19.大公家での魔法の披露と証明
リズベナー公国の国境を超えて、休憩を挟んで4時間ほど車で走り、アルムガルド大公家の印を車に掲げた一向は、首都アルナーに着いていた。
休憩の時は安全対策のため、散策はできなかったため、首都アルナーでの滞在が初めての街の散策になると思い、イルヴァは内心ウキウキしていた。
普段、さして魔法理論以外のことに興味が薄いイルヴァといえど、国外に出る経験は早々できない。特にリズベナー公国は来たことがなかったので、より楽しみにしていた。
ところが、適当な高級宿まで送迎されるのかと思いきや、車はそのまま大公家に着いてしまった。
屋敷ではなく城と呼ぶに相応しいそこは、中にも数多の建物が存在するが、その中でおそらく来賓用の建物の前まで運ばれた。
「散策できなさそうね……」
「ジルベスター様も、1日ぐらい案内してくれると思うよ」
「もちろんそうだけど、気軽に抜け出せないのが残念だわ」
その気になればイクセルの宿を経由して散策できなくないが、イルヴァたちは特に入国審査も受けていないので、ジルベスターがいないとややこしいことになる。
まだ、ジルベスター手配の宿の近くなら説明もつくので抜け出しても良いかと思ったが、そういうことは出来なさそうだ。
イルヴァが悲しんでいる間に、車が完全に止まった。宿泊者向けの建物の前にずらりと5台止められた車の中から、先に護衛や従者と思われる人間が降りてくる。
イルヴァとエリアスは、おとなしく扉が開けられるのを待って、車から降りた。エリアスが先に降りて、イルヴァをエスコートして下ろしてくれた。
車から降りると、ジルベスターの帰りを出迎えにきたのか、ずらりと騎士や侍女など城仕えの人間が並んでいる。
ジルベスターはその中で侍従か執事らしき人間と言葉を交わしたあと、イルヴァとエリアスの方へやってきた。
「今日はささやかな晩餐で歓迎させてもらうよ。身内だけを呼んでいるから、気軽に来て」
「ご招待ありがとうございます」
エリアスが代表して例を言った。
身内だけのささやかな晩餐とはいえ、大公家ともなれば、正装は必須だ。ドレスは兄の宿にあるので、一度この城で空間魔法を使わなければならなそうだ。
「そういえば、君の荷物と兄上については、今日先ほど、この城の中に迎えているから、心配しないでいいよ」
「え? 兄をですか? ……もしや兄も晩餐に参加を?」
「そうそう。父上が声をかけたから」
イクセルには1週間自由にして良いといったのに、旅行の半分ほどで自由時間がなくなってしまった。イクセルも気ままな人間なので、イルヴァと同じくこの状況を嘆いているに違いない。
しかも兄はかなりの荷物を家に運んでしまったので、正装を持っているだろうか。
「準備もあるだろうから、部屋に案内させるよ。この棟は2人で使っていいから。一応聞くけど、部屋は別でいいよね?」
「ええ」
ジルベスターの確認に頷くと、イルヴァとイクセルが隣の部屋で、兄のさらに隣がエリアスという割り当てになったようだ。
警備の問題で同じフロアにしてしまったことを詫びられたが、この壮大な城では、同じフロアに3人いても部屋が余って仕方がないだろう。それにそもそもこの来訪が決まったのはわずか3日前である。この短期間でよく受け入れ体制を整え、晩餐の用意できたなと感心するばかりだ。
ジルベスターと別れ、一行は部屋に案内されてそれぞれの部屋に入った。兄は後で会えるので、とにかく準備をしなければいけない。
現在すでに午後3時ごろで、晩餐が始まる午後6時まで3時間しかない。荷解きと湯浴みと身支度を考えるとかなりギリギリのスケジュールだ。
「いらっしゃいませ。イルヴァ様」
部屋に入ると、マリアだけでなく、大公城に仕える侍女がマリアの後ろで控えてお出迎えしてくれた。
