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漫画創世記~ペン先は世界を描いた~  作者: かつを
第1部:表現の創世編 ~ペン先から生まれた宇宙~
2/12

神様と呼ばれた男 第2話:止まった時間を動かす魔法

作者のかつをです。

第二章の第2話をお届けします。

 

漫画における「時間」の概念は、手塚治虫の、この発明から始まったと言っても過言ではありません。

しかし、どんな革命も、最初は、周囲からの無理解や抵抗に遭うものです。

今回は、若き天才の、孤独な戦いの始まりを描きました。


※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

手塚治虫は、来る日も来る日も、自問自答を繰り返していた。

映画にあって、漫画にないもの。それは、一体何だ?

 

答えは、シンプルだった。

「時間」だ。

 

映画は、フィルムが回ることで、強制的に、観客に時間の流れを体感させる。

しかし、漫画のページは、止まっている。読者は、自分のペースで、好きなように、コマからコマへと視線を動かす。

 

この、静止した紙の上に、どうすれば、「時間の流れ」を、生み出せるのか。

 

彼は、一つの実験を始めた。

自分の描く漫画の主人公が、パンチを繰り出すシーン。

従来の漫画なら、それは、たった一つのコマで描かれていただろう。拳を振りかぶるポーズ、あるいは、相手にヒットした瞬間の絵。そのどちらかだ。

 

しかし、手塚は、違った。

 

彼は、その一連のアクションを、あえて、複数のコマに、分解して描いてみたのだ。

 

一コマ目。主人公が、ぐっと拳を握りしめる。

二コマ目。腰をひねり、腕を、大きく後ろに振りかぶる。

三コマ目。拳が、唸りを上げて、前方へと突き出される。

四コマ目。相手の頬に、めり込む拳。

 

たった一秒にも満たない、その瞬間。

それを、彼は、贅沢に、4つのコマを使って描いた。

 

ページをめくる読者の視線が、コマを一つ、また一つと追うごとに、まるでパラパラ漫画のように、そのアクションが、頭の中で再生される。

静止していたはずの絵が、動き出す。

止まっていたはずのページに、確かに、「時間」が流れ始めたのだ。

 

「これだ……!」

 

それは、彼が見つけた、最初の、そして最も偉大な、魔法だった。

 

しかし、その魔法は、すぐには、誰にも理解されなかった。

彼が、その手法で描いた原稿を、編集部に持ち込むと、ベテランの編集者は、顔をしかめて言った。

 

「手塚くん、君の漫画は、話がなかなか進まんなあ」

「こんなにコマを無駄遣いして。もっと、一枚の絵で、びしっと見せなさいよ」

 

当時の常識では、漫画のコマ数は、限られたページの中に、物語を詰め込むための、貴重な資源だった。

それを、たった一瞬のアクションのために、何コマも使うなど、言語道断だったのだ。

 

しかし、手塚は、自らの魔法を、信じて疑わなかった。

これは、無駄遣いではない。

これは、物語に、命を吹き込むための、必要不可欠な、演出なのだ、と。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

一枚の絵で物語を説明する、従来の漫画のスタイルは、もともと、落語などの話芸を絵にした「絵物語」の文化から来ていました。手塚は、そこに、まったく異なる文化である「映画」を持ち込もうとしたのです。まさに、異文化の衝突でした。

 

さて、コマを分割することで「時間」を生み出した手塚。

彼の革命は、まだ始まったばかりでした。

 

次回、「コマという名のフレーム」。

彼は、今度は、コマの「形」そのものに、メスを入れます。

 

ブックマークや評価、お待ちしております!

ーーーーーーーーーーーーーー

この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


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