トキワ荘、まんが道が生まれた部屋 第3話:合作という名の遊び
作者のかつをです。
第二章の第3話をお届けします。
一見無駄な「遊び」に見えるものの中にこそ未来を変える重要なヒントが隠されている。
今回はそんな創造性の面白い側面をトキワ荘の日常から描いてみました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
当時のトキワ荘にはまだテレビなどという高価なものはなかった。
仕事に疲れた若者たちの夜の楽しみ。
それは仲間たちと集まって一つの作品を共同で作り上げる「合作」という贅沢な遊びだった。
その中心にいたのは常に藤子不二雄の二人だった。
彼らは故郷の富山にいた頃から「藤子不二雄」というただ一つのペンネームで作品を発表し続けていた。
ストーリーは二人で考え下書きは藤本がキャラクターのペン入れは安孫子が。
その役割分担は彼らにとってごく自然なことだった。
その「合作」の輪がトキワ荘の住人たちへと広がっていった。
ある夜、彼らはリレー漫画を始めた。
藤本が奇妙なキャラクターが冒険に出る最初の4ページを描く。
すると次の4ページを石ノ森章太郎がSF的な壮大な展開で引き継ぐ。
そしてその続きを赤塚不二夫がシュールなギャグで滅茶苦茶にしてしまう。
部屋はいつも笑い声に包まれていた。
それは単なる仲間内の遊びではなかった。
彼らはこの合作を通じて自然と互いの「得意技」を学び合っていたのだ。
「石森くんの描くメカは本当にすごいなあ」
「赤塚くんのこの間の取り方は天才的だ」
「藤本くんのストーリー構成力にはいつも驚かされる」
自分の持っていない武器を仲間が持っている。
ならばそれを盗めばいい。学べばいい。
そして自分の得意な武器で仲間を助ければいい。
この「合作」という遊びの中に、後の漫画制作における「分業」という重要な思想が芽生え始めていた。
一人の天才がすべてを描くのではない。
それぞれのプロフェッショナルが自らの得意分野で最高の仕事をする。
そうして一つの偉大な作品を作り上げる。
さいとう・たかをが後に「劇画工房」で確立するプロダクションシステムの、その遥かなる原点がこの四畳半の部屋での若者たちの笑い声の中に確かに存在していたのだ。
遊びの中から生まれた最強のチームワーク。
その力はやがて彼らを苦しめる最大の敵――「締め切り」との戦いにおいて絶大な威力を発揮することになる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この頃彼らが合作で描いた貴重な原稿は今でもいくつか現存しているそうです。若き天才たちの才能のぶつかり合いが紙の上から今にも伝わってくるようです。
さて、遊びの中で最強のチームワークを育んだトキワ荘の面々。
しかし彼らの前にプロの漫画家として乗り越えなければならない過酷な現実が立ちはだかります。
次回、「締め切り前夜の助っ人」。
伝説のあのシーンの登場です。
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