27.リズベナーでの魔法交流会
侍女に全身ピカピカに磨かれたあと、迎えにきたエリアスとともに、会場に向かう。
イルヴァの準備をしていた侍女たちも、マリアとともにこれから身支度をするらしい。全員ではないが、何人かは今日の交流会の参加者だと言う。
エリアスのエスコートを受けて案内された会場に入ると、普通の夜会とは全く違った雰囲気の空間がそこにあった。
壁際には紙の貼られたボードとテーブルがセットで置かれていて、ぐるりと会場を囲んでいる。壁際のテーブルには、論文が置いてあり、おそらく発表者がボードとテーブルの近くにいるようだ。
中央にはビュッフェスタイルの食事が提供され、その周囲に立食用のテーブルがあった。
「すごい。交流会というより、ラフな学会のようね」
「この形式なら、新規の論文を発表した研究者の話を効率よく聞いていけるね。よく考えられてる」
「あそこに、ローレンツ教授がいるわ」
会場の最奥で、最も大公家の観覧席に近い位置に、ローレンツとその弟子が、ボードとテーブルを3つ使って陣取っていた。
既にそこそこの人数が近くに集まっている。
おそらく各研究者のブースを好きに回って研究に対する質問をしたり、意見交換したりするのだろう。
「もしかして、最奥が最も権威があるのかな?」
「なるほど。確かに入り口付近の研究者は若いわね」
入り口付近のボードに立つのは、学生ぐらいにも見える若さだ。おそらくイルヴァやエリアスよりも若い。
「せっかくだから、リズベナー公国の若き研究者の話を聞きたいわね」
「じゃあ、あそこに行こう」
2人は近くにいた女性の研究者のブースに立ち寄ることにした。
メガネをかけ、茶髪の髪を二つに結んだ彼女は、シャツとスラックスの上にローブを羽織っている。ドレスコードは比較的緩いのだろう。
「こんにちは」
「こんにちは。リタと申します。来てくださってありがとうございます。よろしければこちら、ご覧ください」
彼女にテーブルの上に置いてあった冊子を渡されたので、受け取ってパラパラとめくってみた。
彼女の研究は、魔力不完全症の患者でも使える、魔力を動力源とした機器についてだった。
「魔力不完全症……聞いたことはあるけど、具体的には知らないわね」
「魔法を扱うための魔力を、何かしらの要因で魔法式に変換できない、つまり、魔法を使えない人を指す言葉だった気が」
イルヴァとエリアスの言葉に、リタは頷いた。
「ご認識の通り、何かしらの理由で魔法が扱えない病、体質のことを指します。彼らは基本的には通常の魔石を起動できません」
「魔石に刻まれた魔法式を使うにせよ、わずかながら自分の魔力を使う必要があるからね?」
「その通りです。私はその問題を解決したいのです。ですから、魔力不完全症の方でも扱える道具を『魔道具』として普及させることを目的に研究しています」
彼女の発想はとても面白いものだった。普通の作り方では、魔力不完全症の人では起動できない魔石を、特別な機構に埋め込むことによって魔力がない人でも起動できるようにするというもので、起動は物理的なボタンを押すことで可能にするようだ。
「この設計した実物はないの?」
本来であれば、この場に実物が置いてあるのが筋だろう。しかし、イルヴァが尋ねると、リタは悲しそうに首を横に振った。
「実はまだ、これを作成していただける職人さんを見つけられていないんです。資金も足りず……」
「今日ここに出たのは、資金調達のため?」
「はい」
この研究は、かなり面白いものだ。しかし、この見せ方では支援を受けられないだろう。魔力不完全症の患者は、とても稀なのだ。特に、魔石を起動できないほど重度の、完全に魔法が扱えない人間はほとんどいない。
この課題を解決して助かる人数が少ないということは、資金を集めづらいということにそのまま直結する。
「どうしてこの研究を?」
