商業主義に背を向けた伝説の雑誌 第6話:時代の終わりと内紛
作者のかつをです。
第十六章の第6話をお届けします。
どんな偉大な文化もいつかは終わりを迎えます。
今回は『ガロ』という伝説の雑誌がいかにしてその輝きを失い、最期を迎えたのか。その少し切ない物語を描きました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
絶対的な柱であった白土三平と長井勝一。
その二つの太陽を同時に失いかけた『ガロ』は迷走を始めた。
長井が病に倒れた後、編集部は若いスタッフたちに引き継がれた。
しかし彼らには、長井のような神がかり的な才能の嗅覚はなかった。
そして何よりも、赤字を垂れ流し続けても雑誌を守り抜くという、狂気じみた覚悟がなかった。
新しい編集部は雑誌のテコ入れを図った。
サブカルチャーだけでなく、より大衆受けする音楽やファッションの記事を載せ始めた。
表紙のデザインもポップで洗練されたものへと変わっていった。
それは雑誌を商業的に生き延びさせるための、現実的な、しかし苦渋の選択だった。
しかしその選択は、古くからの『ガロ』の熱心な読者たちの猛烈な反発を招いた。
「これは俺たちの『ガロ』じゃない!」
「商業主義に魂を売ったのか!」
かつてカウンターカルチャーの聖書だった雑誌。
その雑誌が自らカウンターであることをやめてしまった。
読者たちの失望は深かった。
さらに不幸な内紛が追い打ちをかけた。
経営方針を巡って編集部内は分裂。
長井勝一が育てた古参の社員と、新しい経営陣との間で醜い権力闘争が繰り広げられた。
作家たちもまたその争いに巻き込まれていった。
ある者は古参の社員に付き、ある者は新しい経営陣を支持した。
かつて同じ理想の旗の下に集った同志たちが、互いに傷つけ合い憎しみ合う。
その泥沼の内紛劇は、週刊誌のゴシップ記事として世間の好奇の目に晒された。
伝説は地に堕ちた。
1990年代。
『ガロ』は休刊と復刊を繰り返しながら、そのかつての輝きを完全に失っていった。
そして2002年。
ついにその長い長い歴史に、静かに幕を下ろした。
商業主義に背を向けた赤い花。
そのあまりにも美しく、そして誇り高かった花は、時代の流れの中で自らの理想の重さに耐えきれず散っていった。
それは一つの美しい夢の終わりだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
『ガロ』の内紛と休刊を巡る顛末は非常に複雑で、今なお多くの謎に包まれています。それほどまでにこの雑誌が多くの人々に愛され、そして多くの人々の人生を狂わせてきたということなのでしょう。
さて、ついにその歴史の幕を閉じた『ガロ』。
その儚い伝説は現代の私たちに何を遺したのでしょうか。
次回、「伝説のインク(終)」。
第十六章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。
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