侍女たちの中で、おそらく彼女たちを束ねる立場の侍女が、すっと前に進み出て、にこやかな笑顔で言った。
「湯浴みと身支度のお手伝いをさせていただきます。マリア様には荷解きと我々の指示をお願いできればと。イクセル様がお持ちだったイルヴァ様のお荷物もすでに運び入れてあります」
確かに荷解きはマリアに任せたい上に、時間もタイトだ。ここはお言葉に甘えて彼女たちに身を任せた方が良いだろう。
イルヴァはマリアに視線を送ると、彼女も承知したと言わんばかりに頷いた。
「ではお願いするわ」
そこからは、嵐のようだった。髪も体も丁寧に洗われて、良い香りのする浴槽に身を沈めると、その間も頭を揉みほぐしたり、背中や脇、腕のマッサージを湯船の中で受けたりした。
おそらく本当はマッサージは湯船の外でやるのだと思うが、時間がないのでまとめたのだろう。侍女服がびしょ濡れになっている気がするが、彼女たちは気にしたようすもなく、淡々と進めていく。
風呂に入るだけで小一時間使ったので、その後はイルヴァも少しだけ身支度を手伝うことにした。
バスローブを羽織ると、髪を風の魔石を活用した温風機で乾かしてくれようとした侍女の手を止めた。
「髪はいいわ。こうするから」
イルヴァは魔法で一気に髪を乾かすと、手櫛で髪が絡まっていないかを確かめた。この魔法は、マリアの前では毎日やっているが、アルムガルド大公家の侍女には衝撃的だったようだ。
「素晴らしいです……! この魔法は私でもできるでしょうか?」
髪をかわそうとしてくれた侍女がはしゃいで言った。彼女はそうやって話しかけながらも、タオルから櫛に持ち替えて、手だけは淡々と動かし続けている。
「マリアにも随分前に聞かれたけど……地味に高度よ。最低でも、水魔法と風魔法の完全式はマスターしていてほしいわ」
大抵の人間はこの話をするとここで挫折する。しかし、大公家の侍女の向上心は、生半可ではなかった。
「水魔法と風魔法の完全式……それをマスターすると、どうしてこんな技が実現できるのですか?」
「まずは水魔法である程度髪から水分を抜くの。ただこれの匙加減が難しくて、抜きすぎるとパサパサになるわ。その後、風魔法を温風にするの。私が書いた論文にもあるのだけれど、完全式だと温度の変数はどの属性魔法でも同じだから、それをいじって温風にして乾かす。風は頭の上から吹くようにしてね。すると、サラサラでツルツルの仕上がりになるわ」
「なるほど。魔法でやっていることもタオルドライして温風機で乾かすことと手順は同じで、それが高速になるということですね……。わずか5秒で仕上がるなら、訓練する価値はありそうです」
そういえば、リズベナー公国は実用的な魔法の開発や研究に余念がないと聞いたことがある。髪を乾かす技術は地味だが、女性には毎日付きまとう問題だ。
公国の気質から言っても、これを習得したいという女性は多いかもしれない。
「滞在中ならマリアにコツを聞いてみるといいわ。私は教えるのは上手くないの。ただ……マリアも結局私がやった方が早くて質が良いと、私の髪にはやってくれないのよね。自分の髪を乾かすのには使ってるらしいんだけど」
マリアの茶色の髪も、傷んでいる様子はなく状態は良さそうに見える。そういう意味では彼女の技術でイルヴァの髪を管理しても良さそうなものだが、彼女の中の美学が許さないようだ。普通の侍女の美学なら、主人に手を動かさせる方が問題な気もするのだが、そこは良いらしい。
「ありがとうございます。あとでマリア様に尋ねてみます」
その後の身支度の時間も、イルヴァが手伝えるところは魔法で補いつつ、優秀な侍女達のおかげで、なんとか大公家の晩餐に出れる状態にまで身支度を整えることができた。