「妹が、魔力不完全症なんです。最も重度で、魔石が起動できないほどの症状です」
おおよそ、予想通りの回答だった。イルヴァでさえ、魔力不完全症という症状は聞いたことがあったが、実態について詳しく知っていたわけではない。
ただ、イルヴァの周りには誰1人として魔法を使えない人間はいないし、そういう人のことが話題にのぼることもない。隠すのは難しい病気だから、おそらく本当に珍しく、ほとんど存在していないのではないだろうか。
それなのに研究したいという場合は、ほとんどが身内か本人がその症状に悩まされている場合だ。
「妹のために進めたいの?」
「はい。お見受けするところ、貴族の方ですよね? 少しでもいいんです。ご支援いただけませんか?」
この技術は興味深いので、支援すること自体は良い。ただ、他国の貴族であるイルヴァが、それなりに支援をしようと思ったら、イルヴァにもリターンがでるような投資の仕方でないと、家族を説得できないだろう。
イルヴァの個人財産で支援するのは焼石に水だ。この技術を実用化するにはそれでは足りない。
ただし、この技術を応用したビジネスアイデアをベースにするならば、話は別だ。
「支援するかを悩んでるの?」
イルヴァが悩んでいると隣にいたエリアスが問いかけてきた。
「いいえ。支援はしてもいいと思っているけれど……投資として支援したいから、どこまでやっていいか悩んでいるのよ」
「なるほど。ジルベスター様に聞いた方がいいかもね」
「呼んだ?」
ちょうどよいタイミングで、ジルベスターが姿を現した。場のドレスコードに合わせたのか、着崩したシャツとスラックスでゆったりとした姿だった。
そこで、イルヴァは事情を簡単に説明した。
「特に投資家を国内に限定してないから投資してくれるのはいいんだけど……寄付じゃなくて投資なの? 利益回収できる見込みがある?」
「はい」
イルヴァは返事をしながら、盗聴避けに防衛魔法を展開した。その場の3人もそれに気づいたようで、何事かとこちらを見た。
「あなたの研究は、魔力不完全症の方のための道具、という方向性ではない売り出し方なら、需要がかなりあると思うわ」
「どういうものでしょうか?」
「通常の魔石は起動時と終了時に必ず魔力が必要になるでしょう? あなたの研究は、起動と終了をする魔石を別で機構に埋め込むことによってそれに起動と終了の肩代わりをさせるという発想よね。魔石が一回に消費する魔力は、魔石に込められた魔法式の大きさ、つまり、魔法の規模によって変わるわ。そして、魔石は本来なら起動と終了をまめに繰り返した方が魔力消費は少ない。つまり、あなたの発明は、複雑な魔法式を込めた魔石の魔力の節約にかなり有効だと思われるの」
イルヴァが説明すると、リタはハッとしたような表情をして、資料を漁り始めた。そして、何枚か紙をめくったあと、明るい表情になっていった。
「確かに、理論上はおっしゃるとおり魔力消費は少なそうです!」
「私はこの技術を使って作りたいものがあるの。だから、私が、この技術の金銭的支援を全面的にするかわりに、2つお願いしたいわ」
「なんでしょうか?」
「1つは、本来の目的の魔力不完全症のための研究という見せ方はやめて、魔力消費の解消という方向性の論文にすること。これだけで、リズベナー公国でも支援を集めやすくなるはずよ。もう1つは、私が出資した資金は、元本割れした場合は返金は不要だけれど、魔力消費の節約の技術で得た利益の5%を返してちょうだい。利益がでてから1年間でいいわ。これはアイデア料も込みよ」
「たった1年間、5%で良いのですか?」
「その代わり、利益が出てから1年後、つまり、利益の分配を終えた後は、私の方でもその技術を使って作りたいものがあるのだけど、そのうち一つは、技術を使う権利料を完全に免除してちょうだい。その特定の一つ以外は、利益に応じてこちらから3%で技術料を支払うから。あと、さしあたり、あなたの論文内にある、妹さんが使える照明はこちらで製作して送るわ」
