表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漫画創世記~ペン先は世界を描いた~  作者: かつを
第4部:失われたペン先編 ~時代の波とWebの衝撃~
115/131

漫画の「文字」を支えた職人たちの黄昏 第2話:アンチとゴナ

作者のかつをです。

第十八章の第2話をお届けします。

 

漫画特有の「漢字はゴシック、かなは明朝」というルール。

「アンチゴチ」と呼ばれるこの発明が、いかにして漫画の読みやすさを支えていたのかを描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

漫画を読んでいるとき、セリフの書体を意識したことはあるだろうか。

 

よく見てほしい。

一般的な漫画のセリフは、漢字が太い「ゴシック体」、ひらがなやカタカナが筆文字のような「明朝体」で書かれていることが多い。

 

ゴシックはそう(明朝)ゴシックうよ(明朝)」

 

この、異なる二つの書体を混ぜて使う「混植こんしょく」という独特のスタイル。

これこそが、日本の漫画読みやすさを支える最大の発明であり、写植職人たちが築き上げた黄金律だった。

 

これを業界用語で「アンチゴチ」と呼ぶ。

「アンチック体(明朝体の一種)」と「ゴシック体」の組み合わせだ。

 

なぜ、こんな面倒なことをするのか。

 

すべてをゴシック体にすると、画面が黒々として重苦しくなる。

逆にすべてを明朝体にすると、線が細すぎて迫力に欠け、印刷の状態によっては線が飛んでしまう恐れがある。

 

そこで、画数の多い漢字は視認性の高いゴシック体でしっかりと見せ、画数の少ないかな文字は明朝体で柔らかく繋ぐ。

そうすることで、文章にリズムが生まれ、読者の視線は驚くほどスムーズに流れていくのだ。

 

この「アンチゴチ」を美しく打つことこそ、写植オペレーターの腕の見せ所だった。

 

「石井」や「写研」といったメーカーが開発した美しい書体の文字盤。

職人たちは、その中から最適な文字を選び出し、一文字ずつレンズを変えて大きさを調整し、印画紙に焼き付けていく。

 

さらに1970年代、写研から「ゴナ」という新しいゴシック体が登場する。

極太で力強く、それでいてモダンなデザイン。

この「ゴナ」の登場は、劇画や少年漫画の迫力を劇的に高めた。

 

「ドカーン!」「ギャアアア!」

 

叫び声や効果音に使われる極太の文字。

職人たちは、文字を変形させたり、斜体をかけたりして、漫画家の絵が持つ勢いを殺さないよう、文字にも「動き」を与えた。

 

「文字もまた、絵の一部なんだ」

 

あるベテラン職人は言った。

 

フキダシの形に合わせて改行位置を調整し、文字の大きさを変え、読みやすさと美しさを両立させる。

それは、ただの文字入力ではない。

「組版」という名の、ミクロのデザイン作業だった。

 

彼らの指先から生み出される美しい文字の配列は、漫画のストーリーを邪魔することなく、むしろその世界観を深めるための空気のように機能していた。

 

読者が「文字を読んでいる」と意識しないほど自然に読める文字。

それこそが、彼らが目指した職人芸の極致だったのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

写植最大手だった「写研」の書体は、その美しさから多くの漫画家やデザイナーに愛されました。特に「石井明朝」や「ゴナ」は、昭和の漫画文化を象徴する書体と言っても過言ではありません。

 

さて、職人たちの技によって支えられていた写植の世界。

しかし、その平穏な日々に、海を越えて巨大な黒船が接近していました。

 

次回、「Macintoshという黒船」。

デジタル化の波が、職人たちの聖域を脅かし始めます。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

ーーーーーーーーーーーーーー

もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