今日のイルヴァのドレスは黒を基調とした袖のないマーメイドのドレスに、金色のショールを両腕にひっかけるような形で合わせたコーディネートだ。エリアスが聖餐にどの格好で来るかはわからないが、念のため、エリアスの色を取り入れることにした。この取り入れ方であれば、イルヴァの顔立ちの雰囲気も損なわないながら、それなりの面積で色を取り入れることができる。
イヤリングは今日つけていたものをもう一度つけて、髪は編み込んでアップにしてもらうことにした。髪飾りは聖餐の際は宝石が付いているか、生花以外は基本的に認められないので、金の簪をさしておく。
「お迎えがいらっしゃいました」
準備が整って一息つく間も無く、扉がノックされた。
入室して良い旨を伝えると、重たそうな扉がゆっくりと開かれた。
扉が開くと、エリアスが外で待っていた。エリアスは黒の燕尾服を身に纏っていた。ネクタイは紅色で、燕尾服の裏地も同じく紅色をしている。イルヴァは相手の色を身に纏ったのは正解だったらしい。
イルヴァはそっと扉の外へと出ると、エリアスが流れるように手を差し出した。
「とても綺麗だ。イルヴァにははっきりした色合いのドレスが似合うね」
「ありがとう。あなたも素敵よ。まあ、あなたは何を着ても似合うんでしょうけど」
エリアスはシュゲーテルが誇る美青年だ。彼に似合わないものはないとすら思える造形美を持っていた。
「ありがとう。イルヴァに褒められるのは嬉しい」
「? 誰に褒められても嬉しいものじゃないの?」
「イルヴァは、社交辞令で褒めることはなさそうだから」
「……それはそうね」
イルヴァは社交辞令という武器を使うことができない。イルヴァにできるのは、思ったことを口にするか、いっそ黙るかだ。
シュゲーテルの社交界では婉曲表現が好まれるし、社交辞令も横行している。そうなると、どれが本心で褒められているのか分かりづらいことも多いのだろう。エリアスの顔は誰もが本心で褒めそうなものだが、本人は素直に受け取りづらいのかもしれない。
お互いを一通り褒めあったところで、2人は揃って晩餐会のある部屋へと案内された。
部屋の中に入ると、すでにアルムガルト大公家の面々は揃っていた。
「ようこそリズベナーへ。イルヴァ・フェルディーン嬢、エリアス・レンダール卿。私はディートリヒ・アルムガルドだ。そして彼女が妻のアマーリアだ」
「お招きありがとうございます。エリアス・レンダールと申します」
「イルヴァ・フェルディーンと申します」
リズベナー公国の主であり、アルムガルト家の大公であるディートリヒは、ガタイの良いヒゲの生えた壮年の男性だった。どこからどうみても男らしく武人である彼は、どことなく中性的な雰囲気のあるジルベスターとはあまり似ていない。共通点はやや淡い黒髪であることぐらいだろうか。
しかし、その隣にいるアマーリアは、性別は違うのにとてもジルベスターによく似ていた。彼女は美しく凛々しくどこか中性的な美人で、男装をしたら麗しの美青年にも見えそうな容貌だ。
サラリとしたストレートの黒髪がよく似合っている。
「ジルベスターは紹介不要だろうが、もう1人紹介しなければ。ジルベスターの隣にいるのが娘のシャルロッテだ」
彼女はアマーリアには似ていない。目鼻立ちのはっきりした美少女で色素薄めだが黒の、ふわふわとした巻き髪がよく似合っていた。
こうしてみると、アルムガルド大公一家は、色素の強弱はあれど、全員黒髪のようだ。
「初めまして。シャルロッテ・アルムガルドと申します。双子の兄がお世話になっております」
どうやらシャルロッテはジルベスターと同い年で、つまりイルヴァやエリアスと同い年のようだ。
「初めまして。こちらこそお世話になっております。エリアス・レンダールと申します」
「初めまして。イルヴァ・フェルディーンと申します」
エリアスの挨拶に続き、イルヴァは簡潔に名前だけを述べた。お世話になっているかどうかはここ数日の関係性なので、お互いに疑わしい状況だ。