技術料として利益の3%支払うというのは、レートの下限ではあるが、出資者であれば比較的常識の範囲内である。この取引は、特段、彼女にとっては断る理由はないだろう。
「お断りする理由がありませんが、よろしいのでしょうか?」
「いいわ。何も書いてない紙はあるかしら?」
「こちらをどうぞ」
差し出された数枚の紙を受け取り、それに契約書を炎の魔法で焼き付けていく。インクを使う方法もあるが、イルヴァは面倒なので魔法で焼き付ける形をとっていた。そして、自身の名前も魔力を込めて焼き付けて署名する。そしてリタにその紙を渡した。
「リタさん。そしたら、この交流会が終わるまでに、これの内容をよく読んでサインして。魔力契約書だから、サインは慎重にね」
「ありがとうございます! お名前は……イルヴァ・フェルディーン様ですね! ……ん? イルヴァ・フェルディーン? それって、昨日ヨーゼフ様を治して、朝にはヨーゼフ様を訓練で真っ黒にしたというあの……?」
リタが紙に書いてある名前を見ながら、恐る恐るといった様子で問いかけてきた。
「そうそう。彼女がイルヴァ・フェルディーンだね。ついでに、シュゲーテルでY・Fの名前でいくつかの魔法理論の論文を出しているのも彼女だよ」
イルヴァが答えるより先にジルベスターが答えると、リタは目をキラキラさせて叫んだ。
「あの、Y・Fが、フェルディーン様なのですか!? 発表されているすべての論文を読ませていただいております! そんな方に投資していただけるなんて……! ちなみに、投資いただいていることを公表しても?」
「構わないわ。私の名前じゃ、対して出資者を増やすのには対して効力がないかもしれないけれど」
誰が出資しているかで信頼度が変わるため、研究者が公表するのはよくあることだ。ただ、イルヴァの名前で意味があるだろうか、と思っていたらそれはジルベスターが否定した。
「いやいや。君の名前があるだけで、リズベナーの相当数の貴族が出資すると思うけど……」
「そうですか? でもあまり出資者が増えると、彼女のやりたい研究の邪魔になるかもしれないですね……本当は、どこか強い後見のある後ろ盾があるといいのですが。私は国外貴族ですから、あまりお役に立てないですし」
シュゲーテル国内で平民の研究者が何かの発明をして製品開発する場合、大体が貴族が後見人をしている商会を通して商売する。
そうでないと、お金に物をいわせて、研究方針にまで口を出してくる貴族と交渉する余地がなくなるからだ。
リズベナーでも大体同じようなことは起きると推測されるため、彼女にも後ろ盾が必要だ。シュゲーテル人ならイルヴァの後ろ盾でも良いのだろうが、リズベナー人の彼女の後ろ盾としては弱い。
すると、ジルベスターがしばらく考えたあと、それならと申し出た。
「僕が個人で出資をするよ。魔力不完全症の患者のための「魔道具」にだけ、ね。公益性の高い事業だから、アルムガルド家の一員が後見しても違和感がないだろうし」
「それはいいですね。ジルベスター様の名前があれば、彼女がやりたい妹さんのための「魔道具」作成は邪魔されないでしょう」
「僕も後で契約書用意するから、詳細を詰めて別途連絡する」
「ありがとうございます! 公子様とフェルディーン嬢に支援いただけるなんて、夢のようです!」
リタははしゃぎながらそういうと、イルヴァの渡した契約書を見た。そして、何を思ったか、パラパラとめくるとそのまま魔力をこめてサインしてしまった。
「ちょっと! 契約書を読まないでサインするなんて……!」
「いいんです。フェルディーン様を信頼していますから」
リタがふにゃりと笑った。その無防備さにイルヴァは深いため息をついた。
