(日曜日)のように、楽しい毎日を」という願いが込められています。
さて、両社がその獲得に全力を挙げた手塚治虫。
神様は最終的に、どちらの船に乗ることを選んだのでしょうか。
次回、「月刊誌の王者『少年』」。
絶対王者の苦悩と決断に迫ります。
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