商業主義に背を向けた伝説の雑誌 第7話:伝説のインク(終)
作者のかつをです。
第十六章の最終話です。
一つの失われた雑誌の魂が、いかにしてその後の文化全体を豊かにし、現代の私たちの創造の精神へと繋がっているのか。
壮大な歴史の繋がりを感じていただけたら嬉しいです。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
『ガロ』は死んだ。
しかしその魂は、決して死んではいなかった。
長井勝一がその人生のすべてをかけて守り抜こうとしたもの。
「売れる、売れないではない。面白いか、面白くないかだ」
そのあまりにも純粋で狂気じみた編集方針。
その熱い熱い血は形を変え、現代のクリエイターたちの血管の中に確かに流れ続けている。
『ガロ』がなければ生まれなかったであろう異端の才能たち。
彼らがその後の日本の漫画、アニメ、音楽、映画、あらゆるサブカルチャーに与えた影響は計り知れない。
『ガロ』が命がけで守り抜いた表現の自由。
その聖域があったからこそ、日本のポップカルチャーは世界でも類を見ないほど多様で豊かで、そして危険な魅力を持ち得たのだ。
……2025年、東京。
物語の冒頭に登場したあの古書店。
一人の若い漫画家志望の女性が、憧れの眼差しで一冊の古びた『ガロ』を手に取っている。
彼女は知らない。
今自分が当たり前のように目指しているその「自分にしか描けない表現を追求する」という誇り高き生き方。
その遥かなる源流に、かつて原稿料も出ない雑誌で、それでも描きたいという純粋な衝動だけでペンを握りしめた名もなき若者たちがいたということを。
歴史は輝かしい成功者の物語だけではない。
商業的には敗れ去った敗者たちの、その美しき夢の跡地の中にこそ、未来を照らす光は眠っているのだ。
女性はページをめくる。
そこに印刷されたインクの黒。
それはただの黒ではなかった。
商業主義という巨大な奔流に抗い、ただひたすらに表現の純粋さを守り抜こうとした開拓者たちの、血と汗と涙が滲んだあまりにも濃く、そして美しい赤黒いインクだった。
その伝説のインクの匂いを、彼女は深く、深く吸い込んだ。
(第十六章:ガロの赤い花 ~商業主義に背を向けた伝説の雑誌~ 了)
第十六章「ガロの赤い花」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
『ガロ』の休刊後、その精神を受け継ぐ雑誌として『アックス』が創刊され、今も独自の路線を歩み続けています。伝説の火はまだ消えてはいません。
さて、商業主義に背を向けた雑誌の物語でした。
次なる物語はその『ガロ』に強烈な対抗心を燃やした、もう一人の神様の物語です。
次回から、新章が始まります。
**第十七章:天才たちの置き土産 ~『COM』、手塚治虫が若者に託した夢~**
打倒『ガロ』を掲げ、漫画の神様・手塚治虫が自ら創刊した伝説の漫画雑誌『COM』。
そのあまりにも早すぎた理想と夢の跡地の物語です。
引き続き、この壮大な漫画創世記の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第十七章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。
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