イルヴァは精霊との契約によって、嘘をつけないという制約を課して生きている。そのため、それは文字に起こしても同じなので、さきほど口頭で提示したことと相反する内容の契約書を作ることは、イルヴァにはできない。しかし、イルヴァ相手には結果的に問題なくても、気軽にサインするのは問題だ。
「よくないわ。私が出資するのだから、全ての契約書には目を通してサインなさい。騙されて損害を被らないか心配よ」
「これからはそうします。でも、嘘には敏感な方なんです」
リタはそう約束しながらも、どこか、自分自身の判断に自信を持っているように見えた。もしかすると、彼女も精霊との契約があるのかもしれない。しかしもしそうだとしても、契約書を読まないのは自殺行為だ。
「心配してくださってありがとうございます。本当に、フェルディーン様以外の契約書は、必ずちゃんと読みますから」
不安が顔に出ていたのだろう。リタが改めてそう約束してくれた。彼女は嘘をついているようには見えなかったので、ひとまずイルヴァも引き下がることにした。
「これ、持っておいて。あなたとは、もう少し話をしたいことがあるから」
「これは……通話の魔石ですか? フェルディーン様がお作りに?」
彼女に渡したのはネックレスタイプの通話の魔法式が組み込まれた魔石だ。これはイルヴァが持っている腕輪にはまっている魔石と通話できるようになっている。
現状の技術ではおなじ魔力をもつ魔石同士でしか通話はできないので、基本的にイルヴァが誰かと通話したいときは、イルヴァが加工した魔石を渡すようにしている。
「ええ。それと、私のことはイルヴァで良いわ。あなたとは長い付き合いになりそうだから。これからよろしく」
イルヴァが右手を差し出すと、リタはきょとんとした表情をしたあと、はっと我に帰ったように右手を差し出し、握手をした。そして、にっこりと笑った。
「よろしくお願いします。私のことはリタと呼んでください、イルヴァ様!」
「よろしく」
一通り話がまとまると、リタのブースから離れることにした。
そして、ジルベスターに案内され、イルヴァとエリアスは、奥の方にあったローレンツのブースに向かう。ジルベスターはブースにいる研究者と気軽に挨拶を交わしながら、ローレンツのところまで歩いていった。
到着すると、ローレンツは待っていたとばかりに手招きして、ブースに並べてある論文の冊子をイルヴァに手渡した。
「よく来た。君のブースはここだ」
「え?」
手渡された冊子はローレンツの研究論文かと思いきや、なんとイルヴァが過去に発表した論文だった。どうやら3つのパネルと机のうち、一つをイルヴァの場所として提供してくれるようだ。
「それと、約束していた鑑定魔法以外の魔法を披露しようと思って待っていた」
「あ! 確かにその話をしていましたね」
忘れていたが、本を空間魔法で取り寄せる代わりに、鑑定魔法以外も見せてくれると言っていた。鑑定魔法を知りすぎたため、本当はそのままでもよかったのだが、ローレンツは律儀なタイプだ。
エリアスやジルベスターも一緒に見るかと思ったが、2人はどうやら光魔法の件で、別の魔法師と会話しているようだった。
「これだ。魔法式はこれ。まあ、君なら見ただけで習得できそうだが」
ローレンツに渡された冊子は、今度は彼の構築した魔法式のようだ。さっとタイトルに目を通す。
「検索の魔法?」
「ああ。欲しい情報を特定の範囲から探し出せる。探知と違うのは、対象物が文字であるという点だ。どちらかというと水鏡の魔法や鑑定に近い。まあ、見た方が早いだろう」
そういうと、ローレンツは先ほど渡した光魔法の魔法書を手にとった。そして、魔法を使った。今回は特に詠唱はしないようだ。
イルヴァは魔力の流れと構築されていく魔法式を見て、おおよそ、どういう工程の魔法か理解した。魔法師が知りたい情報を手繰り寄せるようなものだが、一度、対象のものの文字を魔力に変換して読み込んだ後、必要な情報だけ精査して抜き出すという工程のため、鑑定魔法とかなり近い。
