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天才魔法師イルヴァ・フェルディーンは、嘘をつかない  作者: 如月あい
3.お披露目

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49.昼食会とお披露目直前の挨拶と

 まったくもって花や植物の話をしなかった庭園散策の後、エリアスも到着し、昼食会の会場へと全員で向かうことになった。


 昼食会はガーデンパーティとして行うため、会場全体を防衛魔法で囲い、ついでに強い日差しを避けるように、防衛魔法に色をつけておいた。

 イルヴァが客人を案内している時には万が一は起こらないだろうが、リズベナーからの賓客をもてなす姿勢としての意味もある。

 テーブルには、フェルディーン領地で生産された花々を、フェルディーン領内で作られた陶磁器の花瓶や皿に飾りつけ、テーブルクロスはリズベナーで制作された見事な刺繍のものを採用している。

 長テーブルには、庭園が最も見える屋敷を背にした真ん中の位置にシャルロッテとジルベスターの席を設け、シャルロッテの右隣がイクセル、ジルベスターの左隣がイルヴァで、イルヴァの左側にエリアスという席になっていた。

 両親はホストとして庭が見えない、シャルロッテとジルベスターの向かい側の席に座る。バランスを考えると、イルヴァが両親側に座って、エリアスと向かい合っても良いのだが、かなり奥行きのあるテーブルで向かい合うとやや話づらいので、パートナー同士を隣同士にするためにこのような席にした。


 貴族の席次のルールは細かい上に例外も多いが、おおよそ、1番美しい風景が見えて、守りやすい位置に客人の席を設ければよいとされている。今回はイルヴァが昼食会の準備を任されたので席を決めたが、リズベナーのマナーと合っているかについては慎重に調べた。

 調べた限りでは、リズベナーはシュゲーテルほど上座、下座にこだわらない国だが、パートナーは隣の席にすることだけは守っているそうだ。そのため、今回の並びであれば、問題にはならないはずだった。


 シャルロッテとジルベスターもこの場では何も言わないだろうから、後でジルベスターにこっそりと問題なかったか聞いてみよう。

 イルヴァはそう決意して席についた。


「改めまして本日はようこそお越しくださいました。我が家でできる限り心を尽くしたお食事をご用意していますから、お楽しみいただけますと幸いです」


 昼食会の音頭は多くの場合屋敷の女主人が取ることが多い。そのため、その関連に従って、母ミネルヴァが挨拶をした。

 それを受けて、シャルロッテはにっこりと笑って言った。


「お心遣いありがとうございます。ささやかではございますが、お招きのお礼として、リズベナー公国で採れたぶどうで作ったワインをお持ちしたので、皆様で楽しんでいただければと思います」


 招待からあまり時間もない中で、ワインを樽で持ってきてくれたそうなので、せっかくであればシャルロッテやジルベスターも楽しめるこのタイミングで飲むのが良いだろうということで、今日の昼食の途中で出すことにした。

 シャルロッテに聞いたら食後酒としても、ステーキに合わせるのも良い甘めの白ワインだということだったので、メインと同時に出してもらうことにする。


「そういえば、シャルロッテ様はこの度、イクセルのパートナーにもなっていただけるとのことでしたが、イルヴァが無理を言ったのではないでしょうか?」


 前菜が並べられて料理の説明が終わったあたりで、父ヴァルターが当然気になるだろう話題について切り出した。両親とも特にイクセルにもイルヴァにも事情を聞いてこなかったが、こういった形で相手の反応を伺うことで、情報を得ようということだろう。


「いえいえ。私はシュゲーテルに興味がありましたので、お誘いいただいてとても嬉しかったです。それに、ご子息のイクセル様とは、フレぜリシアへの短期留学中に交流がありましたので、喜んでエスコートもお願いしたいと思ったのです」


 シャルロッテの言葉に、ヴァルターとミネルヴァは明らかに驚いた様子でイクセルの方を見た。イクセルもまた、シャルロッテの方を見て、落ち着いた声で質問した。


「留学のことは言ってよかったの?」

「ああ、先輩にお気遣いいただいていたのですね。私の留学は完全に秘密というわけでもありません。後継者がどちらも国外にいると喧伝する必要はない、という判断ですから、過ぎたことまで隠さなくても良いのです。ただ、積極的に公開する予定もありませんから、この場で収めていただけますと幸いです」