かといってお世話になってもいないしお世話もしていないと答えるのが問題になるのは、社交音痴のイルヴァにもわかる。結局のところ、こういう場合は黙るしかない。
気軽な会と言っていたのは本当のようで、大公家の直径の家族しかいないようだった。一通り挨拶を終えると、イルヴァとエリアスも席に案内されて着席する。
そうして一息ついたところで、イクセルが案内されて部屋に入ってきた。
彼は部屋に入った途端、何かに驚いたような表情を見せたが、その後すぐににこやかな笑顔を浮かべて言った。
「お招きありがとうございます。イクセル・フェルディーンと申します。愚妹ともどもお世話になります」
数日ぶりの兄は、にこやかに挨拶した後、イルヴァの隣に座った。
イルヴァの左隣がエリアスで、右隣がイクセルだ。階級で並べるならエリアスの横にイクセルで、その隣がイルヴァになるが、エリアスとイルヴァが婚約者同士であることにも配慮されているのだろう。
全員が席につくと、スパークリングワインと、見るのも楽しいような美しく飾られた前菜が出てきた。
「フェルディーン嬢は、今回の滞在で水魔法による治療魔法を伝授してくださると伺いました。その対価としては足りないのですが、この晩餐と、滞在場所はお礼だと思ってください」
アマーリアはその見た目と同じく麗しい声をしていた。その声に聞き惚れそうになりながらも、イルヴァは自分に話しかけられていることを思い出して返事をした。
「兄のことまで気にかけてくださり、ありがとうございます。水魔法のことは発表済みの論文の内容ですし、大したことはありませんのでお気になさらないでください」
「でも、省略式にしてきてくれたんだろう?」
どうやらジルベスターは、水魔法のことを重く受け止めているようだ。もちろん、あまり治療魔法の使い手がいないこの国で、治療魔法の価値は高いだろうが、魔法の使い方を教えるのはイルヴァでなくてもできる。というより、むしろイルヴァではない方が向いているぐらいだ。
「そうですね。省略式にしましたから、水魔法を扱える人なら扱えるのではないかと」
「……イルヴァは遂に省略式にすることまで覚えたのか」
隣でイクセルがボソリと呟いたのはきれいに無視して、イルヴァは話を続ける。
「明日、お教えすれば良いでしょうか?」
「そうだね。明日、うちの兵士の詰め所に行って、怪我人を並べるから、彼らを練習台にしようと思う。水魔法が得意な魔法師も集めているから、お願いするよ」
「魔車の中でお話したとおり、兄は教えるのが上手いので、兄も同行させて良いでしょうか?」
「……イルヴァと比べたら、誰だって教えるのは相対的に上手いと思うけどね」
先ほどからイクセルが隣で小声で茶々を入れてくるので、イルヴァは顔が引き攣らないように気をつけながら、話を進めていく。
「軽量化魔法もいいんだよね?」
「はい。あれはどちらかというと風魔法の領域ですが……」
「あれは僕が教わって、僕から他の人間に広めるよ」
どうやらあれはジルベスター本人の興味が強かったようだ。特に多数の人間に身につけさせたい、というわけではないのだろう。
「ところで、一つ頼みがあるのだが……」
明日の話がだいたいまとまってきたところで、ディートリヒが申し訳なさそうな表情で切り出した。
「実は……フェルディーン嬢の魔法の実力は城内で懐疑的な声もあってな。ジルベスターが保証するから私は信じているものの、兵士の詰め所に他国の君を案内することに反対の声も上がっている」
つまり、実力を証明してほしいということだろう。
イルヴァとしては構わないが、どうやって証明させられるのだろうか。
「そこで、今から連れてくる者の治療を頼みたい」
「承知しました」