ただし鑑定魔法と違って、最後に引き出す情報量が少ないので、簡単に使えて良い。結果的に最後に魔法師に渡る情報は、魔法を使うときに望んだ情報だけなので、さきほどのように魔法によって倒れたりするおそれもなさそうだ。
「試しに使ってみても?」
「ああ」
許可も得たので、イルヴァは早速使ってみた。まずは目の前の研究論文を対象にし、そのあと、もう少し範囲を広げて、手にとってないものも対象にする。
何度かやって分かったのは、調べたいことは、具体的だとより情報が集まりやすく、抽象的だとそれなりにしか集められないということだ。
「面白いですね」
「だろう? これがあれば、論文のどのページに書いてあったかなどを探すのも簡単だ」
「そういう使い方も便利ですね。さすがは生活魔法の先進国という感じがします」
シュゲーテルで評価される魔法はどちらかいうと戦闘に向くものが評価されやすい。
イルヴァはそこまで攻撃魔法特化ではないものの、戦闘でも使えるようなものを優先して魔法理論の論文発表をしてきた。
ただ、イルヴァ自身は生活魔法の方が面白みを感じるので、これからはこの方向性の研究も増やしたら良いかもしれない。
「そういえば、こっちだけ口調を崩してるのもあれだから、タメ口でいいぞ。ローレンツと呼び捨てで呼んでくれ。国が違うとはいえ君のが身分は高いし」
「そう? それなら、私のこともイルヴァで呼び捨てでいいわ。研究者同士、気兼ねなく意見交換しましょう」
「じゃあ、遠慮なく。できれば、イルヴァと定期的に魔法について議論したいんだが……」
「それなら、国際宅配便で通話の魔石を送るからそれでどう?」
「ぜひ! 研究室に置かせてもらう」
リズベナーの研究者たちと繋がりができらのはこちらとしても願ってもないことだ。
ローレンツと話し合えると、気づいたらイルヴァのブースに研究者たちが集まってきていた。
そこからは彼らに今回教えた水魔法による治癒の魔法の話をしたり、兄イクセルも合流して、光魔法を実演してみせたりと、リズベナーの研究者たちの質問に答えていく時間になった。
リズベナー公国はシュゲーテルよりは階級意識が低いのか、イルヴァたちだけでなく、ジルベスターにも丁寧ではあるが気さくに話しかけている研究者も多い。
だからなのか、身分の垣根なく議論が活発に進んでいき、雑談の中から気づきを得ることも多い。
こういう交流会ができるのも、この国の風土があってこそだろう。
マリアもリズベナーの侍女に連れられて会場に後から来て、イルヴァに挨拶だけすると、会場のどこかへと再び連れられて行った。
後で彼女の話も聞いてみたいところだ。
「リズベナーはすごいね。こんなふうに魔法理論の議論ができるのは、楽しい」
いつの間にか隣にいたエリアスが、まさにイルヴァが思っていたことを代弁してくれた。
「シュゲーテルは魔法理論より、体系魔法を極めることを重視するものね」
「それに、身分の垣根や利権が邪魔をしてこんなフラットな意見交換は難しい」
どうやらエリアスも同じことを考えていたようだ。
「羨ましいわ。率直な国民性も、私の気質に合っているし。あなたとの結婚が決まってなかったら、移住を考えたかも」
ちょっと思ったことを口にしただけだったのに、エリアスはガバリと体ごとこちらを向いて、ぐっと顔を近づけて来た。
「婚約は解消しないからね」
「そ、そんなことは考えてないわ。……ハネムーンはリズベナーでもいいかも?」
「……まあ、それなら」
よく考えると、エリアスとの婚約がなかったらリズベナー公国にこのタイミングで来れなかったかもしれないから、イルヴァが口にした仮定はあり得ない道だったかもしれない。
「明日の観光も楽しみね」
「そうだね。まあ、2人でゆっくりはできないんだろうけど……」
エリアスは、どことなく残念そうに言った。




