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漫画創世記~ペン先は世界を描いた~  作者: かつを
第1部:表現の創世編 ~ペン先から生まれた宇宙~
1/65

手塚治虫と映画的表現の革命 第1話:8ミリフィルムとスケッチブック

はじめまして、作者のかつをです。

 

本日より、新シリーズ『漫画創世記~ペン先は世界を描いた~』の連載を開始します。

この物語は、私たちが当たり前に楽しんでいる「漫画」の礎を築いた、知られざる開拓者たちの物語です。

 

記念すべき最初の章は、「漫画の神様」手塚治虫。

彼がいかにして現代漫画の「文法」そのものを発明したのか。その革命の原点に光を当てます。

 

漫画の知識は一切不要です。

ただ、歴史の裏側で繰り広げられた人間ドラマとして、楽しんでいただけたら幸いです。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

 

それでは、壮大な漫画創世記の旅へ、ようこそ。

2025年、東京。

 

カフェの柔らかな照明の下で、一人の女性がスマートフォンの画面を滑らせている。

彼女が読んでいるのは縦スクロールの漫画だ。

キャラクターが目まぐるしく動き、視点はダイナミックに変化する。大きなコマが感情の爆発を伝える。

 

彼女はその息もつかせぬ展開に夢中になっていた。

コマからコマへと視線を走らせる。その一つ一つの区切りが「時間」を表現し、コマの大きさが「感情」を物語る。

 

その漫画の文法を、彼女は呼吸をするかのように当たり前に受け入れている。

 

しかしその「当たり前」が、かつては存在しなかったという事実を知る者は少ない。

漫画がまだ紙芝居のように静止した絵物語だった時代。

その白紙のページに映画という名の魂を吹き込んだ、一人の若き天才の物語である。

 

 

物語の始まりは、第二次世界大戦の傷跡がまだ生々しく残る1940年代の日本。

医学生でありながら漫画家を志す一人の青年がいた。

彼の名は手塚治虫。

 

当時の漫画はまだ子供向けの素朴な絵物語が主流だった。

四角いコマが行儀よく並び、キャラクターはまるで舞台役者のように固いポーズで説明的なセリフを語る。

そこに「時間の流れ」や「動きのダイナミズム」はほとんど存在しなかった。

 

しかし青年の頭の中はまったく別の世界で満たされていた。

彼の心を虜にしていたのは漫画ではなく、銀幕の向こうに広がる光と影の芸術――「映画」だったのだ。

 

彼は暇さえあれば映画館に通い詰めた。

ディズニーの滑らかなアニメーションやフランス映画の斬新なカメラワーク、そのすべてを彼は貪るように自らの血肉へと変えていった。

 

そして彼はいつも持ち歩いているスケッチブックに、映画のワンシーンをコマ割りで描き写していた。

主人公が登場するロングショット。

表情を捉えるクローズアップ。

アクションの連続性を描くカットバック。

 

彼のスケッチブックの中では、静止した絵がまるで8ミリフィルムのように生き生きと動き出していた。

 

「この映画の感動を、漫画で表現できないだろうか」

 

それはまだ誰も見たことのない、途方もない夢の始まりだった。

ペンとインクだけで紙の上に映画館を創り出す。

若き手塚治虫の孤独な、しかし熱狂的な挑戦が始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

新シリーズ「漫画創世記」、第一話いかがでしたでしょうか。

 

すべての始まりは、一人の青年の映画への狂信的なまでの愛情でした。

手塚治虫は生涯で観た映画の数を自慢するほどの、大変な映画マニアだったそうです。特にディズニーやフライシャー兄弟のアニメーションからは多大な影響を受けました。

 

さて、映画を愛する青年は、いかにしてその魔法を静止した紙の上に持ち込んだのでしょうか。

 

次回、「止まった時間を動かす魔法」。

彼の最初にして最大の発明がついに姿を現します。

 

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひページ下のブックマークや、☆☆☆☆☆での評価をいただけると、執筆の大きな力になります。

 

それでは、また次の更新でお会いしましょう。

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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