怪我の程度がわからないが、イルヴァは光魔法も扱えるので、おおよその怪我は治せる。それで実力を証明したことになるのかはわからないが、攻撃魔法で証明するわけにもいかないだろうから、ちょうど良いのかもしれない。
イルヴァが承諾の意を伝えると、ディートリヒがさっと手を上げた。すると扉が開かれて、1人の男性が部屋に入ってきた。
30代後半ぐらいに見える男盛りの男性は、右腕が肘から下がなかった。包帯を巻いている様子もないので、そちらは新しい傷には見えない。ただ、顔には真新しい傷があり、光魔法でざっと状態を探ってみると、背中にも新そうな傷があった。
「彼の怪我を治してもらえないだろうか?」
「わかりました」
イルヴァは兵士の様子がわかるように、席をたち、彼のそばに歩み寄った。
「失礼ですが……患部を見えるようにしていただいても? 顔以外に背中と、右の足も引きずっていますね」
イルヴァが指摘すると、男性は驚いたような表情になったが、すぐに元の表情に戻り、その場で上着をぬぎ、右足のズボンをたくしあげた。
「お見苦しくて申し訳ありません。魔物にやられまして」
「魔物に? 利き腕は左ですか?」
「いえ。利き腕がなくても、後輩の指導に困りはしないので、現場にも出ています。ですが、思ったよりも上位の魔物が出て、手こずってしまい……」
単なる好奇心で質問をしてしまったが、よく考えるとリズベナー公国の魔物討伐事情に踏み込むのも、この兵士の事情に突っ込むのも良くなかったかもしれない。
「彼はワイバーンとの戦いで利き腕を無くしたのだが、腕の良い兵士で、今でも現場に出てもらっているんだ」
質問を重ねたからなのか、ディートリヒが簡単に彼のことを教えてくれた。その話ぶりを聞いている限り、彼の傷は跡形もなく治っても問題なさそうだ。
イルヴァの腕を信用せずに、適当な罪人を連れてきた可能性も考えたが、彼は拘束もされていないし、魔法契約に縛られているようにも見えない。また、イルヴァはある程度悪意を感じとるのが得意だが、そういった様子も見られなかった。
ディートリヒの様子からしても、この兵士のことを信用しているように見える。
「では、まずは省略式にしてきた水魔法による治療を行いますね」
イルヴァはそう宣言すると、まずは顔、背中の切り傷と、右足の捻挫を治した。大した怪我ではないので、瞬く間に治療は完了した。
直された本人は思ったより早くて驚いているようだった。言葉を失っている。
「この程度の切り傷、捻挫ぐらいまでなら水魔法で治せます」
「これは素晴らしい!」
「……ありがとうございます。あっという間でした」
ディートリヒが感嘆し、兵士がお礼を言って下がろうとした。
「待ってください」
「?」
「右腕を前に出してください」
兵士は怪訝そうな表情をしていたが、イルヴァに言われた通り、腕を前に突き出した。
「水魔法では欠損は治せませんが、光魔法なら、このように治ります」
そして、イルヴァは、兵士の腕を光魔法で再生させ始めた。
欠損部分の再生は普通の魔法よりも難易度も高ければ時間もかかる。10秒ほどかけて白く眩い光とともに、腕が徐々に再生していった。
「終わりました。動かせますか?」
「こ、これは……! 手が動く……!」
兵士は右手をグー、パー、と動かした。いつ怪我をしたのか知らないが、久々の感覚のはずなのに、よく動かせている。運動能力が衰えていると、再生させた直後は動かせない人もいるのだが、利き腕を失っても現場に立っているような兵士はさすがの身体コントール力だ。
「ところで、こんなことで城内の人は納得するのでしょうか?」
イルヴァが兵士から視線を外して周りをみると、イクセル以外の全員が驚きに満ちた表情でこちらを見つめていた。なぜか全員が言葉を失っているようだった。
「……やっぱり一般的な魔法のレベルを、教えておくべきだったなあ」
イクセルがのんびりとそんなことを呟いた。




