第5話
本音を引き出された季人。
自分の人生のつらさ、世界への怒り、悲しみ。
感情そのままに心に秘めた願いを口にする。
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「家族がほしい……」
「え?」
「こんな世界どうでもいい……だから僕だけを幸せにして。ずっと家族がほしかったんだ。いっしょのお家に住んで、ご飯を食べて、お風呂に入って、『今日も楽しかったね、おやすみ』って寝る……普通の幸せがほしいの」
「……!」
「お願い、僕と家族になって」
「……」
「スプリングスさ〜ん? 固まっちゃってどうしたの〜?」
「うぅっ……グスッ、グスン」
「泣いちゃった?! そんなにイヤだったの?!」
「どうして……イヤなことがありましょうか。こんなに素敵なお言葉、身に余る光栄ですわ」
「そう? それならよかった」
「家族、えぇ喜んで。ワタクシは季人様のどんな家族にしていただけるのです? 妻? 姉? 母? やっぱり奴隷?」
「奴隷はナシ! そうだな……ママになってほしいかも。スプリングスさんおっきいし、よしよしされたら落ち着くから、こんなママにギュッとされたら幸せかも」
「なるほどなるほど、ではではワタクシは季人様のママとなり、た〜んと甘やかして差し上げましょう。よろしくね、季人ちゃん♡」
「もう『ちゃん』付け? ママの心構えできるの早すぎない?」
「いいじゃな〜い、これから季人ちゃんはず〜っとママのカワイイ子どもになるんだから♡ ね、いいでしょ?」
「しょうがないなぁ、いいよ」
「やった〜♡」
契約は最終段階へ。
「最後にママに新しい名前をつけてくれる?」
「もうスプリングスって名前があるのに?」
「悪魔の名前で人間界は生きていけないからね。人間としての名前がいるの。ちょうどいいのを考えてちょ〜だい」
「えぇ〜? 責任重大じゃんか」
「そんな難しく考えなくていいの、ただママっぽくて、美人さんっぽくて、センスがあって、ワタクシも納得がいく名前だったら何でもいいから〜」
「プレッシャー与えないでよぅ」
「さぁ早く早く〜♡」
(どうしよう……家族になるんだから上の名前は『阿久戸』だとして、下は?)
(『あああ』とか『花子』とかテキトーに決めたら、すっごく怒りそう)
「ん?」
「何でもないよ〜」
(う〜ん……元の名前からもじれないかな? 自分の名前だと『季人』、四季を楽しむ人間って意味だけど。元の名前はスプリングス、スプリングス……?)
「ごめん、悪魔の名前なんだっけ?」
「『スプリングス=サディ=ハルナバル』よ〜次忘れたらビリビリだからね〜」
「ひぇ〜」
(スプリングス、サディ、ハルナバル……)
(スプリング、ハル……)
「あ」
「あら、いいのが思いついた顔ね?」
「うん、これしか考えられないよ。決まりだね」
「よきよき♡ それじゃあ一歩前へ。この名付けをもって契約完了といきましょう」