「もちろん口外しませんが……あまり接点もない我が家を信用してよろしいのですか?」


 フェルディーン家としてアルムガルド家と付き合いがあると言える状態ではまだない。そのため、ヴァルターの懸念は最もとも言えた。

 しかし、シャルロッテは、ニコニコと笑いながら、首を横に降って言った。


「信用しております。そうでなければ、お2人に特別通行許可証をお渡ししたりいたしません」

「特別通行許可証?」


 ミネルヴァがおうむ返しで問い返した後、イルヴァとイクセルに目でそれは何かと問いかけてきた。

 そういえばイルヴァは特に、特別通行証のことを両親に伝えていなかった。そしてまた、おそらく兄イクセルも、忙しさの中、その話を両親にするのを失念していたのだろう。

 イクセルの表情はイルヴァの席からこっそり伺い知るのは難しいが、イクセルもまた、イルヴァと同じくしまったという顔をしているに違いない。


「2人から聞いていませんか? 父がイルヴァ嬢およびイクセル殿、エリアス殿の我が国の魔法による医療技術の向上に大きく貢献したとして、特別通行証を発行しました。20名程度しかもっていないものですが、これを持っている限り、リズベナー公国への入出国許可は不要で出入りできます」


 ジルベスターが丁寧に説明を添えてくれて、両親は理解した顔をしたと同時に、イクセルとイルヴァを責めるような目で見た。

 報告が足りていない、ということだ。通話で声が聞こえてこなくてもわかる。


「そうでしたか。忙しさにかまけて、息子と娘との対話が足りていなかったようです。ともあれ、子どもたちがお役に立てたのであれば、良かったです」


 父は笑ってそう言っているが、母の顔を見るのが怖い。もちろん母だって、賓客の手前、顔を崩してはいないだろうが、あとで何を言われるのか怖い。


「本当にもう、大活躍でしたよ。イルヴァ嬢にいたっては、兵士の欠損を治し、光の範囲治癒魔法から水の魔法での範囲治癒魔法まで。どれも大変勉強になりました。朝の訓練も城中のものが賞賛しておりました。訓練の相手をした兵士も熟練なのですが、まったく歯が立っていませんでしたしね」

 

 ジルベスターはよかれと思って褒めてくれたのだろうが、イルヴァはリズベナーにおける自分のしでかしたことのほとんどを報告していない。

 当初の予定通り、治癒魔法を伝授したことだけは伝えて、そのこと以外の報告はすべて省略した。おそらくイクセルもまた、イルヴァのことを事細かく報告するのは避けたのだろう。

 両親の顔が、さきほど以上に引きつったのがイルヴァにも分かった。特に父が気になったのは訓練のことだったようだ。


「朝の訓練とは……まさか、あの朝の訓練か? イルヴァ」


 正気なのか、と暗に問いかけてくる父に、イルヴァは自分を正当化するためにできるだけ事の詳細を話しておくことにした。


「はい。力試しをされたので、城の兵士の欠損を直したら、そのお礼がしたいと言われたので。金貨で払うと言われましたが、私が勝手に治したのに民に金貨は要求できませんよね?」

「……なるほど。正当な対価として受け取ったと。だが、その……いつものようにやったのか?」


 父が気になっているところがわからないので、イルヴァはこの問いには素直に答えることにした。


「基本的なルールは一緒ですが、新しい魔法を試すために攻撃の方法は変えました」

「容赦無く……ハンデもなく訓練を?」

「そうですね。お兄様が魔法の障壁を作っていましたし、治癒魔法も何回かかけていました。おかげで1時間、たっぷり訓練できました」


 ヨーゼフは最後まで闘志が尽きることのない良い戦士だった。ああいう軍人が多いのであれば、リズベナー公国軍はきっと勇猛なのだろうと思う。

 しかしイルヴァの満足げな回想とは裏腹に、ヴァルターはブルブルと震えて叫んだ。


「治癒魔法をかけて1時間!? なんて残酷な! イクセル!」

 急に父の怒りが飛び火したイクセルは、ヴァルターをなだめるような声で言った。

「父上、どうか落ち着いてください。アルムガルド家の大公ご本人の許可を得て、治癒魔法をかけたのです。流石に勝手に1時間の訓練を強制したわけではありませんから」

「とはいえ、あれを1時間? ……治癒魔法をかけたら、保ったのか?」


 落ち着いたと思ったら、イルヴァとの訓練で1時間も戦ったことが気になったらしい。


「はい。彼はとても勇猛な兵士でした」

「それは素晴らしいな……罰則の規定を変えて、1時間に変更しても良いかもしれん」


 先ほどから聞いていれば、イルヴァとの訓練の扱いがひどい。フェルディーン家ではほぼ罰則のように扱われていると分かってはいたが、もしかするとイルヴァの知らないところで明文化されていたのかもしれない。


