少女漫画という名の発明 第2話:男には描けない感情
作者のかつをです。
第四章の第2話をお届けします。
「自分たちが本当に読みたい物語を描きたい」。
そのシンプルで切実な思いがすべての革命の始まりでした。
今回は女性漫画家たちが抱いた静かなる問題提起を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
1960年代。
日本の漫画界に新しい風が吹き始めていた。
それまで男性の聖域だった漫画家の世界に、女性たちが次々と進出し始めたのだ。
わたなべまさこ、水野英子、牧美也子……
彼女たちは少女漫画誌を新たな表現の舞台として選び取った。
彼女たちは手塚治虫の偉大さを誰よりも理解していた。
しかし同時に男性作家が描く「少女」の姿に、ある種のもどかしさを感じていた。
「なぜ女の子はいつも元気で明るいだけなのかしら」
「もっと泣いたり悩んだり嫉妬したり。そういうドロドロした部分もあるはずなのに」
彼女たちが描きたかったのは冒険活劇のヒロインではなかった。
読者である等身大の少女たちが本当に「共感」できるリアルな感情の物語だった。
憧れの先輩にうまく話しかけられない内気な自分。
親友が自分より先に素敵な恋人を見つけた時の、嬉しいけれど少しだけ寂しい気持ち。
何気ない一言に胸がきゅうっと締め付けられるような切なさ。
それは男性作家には決して描けない少女たちだけの聖域だった。
彼女たちはペンを握りしめ、そのまだ誰も描いたことのない繊細な感情の機微を紙の上に描き出そうと試みた。
物語のテーマはもはや悪との戦いではない。
それは「恋」という名の甘くそして苦しい心の中の戦いだった。
しかしすぐに大きな壁にぶつかった。
手塚治虫が作り上げた映画的な漫画の文法。
それはアクションやストーリーの展開をダイナミックに見せることには非常に優れていた。
だが少女たちの目に見えない心の動きを表現するにはあまりにも不十分だったのだ。
どうすればこの言葉にならない「胸のときめき」を読者に伝えられるのか。
どうすればこの張り裂けそうな「切なさ」を絵にすることができるのか。
彼女たちは新しい「言葉」を必要としていた。
少女たちの感情を描き出すための少女たちだけのまったく新しい漫画の文法を。
その探求はまずキャラクターの最も雄弁なパーツである「瞳」から始まった。
それは少女漫画という美しい言語が産声を上げる小さなしかし確かな一歩だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
水野英子はトキワ荘に出入りしていた数少ない女性漫画家の一人であり、「トキワ荘の紅一点」と呼ばれていました。彼女の存在もまた男性中心だった漫画界に大きな影響を与えました。
さて、新しい表現を模索し始めた女性漫画家たち。
彼女たちはキャラクターの「瞳」にとんでもない魔法をかけることになります。
次回、「瞳の中の星空」。
あのキラキラの瞳がついに発明されます。
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