韓国から来た黒船、Webtoonの襲来 第5話:フルカラー、週刊連載
作者のかつをです。
第十九章の第5話をお届けします。
個人制作の限界を超えるためのスタジオシステム。
それは日本の漫画が大切にしてきた「作家性」とは相容れない部分もありますが、圧倒的な生産力を誇ります。
ものづくりの哲学の違いと、産業としての進化の形を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
Webtoonの最大の特徴の一つは、「フルカラー」で「週刊連載」であることだ。
日本の漫画家にとって、これは悪夢のような条件だった。
モノクロでさえ週刊連載は過酷を極める。
それを毎週フルカラーで描くなど、一人の作家の手でできるわけがない。
しかし、韓国のWebtoonスタジオはそれを平然とやってのけていた。
その秘密は、徹底的な「分業制」にあった。
原作(脚本)、ネーム(構成)、線画、着色、背景、仕上げ。
それぞれの工程を、別のクリエイターが担当する。
数十人のスタッフが一つの作品のためにチームを組み、工場のように原稿を生産していく。
それは、さいとう・たかをが劇画で目指したプロダクションシステムの、デジタル時代における究極の進化形だった。
さらに彼らは、3Dモデルを駆使して背景を自動生成したり、着色をAIで補助したりと、最新のテクノロジーを貪欲に取り入れていた。
「作家性」よりも「生産性」と「クオリティの安定」を重視するシステム。
日本の編集者たちは唸った。
「これは、漫画というよりアニメの作り方に近い」
日本の漫画は、手塚治虫以来、一人の天才的な作家の個性(作家性)を何よりも尊重してきた。
絵も話も一人の人間が生み出すからこそ、そこに魂が宿ると信じてきた。
しかし、Webtoonのスタジオシステムは、その「個」の限界を「組織」の力で突破していた。
ヒット作の分析、トレンドの反映、読者の反応に合わせたストーリーの修正。
すべてがデータに基づいて管理され、最適化されていく。
それは、日本の職人気質の漫画作りとは対極にある、工業製品としての漫画作りだった。
日本の漫画界は、二つの道の岐路に立たされた。
作家の個性を極める、伝統的な横読みの道を守るか。
それとも、世界の潮流に合わせて、分業制による縦読みの道へ踏み出すか。
「日本には日本のやり方がある」
「いや、このままでは世界市場から取り残される」
議論は尽きなかった。
しかし、一つだけ確かなことがあった。
スマートフォンというデバイスが世界を覆い尽くしている以上、縦に読むというスタイルは決して一過性のブームでは終わらないということだ。
黒船は、もはや港に停泊しているだけではなかった。
すでに上陸し、日本の漫画文化の中に深く根を張り始めていたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
最近では日本でもWebtoon専門のスタジオが次々と設立され、分業制による制作が始まっています。ジャンプやマガジンといった大手出版社も、縦スクロール漫画への参入を表明しています。
さて、Webtoonの衝撃を受けた日本の漫画界。
これからどこへ向かうのでしょうか。
次回、「黒船か、未来か(終)」。
第十九章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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