韓国から来た黒船、Webtoonの襲来 第1話:ガラパゴスの王様
はじめまして、作者のかつをです。
本日より、第十九章「縦に読むという衝撃 ~韓国から来た黒船、Webtoonの襲来~」の連載を開始します。
今回の主役は、スマートフォンに最適化された新しい漫画フォーマット「Webtoon」。
日本の漫画界が当初軽視していたこの技術が、いかにして世界を席巻し、日本に上陸したのか。その衝撃の歴史を紐解きます。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
通勤電車の車内。つり革につかまる人々の多くが、片手に持ったスマートフォンを見つめている。
親指一本で画面を縦にスクロールさせながら、彼らは漫画を読んでいる。
ページをめくるのではなく、巻物のように下へ下へと流れていくフルカラーの物語。
「Webtoon」。
今や世界的な標準となりつつあるこの新しい漫画フォーマットが、かつて「漫画大国」を自負する日本において、どれほどの衝撃とアレルギー反応を持って迎えられたかを知る者は少なくなってきた。
これは、スマートフォンという新しいデバイスがもたらした「読み方」の革命と、海を越えてやってきた黒船に挑んだ開拓者たちの物語である。
物語は2010年代初頭に遡る。
当時の日本は、依然として紙の漫画雑誌と単行本が市場の覇者だった。
『ONE PIECE』や『NARUTO』が世界中で愛され、日本の漫画文化は絶頂期にあるように見えた。
電子書籍も普及し始めてはいたが、それはあくまで「紙の漫画をデジタル画像にしただけ」のものだった。
見開きで読むことを前提に描かれた緻密なコマ割りを、小さな携帯電話の画面で拡大縮小しながら読む。
それは決して快適な体験とは言えなかったが、作り手も読者も「漫画とはそういうものだ」と疑わなかった。
日本は、漫画というガラパゴス諸島の、絶対的な王様だったのだ。
しかし、その王国の外側で、静かに、しかし爆発的な進化を遂げている未知の生物がいた。
お隣の国、韓国である。
韓国では、1990年代後半の通貨危機とその後の急速なITインフラの整備によって、紙の漫画市場が壊滅的な打撃を受けていた。
貸本屋は姿を消し、雑誌は廃刊に追い込まれた。
漫画家たちは発表の場を失い、インターネットの海へと漕ぎ出さざるを得なかった。
「紙がないなら、ウェブで描けばいい」
彼らはパソコンのモニターで読むことに特化した、新しい表現を模索し始めた。
ページという制約を取り払い、縦に無限に続くキャンバス。
そこに描かれるのは、従来の漫画の文法を無視した、自由で実験的な物語だった。
NAVERやDaumといったIT企業が、この新しい「ウェブ漫画(Webtoon)」に注目し、プラットフォームを提供し始めた。
それは、紙の伝統を持たないがゆえに生まれた、突然変異の進化だった。
日本の漫画界が「見開き2ページの美学」を追求している間に、対岸の国では「縦スクロールの快感」という、全く異なる武器が磨ぎ澄まされようとしていた。
黒船の影は、まだ水平線の彼方にかすかに見えるだけだった。
しかし、その船には日本の漫画界を根底から揺るがす、強力な大砲が積まれていたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十九章、第一話いかがでしたでしょうか。
技術的な制約や市場の崩壊といったネガティブな要因が、逆に新しいイノベーションを生む土壌となる。韓国でのWebtoonの誕生は、まさにその典型例でした。
さて、韓国で生まれたこの新しい表現。
それは一体どのような特徴を持っていたのでしょうか。
次回、「ページをめくらない漫画」。
縦スクロールならではの演出と、日本での初期の冷ややかな反応を描きます。
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