韓国から来た黒船、Webtoonの襲来 第2話:ページをめくらない漫画
作者のかつをです。
第十九章の第2話をお届けします。
新しい表現が出てきた時、既存の価値観を持つ人々は得てしてそれを否定しがちです。
「映画的」と言われた手塚治虫の漫画がかつて批判されたように、Webtoonもまた「漫画ではない」という批判の洗礼を受けました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
Webtoonの最大の特徴は、「縦スクロール」と「フルカラー」にある。
従来の漫画が「視線を右上から左下へ」と複雑に動かすのに対し、Webtoonはただひたすらに「上から下へ」と流れていく。
この単純な動作は、パソコンのマウスホイールや、スマートフォンのスワイプ操作と完璧にシンクロしていた。
韓国のクリエイターたちは、この縦長のキャンバスを活かした独自の演出を発明していった。
例えば、主人公が高いビルから落下するシーン。
紙の漫画なら縦長のコマを使って表現するところだが、Webtoonではスクロールしてもスクロールしても地面にたどり着かない、という「時間」と「距離」の表現が可能になった。
あるいは、ホラー漫画。
スクロールしていくと突然、画面いっぱいに幽霊の顔が現れる。
読者の指の動きと連動したその恐怖体験は、紙のページをめくるのとは全く違う生理的なショックを与えた。
そして、デジタルデバイスのバックライトで光る鮮やかなフルカラー。
それは、モノクロの線画に慣れ親しんだ目には、あまりにも刺激的でリッチな体験だった。
2010年代に入り、スマートフォンが普及し始めると、このWebtoonの形式は爆発的な親和性を見せ始めた。
しかし、この新しい波が日本に紹介され始めた当初、日本の漫画ファンや業界人の反応は冷ややかなものだった。
「こんなの、漫画じゃない」
「コマ割りの美学がない。間延びして読みにくい」
「色が派手すぎて目が疲れる」
手塚治虫以来、半世紀以上にわたって磨き上げられてきた「日本式漫画」の完成度はあまりにも高かった。
複雑なコマ割り、繊細なペンタッチ、スクリーントーンによる白と黒の芸術。
その洗練された文法に比べれば、初期のWebtoonは稚拙で単調なものに見えたのだ。
「スマホで漫画を読むにしても、日本の漫画をそのまま表示すればいい」
「わざわざ縦にする必要なんてない」
日本の電子書籍サイトは、紙の漫画をそのまま画像化したビューワーの開発に注力していた。
見開き表示に対応し、拡大縮小がスムーズにできることこそが技術の進歩だと信じていた。
それが「ガラパゴスの驕り」であることに気づく者は、まだ少なかった。
しかし、海を越えてやってきたIT企業の開拓者たちは、日本人が見落としていた「スマホ時代の読書」の本質を、冷徹に見抜いていたのだ。
「日本人は、満員電車の中で両手を使ってページをめくるのか?」
「隙間時間の5分で、複雑な伏線を読み解くのか?」
彼らの問いかけは、やがて日本の漫画市場に巨大な風穴を開けることになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
初期のWebtoon作品の中には、スクロールに合わせてBGMが流れたり、スマートフォンが振動したりするギミックを搭載したものもありました。まさに「読む」というより「体験する」コンテンツだったのです。
さて、日本市場に参入を試みる韓国系IT企業。
彼らが目をつけたのは、漫画そのものではなく、それを読む「環境」の変化でした。
次回、「スマホファースト」。
スマートフォンの普及がもたらした、可処分時間の奪い合いを描きます。
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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