「それに、訓練に付き合わせただけで残酷? ひどい言われようだわ」 


 ぶつぶつと小声で文句を言っていると、隣からくすりと笑い声が聞こえた。

 左隣を見るとエリアスが笑いを噛み殺しているところだった。


「あなたも残酷だと?」

「まさか、そんな」


 エリアスは即座に否定するが、声が笑ってしまっている。イルヴァがじっとエリアスを見つめると、彼は少し慌てたような表情をして、イルヴァの左手へと彼の右手を伸ばした。

 しかしイルヴァはその手を躱して、イルヴァとエリアスの周囲に簡単な盗聴よけの防衛魔法を張りながら言った。


「魔法を習得するまでは、不用意に触らないほうが良いわ。気分が悪くなっては困るから。どうせ今日はエスコートで触りっぱなしになるのよ」

 すると、エリアスは訝しげな表情をしながら問いかけてきた。

「……イルヴァはこの症状を、正確にはなんだと思っているの?」

「魔力過剰受容症でしょう?」

「なるほど。そうか、君はそういえばあの時もそう言ってたのに、僕は驚いて、混乱して、失念してたよ……つまり、結局のところ、()()しないといけないわけだ」

 エリアスの声は途中から急激に小さくなり聞こえなくなった。しかし彼は何かに納得したように頷くと、なぜか少し安堵した様子で息をついた。そしてそのあと、はっと何かを思い出した表情になると、続けて言った。

「今日の夜のお披露目のときは、君は力を使わなくていいよ。触れている期間が長いと、慣れるんだ」

 

 ーーーなるほど。だからたまに私に触れてくるのね。婚約者だから私の魔力に慣れようということなら、協力したほうがいいわね。具合が悪そうだったら、私が勝手にあの魔法を使えばいいことよ。


「分かったわ。防衛魔法、解除するわね」


 イルヴァはうなずきながら、盗聴よけの防衛魔法を解除した。

 2人で会話している間にも、その場の雑談は進んでいた。

 今はどうやら、シャルロッテとイクセルのフレゼリシアでの留学生活についての話題のようだ。


「先輩は面白い魔法をたくさん使っていらしたので、私の方からお声がけしたんです」

()()()も魔法理論に精通していたから、魔法談義で盛り上がったよね」


 シャルロッテの留学中の話を隠す必要もなくなったので、イクセルは遠慮なくシャルロッテを愛称で呼んだ。両親は何か思うところがあったらしく、互いに視線を見合わせたが特に口は挟まずに2人の話に相槌を打つに止めた。


