第25話 2人最後の日
2人最後の日、デートに行く。
今日だけは互いを下の名前で喚ぶ約束。
別々に家を出て外で待ち合わせ。
#####
「時間ピッタリ、場所は駅前広場……OKだね」
(僕のお洋服は黒のジャケットに白Tシャツ、ジーンズ、紺のスニーカー)
(いつもはママ……千春さんが選んで着せてくれるけど、今日だけは自分で選んだんだ)
(千春さんはどんなのを着てくるかな?)
「ごめんなさい季人ちゃん、待った?」
「ううん、僕も今来たとこ。千春さんのお洋服とっても似合ってるね」
「ありがと♡ 季人ちゃんも地球上で1番カッコいいわ♡」
(千春さんはオフショルダーのトップスにロングスカート、ハイヒール。いつもより身長が縦に長く見える。190cmはあるかな)
(イヤリング、濃い口紅、ピンクのネイル……いつもよりさらに色っぽい。真紅の瞳がいつもより輝いてて吸い込まれそう)
(こんな美人さんがママだなんて、いまだに信じられないや)
「早速エスコートよろしくね♡ むぎゅ♡」
「んおっ?! お胸が腕に当たってるよ?!」
「当ててるのよ♡ もっと密着しちゃうんだから、ぎゅ〜♡」
「あぁぁ〜あぁ〜あぁ、そうだぁ、僕がちゃんとプランを考えてきたからぁ! だから行こう! 今すぐ!」
「ウフフ♡ いきましょ〜」
親子デートの始まり。まずは水族館。
「お魚さんがいっぱ〜い! 神秘的〜!」
「普段生きて泳いでるとこ見られないものね。いい体験施設だわ」
「ペンギンショーやってるんだって! 見に行こう!」
「あらら、すごい人だかり。手前まで全然近づけないわ」
「え〜?! ペンギンさん見えないよ! 千春さんなんとかして!」
「まっかせなさい♡ 前の人間どもをみんなどかしちゃうわ」
「え? 肩車とかしてくれればいいんだけど」
「ひとかたまりになってるから楽でいいわ。はい電気ショック」
『ぎゃあっ?!』
『ひげぇっ?!』
『だびぃっ?!』
『なばぁっ?!』
雷はどんどん隣の人に伝って広がっていく。
「ほら邪魔者が全滅。これで1番前にいけるわ」
「やりすぎだよぉ?! ペンギンさんもびっくりして固まってるし!」
「固まってんじゃないわよ畜生風情が。芸の1つでもしてワタクシたちを楽しませなさいな。あなたたちも感電したい?」
「魔法使うのやめてよ〜!」
ゲームセンター。けたたましい音楽と眩しい電飾。
「クレーンゲームがたくさん、どれかやってみたいな〜……あ、くまさんのぬいぐるみ! カワイイ〜!」
「カワイイものはカワイイものに惹かれ合う……この世の真理なのかしら?」
「千春さん、くまさんとって〜」
「まっかせなさい♡ こんなのちょちょいのちょいよ」
20分経過。クレーンのアームは空をつかみ続ける。
「っざっけんなぁーーーっ! このワタクシが機械ごときに負けるですってぇ?! クソッ、こんな苦戦は天魔大戦、あるいは妹との喧嘩以来か……次こそ、次こそ必ず!」
「もういいよ〜1万円使ってムリなんだから諦めようよ」
「ダメ! ここで退いたら今まで積み上げてきたものがムダになる! 諦めグセは負けグセなの、季人ちゃんにそんな大人になってほしくないわ!」
「ギャンブラーみたいなこと言ってるよ〜」
「これで決める! デァァァーーーッ!」
アームがくまさんの頭頂部で開き、首をつかむ。
「よっし! そのまま持ち上げなさぁい!」
アームは……するりと首を抜けて空をつかむ。
「なんでよぉぉぉーーーっ?! 取らせる気ないでしょこのゲーム! 消費者を舐めんじゃねぇーーっ!」
「ちょ、人が見てるから抑えて抑えて……」
「台パンやむなし! ちぇりゃあぁぁぁーーーっ!」
バチチッ、ボッカァン
「ぎゃあっ?! 筐体に雷落ちたってぇ!」
「おかげでケースが割れて転がり落ちてきたわ。ちょっと焦げたけど、はい♡」
「『はい♡』じゃないって! 逃げるよ千春さん、走って!」
バッティングセンター。バッター季人。
「キャ〜♡ プロ選手みたいでカッコいい〜♡」
「打ってやるぞ〜! え〜い!」
「キャ〜♡ 空振りも一生懸命でカワイすぎ〜♡」
「タイミング合わないよ〜! なんでぇ〜?!」
「ボールが通過してから5秒後にスイングする運動神経のなさも愛おしいわ〜♡」
「はぁ、もうバット振れない、疲れた……交代〜」
「うぅん、スカートなんだけど打てるかしら?」
バッター千春。胸元めがけて初球が放たれる。
「せぇいっ!」
ッパァァァン
「あらら? ボールが粉々、バットがぽっきり折れちゃったわ」
「すご〜い人間業じゃな〜い」
「貧弱な素材だこと。もっと手加減しないといけないのかしら?」