『COM』、手塚治虫が若者に託した夢 第1話:ガロへの嫉妬
はじめまして、作者のかつをです。
本日より、第十七章「天才たちの置き土産 ~『COM』、手塚治虫が若者に託した夢~」の連載を開始します。
今回の主役は、伝説の漫画雑誌『COM』。
漫画の神様・手塚治虫が、ライバル誌『ガロ』への対抗心から創刊した、あまりにも早すぎた理想郷の物語です。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
2025年、東京。
都内の古書店で、一人の美大生が古びた雑誌を手に取っている。
表紙には『COM』というアルファベットのロゴ。
ページをめくると、そこには手塚治虫の『火の鳥』が掲載されている。
私たちは手塚治虫を「漫画の神様」として崇めている。
しかし神様にも、人間くさい嫉妬や焦りがあったことを知る者は少ない。
これは、神様が自らの王座を脅かす新しい才能たちに対抗するために創った、夢の城の物語である。
物語は1960年代半ば。
漫画界に一つの衝撃が走っていた。
白土三平を擁する『ガロ』の登場である。
商業主義を度外視し、リアリズムと前衛的な表現を追求するその雑誌は、大学生や知識層の間で熱狂的に支持されていた。
「漫画は子供のもの」という常識を覆し、大人が読むべき芸術として評価され始めていたのだ。
その状況を、誰よりも複雑な思いで見つめていたのが手塚治虫だった。
彼は焦っていた。
自らが切り拓いたストーリー漫画の世界。
しかし今や批評家たちが称賛するのは、自分の作品ではなく『ガロ』に掲載される劇画や、つげ義春のようなシュールな作品ばかり。
「僕の漫画はもう古いのか?」
「僕だって、あんな芸術的な漫画は描けるんだ」
彼の負けず嫌いな性格は、この状況を許さなかった。
彼は常にトップランナーでなければ気が済まなかったのだ。
「『ガロ』が劇画の拠点なら、僕は新しい漫画の拠点を創る」
「商業誌では描けない、もっと実験的で、もっと自由で、そして『ガロ』よりも面白い雑誌を」
手塚は虫プロダクションの関連会社として、虫プロ商事を発足させる。
目的はただ一つ。
打倒『ガロ』。そして、漫画の新しい可能性を切り拓くための、自分自身の城を築くこと。
神様のプライドを賭けた、新しい雑誌の構想が動き出した。
その情熱の炎は、周囲の若者たちをも巻き込み、やがて漫画界全体を揺るがす大きなムーブメントへと発展していくことになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十七章、第一話いかがでしたでしょうか。
手塚治虫の「嫉妬」は、彼の創作の巨大な原動力でした。劇画ブームの時も、彼は階段から落ちるほどのショックを受けながらも、その技法を貪欲に取り入れ、自らの作風を進化させていきました。
さて、打倒『ガロ』を掲げて動き出した手塚。
彼は一体どのような雑誌を作ろうとしたのでしょうか。
次回、「神様の号令」。
新しい雑誌のコンセプトと、そこに込められた願いが明らかになります。
ブックマークや評価で、新章のスタートを応援していただけると嬉しいです!
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▼作者「かつを」の創作の舞台裏
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