「先輩とはお互いに家名を明かさずに交流していたのですが、帰国をきっかけに伺ったんです。そうしたら、一月も経たずに大公家にいらっしゃって、本当に驚きました」

「いやいや。僕のほうが驚いたよ。シャロはリズベナーでも良いところの出だとは思っていたけれど、まさかアルムガルド大公家だったとは」

「先輩との縁があったということですね。こうしてエスコートもしていただけることになりましたし。先輩に決まった人がいないのは意外でしたが」

「そのセリフをそのままお返しするよ」


 2人が友人だと言うのは本当なのだろう。兄もとても砕けて接しているように見える。ジルベスターやエリアスには気を張っているようなので、対応の差は歴然としている。


 そんな2人の会話を見守っていると、隣にいるエリアスが、再び盗聴避けの魔法を使いながら尋ねてきた。


「あの2人は恋仲なの?」

 思わぬ質問に、イルヴァは盗聴避けのことも忘れて声を顰めて答えた。

「え? 友人と聞いてるけど……」

「なるほど……。自覚がないのか、秘密にしているのか、それとも……」

「エリアスはお兄様とシャロが恋仲だと?」

「恋仲までいかずとも、一歩手前のように見える。縁があるってわざわざ言うぐらいだから」


 そんなことで? とイルヴァは疑問に思うが、エリアスの方がこの手のことには詳しそうだし敏感そうだ。彼がそう感じるのであればそうなのかもしれない。


「少なくとも、ジルベスターはそのつもりでエスコートの話を進めたんだと思うよ」

「そうなの? 全く気づかなかった」


 後で兄にこっそり質問したら教えてくれるだろうか。


ーーーいや、私は知らない方がいいか。お兄様の恋路を邪魔するのも悪いし。


 イルヴァは嘘をつけないので、知ってしまうと、万が一の時に嘘で切り抜けられず情報が漏洩するリスクがある。

 ユーフェミアが貸してくれた恋愛小説でも、だいたい周囲の人間が干渉すると、恋人同士の関係性は拗れていくのだ。

 このまま、何も知らないふりをしよう。

 イルヴァはそう決意したが、まさかその決意が数日後に意味がなくなるとはこの時には思っていなかった。






 昼食会を終えると、全員、夜のお披露目の準備のためにそれぞれの部屋に戻ることになった。エリアス、シャルロッテとジルベスターにもそれぞれ部屋を提供しているので、3人もフェルディーン家で着替えることになる。

 レンダール公爵夫妻は開会の2時間前に到着予定とのことだったので、比較的用意の早く終わるヴァルターとイクセルが出迎える手はずとなっていた。

 いつもはあまりアップにすることはないのだが、今日は昼食会との印象を大きくかえるために、編み込んだ毛束でシニヨンを作ることにした。直毛な髪質なので、編み込みとの相性はあまり良くない。ただ、定着魔法をかけてしまうと不自然になってしまうので、クリームをつけて物理的にまとまりをだし、処理をする。


「本日のお召し物、本当に素敵ですね……」


 ドレスを手に持った侍女の誉め言葉がどこかうっとりとした様子である。

 それもそのはず、レンダール公爵家お抱えのデザイナーと服飾工房が作った本日のドレスは、平民の家が住宅街ごと立ちそうなレベルでの豪華さだった。

 糸が最高品質なのに加え、それを織る技術も最高峰で、さらにそのドレスにふんだんに宝石も魔法も使われている。

 デザインもユニークだった。両家のそろいの衣装だというのに、なんとフェルディーン家の家紋が黒兎で、家紋の色が黒であることに由来するのか、ベースは黒で、右肩から左側の腰に向かって、それぞれのパートナーの色の糸を使った大胆な刺繍が施されている。

 女性のドレスも男性のジャケットも同じ作りになっていて、明らかに揃いのデザインとわかる出来栄えだ。


 ドレスは人によって形は違うが、イルヴァのドレスは胸元が斜めにカットされたビスチェタイプで、右肩は左腰を起点に始まる立体的なフリルでほとんど隠れるが、左肩は完全に出ている。スカート部分は普段は選ばないような布が幾重にも重ねられたボリュームのあるドレスだが、黒い布であることで可愛くなりすぎない印象だ。

 エリアスの色である金糸での刺繍も右胸から左腰まで花とつる草をあしらいながら進んで行き、左腰の位置に上からつけられた目の覚めるような彩度が高く青い布ーーこちらもエリアスの色だーーが幾重にも重ねられ腰につけられた青い花のようになったあと、長い布の端が優雅なウェーブを描いて落ちていく。

 

 イルヴァは自分がまとってみると、あまり選んでこなかった色ではあるが、とてもしっくりきた。また、デザインも可愛らしさよりは美しさをとった洗練されたデザインであることも、自分の顔の印象と喧嘩せずに良い。

 エレオノーラにリボンを勧められたらどうしようかと思ったが、幸いにも、彼女の見る目は確かだった。



 準備ができた頃には、すでにレンダール公爵夫妻が到着しているとのことだった。

 本来であれば控室でおもてなしをしたいところだが、開始よりも早くくるゲストもいるため、イルヴァは公爵夫妻に挨拶だけして、すぐにメインの大広間へと向かう必要があった。

 公爵夫妻の控室に入ると、そこには公爵夫妻とエリアス、そしてヴァルターとイクセルが揃っていた。

 イルヴァが部屋に入った瞬間、全員の視線がイルヴァに注がれたのが分かった。なかでもエリアスは、目を丸くして立ち尽くし、言葉を忘れてしまっているようだった。

 そんなエリアスの服装は、当然だがイルヴァのドレスと対になるデザインだった。イルヴァは金と青をアクセントにしたドレスだが、エリアスは黒地に鮮やかな赤の刺繍と布が右肩から左側に斜めに横断したデザインのジャケットに、ワインを思わせるような深い赤のベストとネクタイをしている。

