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漫画創世記~ペン先は世界を描いた~  作者: かつを
第1部:表現の創世編 ~ペン先から生まれた宇宙~
3/62

手塚治虫と映画的表現の革命 第3話:コマという名のフレーム

作者のかつをです。

第一章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。

 

コマの形を自由に変える。今では当たり前のこの表現も、手塚治虫が発明した偉大なテクニックの一つです。

彼の頭の中では常に映画のスクリーンがイメージされていたのかもしれませんね。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

「時間の流れ」を生み出すことに成功した手塚治虫。

しかし彼の探求は、さらにその先へと向かっていた。

 

彼は漫画のページを構成する最も基本的な要素――「コマ」そのものに疑問の目を向けたのだ。

 

当時の漫画のコマは、ほとんどが同じ大きさの行儀の良い四角形だった。

それは物語を区切るための、単なる「枠線」でしかなかった。

 

しかし手塚は映画館の暗闇の中で気づいていた。

映画監督はカメラの「フレーム」を巧みに操ることで、観客の感情を揺さぶっていると。

 

ならば漫画のコマもまた単なる枠線であってはならない。

それは読者の視線を導き、感情を演出するための能動的な「フレーム」であるべきだ。

 

その日から彼の原稿用紙の上で、コマはまるで生き物のように自由自在にその姿を変え始めた。

 

主人公が衝撃的な事実を知るシーン。

彼はそのキャラクターの顔を、ページ全体を覆い尽くすほどの巨大なコマで描いた。

読者は否応なくその驚愕の表情に釘付けになる。

 

キャラクターが過去を回想する感傷的なシーン。

彼はコマの角を丸くし、まるで古い写真のように描き出した。

 

そして激しいアクションシーン。

彼はコマの形を鋭い三角形や不安定なひし形に歪ませた。

まっすぐな線が一つもないそのページは、見るだけでスピード感と混乱が伝わってくる。

 

極めつけは「見開き」の大ゴマだ。

左右のページを一つの巨大なキャンバスとして使い、壮大な風景やクライマックスの対決シーンを圧倒的な迫力で描き出す。

 

それはもはや革命だった。

 

コマはもはや物語の容れ物ではない。

コマそのものが物語を語り始めたのだ。

 

この変幻自在のコマ割りは、当時の編集者たちをさらに困惑させた。

「おいおい、これじゃあどこから読めばいいのか分からんぞ!」

 

しかし子供たちの反応は違った。

彼らは理屈ではなく感覚で、その新しい漫画の文法を理解した。

コマの形や大きさが自分たちの心のドキドキと、完璧にシンクロすることを知っていたのだ。

 

手塚のペン先から生み出される新しい漫画の宇宙に、読者は抗いがたい力で引き込まれていった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

手塚は後年、「漫画はコマとコマの『間』を読ませる芸術だ」という言葉を残しています。読者の想像力をかき立てるその見えない部分にこそ、漫画の面白さがあると考えていたのです。

 

さて、時間とコマの形を手に入れた手塚。

彼の映画的表現はさらに深まっていきます。

 

次回、「ズームイン、クローズアップ」。

ついに彼のペン先はキャラクターの「心の中」にまで迫っていきます。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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