 イルヴァの色に忠実に合わせると、黒ベースのジャケットでは沈んでしまうため、刺繍は彩度をあげ、宝石も縫いとりながら豪華に、ベストとネクタイでイルヴァの色を再現したようだった。

 エリアスは美しい顔立ちをしているので、何を着ても似合うと思っていたが、今日の装いは特に似合っている。


 本来のマナーではパートナーの男性側からほめ、女性側が褒め返し、周囲もそれに続くのが通例だが、イルヴァから褒めても良いだろう。


「今日のエリアスも素敵ね。気合いの入った正装もとても良く似合ってるわ。あなたが輝かしいオーラを放っているから、私やお兄様が霞んでしまわないか心配だわ」

「……! すまない。君が本当に美しくて、言葉を失っていた。本当に綺麗だ、イルヴァ」


 噛み締めるように言われたその言葉は、いつもよりどこか低い声のトーンで、囁いているかのような雰囲気があり、どこか落ち着かない気分になってしまう。


「エリアスが口下手で申し訳ないわ。今日のイルヴァはまばゆい宝石のごとく輝いていて、美しく、よく似合っているわ。エリアスのパートナーだということも良く分かるもの。それに、あなたが十分に輝いているから、エリアスの印象が霞んでしまいそうよ」

「会場に大輪の花が咲くように華やぎをもたらしそうだ。よく似合っているね」


 エレオノーラとアウリスが順番に褒めてくれた。公爵夫妻は、基本的にはイルヴァとエリアスの衣装と同じデザインだが、使われている刺繍が2人とも互いの色で金糸で、アクセントしてアウリスは深い青色をベストとネクタイに、エレオノーラはスカート部分が明るい青色でイルヴァの左腰についている布で作った花はないスタイルだった。その場にいる父ヴァルターも同じデザインで色だけ母ミネルヴァの色を使っているので、おそらくミネルヴァもエレオノーラと同じスタイルで出てくると思われる。


「ありがとうございます。お二人も今日の装いがよくお似合いです」


 イルヴァが褒め返すと、今度はイクセルが進み出てきた。

 イクセルはデザインの主軸で主役だとエレオノーラが言っていた通り、基本的な服の形はエリアスと同じだが、エリアスのよりも宝石や装飾の使い方が大胆できらびやかな仕上がりとなっていた。


「イルヴァはいつも通り完璧な仕上がりだね。……招待客の情報は大丈夫?」

「ありがとうございます。お兄様も素敵です。……それは魔法で解決しました」


 後半の部分は声を潜めて返すと、イクセルは少し驚いたような表情をしたあと、後で詳しく教えてねと言って離れて行った。


「さて、それでは手はず通り、早く来た招待客との歓談はエリアスとイルヴァにお任せするわ。イクセルさんは後から登場して驚かせなければいけないから」


 エレオノーラに言われて、イルヴァは自分の仕事を思い出した。

 今の所、兄が帰国したという情報は徹底的に隠し通しているつもりだ。おそらく今日のほとんどの招待客は、一次的にイルヴァを後継者にしつつ、婚約予定としてイルヴァとエリアスのお披露目を行うと理解しているだろう。

 個人的な招待客のほかに、両家がそれぞれ繋がりのある家、そして、あえて王家と親しい家も呼んでいる。

 兄の帰国は、この会の大きなサプライズとなる予定だ。


「では、行こうか」


 エリアスが会場までエスコートして連れて行ってくれるため、手を差し出してきた。イルヴァはそっとその手をとり歩み寄った後、エリアスの腕に手を回した。

 今日はここからが本番だ。


「緊張している?」


 問われて、イルヴァは自分自身の胸に手を当てる。自分でも自分がどう感じているかよくわからないが、緊張というよりも、どこか高揚感に似た気持ちがあるような気がした。


「緊張というより、ここ数週間の情報統制がうまく行ったかが楽しみだわ」

「さすがだね。じゃあ、行こう」


 そうして、2人はお披露目会場へと足を踏み出したのだった。

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